【第五部】縁 二章 突き抜けたその先 5
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その夜、恭介もゲストハウスに残り、翌日を迎えることとなる。
恭介だけではなく、侑太と悠斗、白井らも、それぞれ校内に泊まり込んだ。
侵入してきた男は、秘密裡に警察へ引き渡された。
警察は、平野聖子の活動に反対するグループのメンバーであろうという見解を述べた。
簡単な事情聴取を終えた恭介が、ロビーを通りかかると、白井が手を振っているのに気付いた。
悠斗と侑太もいた。
悠斗が「ほら」と言って、恭介に炭酸飲料の缶を投げる。
三人とも、聖子が襲われかけたことを知り、些か緊張している。
「祖母ちゃん、ケガしてないか?」
侑太に聞かれ、恭介は頷く。
そして、ポケットティッシュでプルトップの飲み口を拭き、咽喉を潤した。
「け、警備会社の手落ちだろ、こんなの」
白井は憤慨している。
「悪意を持って襲って来られたら、守るのって難しいな、学校は」
恭介のため息。
「まあそうだな。特に相手がアイツだし」
侑太の指す『アイツ』とは、勿論仙波のことである。
「他に、何かすることあるか?」
悠斗の質問に恭介は考えながら答えた。
「考えられる対策は取ってあるけど、まだ、足りないような気がする」
夏の日、恭介が対抗手段を見せたことにより、ドローンによる攻撃の可能性は低い。
低周波による攻撃は、校内のスピーカーにそれを打ち消す周波数を流すことで、回避できるはずだ。
講演会が行われるホール全体には、防虫効果の高いネットを張り巡らせている。
ホールの入口には、金属探知機を設置し、SPを増員する。
所詮、高校生レベルで考えられることはこの位だ。
誰に向かってということもなく、恭介は言う。
「あと、何が必要だろう」
「音と香り!」
四人は一斉に声の方向を見る。
「瑠香さん!」
そこには、サングラスとヘッドフォンを付けた瑠香が立っていた。
「良かったあ、間に合った!」
いつもと変わらない瑠香の声に、恭介は安堵する。
「る、瑠香さん、え? どうして、あれ?」
白井は、瑠香の心配をする綿貫を、ずっと心配してたので、上手く言葉が出て来ない。
「ごめん、詳しく話をする時間が勿体ないので、手短に言う」
瑠香は片耳だけ、ヘッドフォンをはずし、四人の顔を見回す。
その視線は、侑太のところで止まる。
「あなた、ひょっとして、新堂家の?」
晩夏の事故の時、瑠香は侑太の顔を、あまりよくは見ていない。
侑太も近くで瑠香を見るのは初めてだった。
「はい。俺が新堂侑太です」
「ちょうどよかった! これでなんとか出来る」
「音と香りって、瑠香さん、どういうことですか」
悠斗の質問に答える代わりに、瑠香は小さなアトマイザーを取り出し、数回プッシュした。
「まず、これが香り」
柑橘系とミントが合わさったような香りがした。
侑太には覚えのある香りだ。
母、香弥子がよく付けていた、香水に似ていた。
「仙波の攻撃は、銃火器だけじゃない。アイツの得意分野は蟲。新堂家とそれは一緒。
厄介なことに、目に見えない大きさの、寄生虫を使う。
この香りは、その蟲たちが嫌うもの。これを噴霧器で出し続けて!」




