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【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第五部

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【第五部】縁  一章  流れる翳り 11

11


瑠香のいる室内には、小さな音量で音楽が流れていた。

背中がムズムズするような、微弱な不快感のあるメロディ。


仙波の腕を振りほどき、瑠香は拳で口を拭った。


「無駄だ、仙波。お前の蟲たちは、私には効かない」


瑠香の拳には、唾液に混じって、こよりの様な細い虫が、何匹も付いていた。


「さすがですね。残念でもある。受け入れていただいた方が、幸せですよ、宗主」


瑠香は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一気に飲み干す。

体内の邪気を祓わんばかりに。


「知るか。だいたい仙波、いや壬生か。お前の蟲はアルコール耐性に乏しい種だ。酒が飲めなくなるようなモンはいらない」


仙波は笑顔のまま、壁掛けのモニターの電源を入れる。

映しだされた画像を見た瑠香の目が、細くなる。


あの日、あの当時の映像。


国内では、単なる事故として片付けられた父の死。


そして、母と弟の死。


画面には、血まみれの状態の父の死体が映っている。

こんなもの、どこから入手したのだろう。


「あなたは不思議に思わなかったですか。なぜ、あなたのお父上が、砂漠の国の教職に就いたのか」


次の画面には、破壊された日本大使館と、運び出される死者の群れ。


「なぜ、宇部家当主ともあろう方が、いともたやすくテロ攻撃で、命を落としたのか」


画面には、涙を流す少女の顔が大きく映し出されている。


あの時の、瑠香。


細くなった目に青い光をたたえて、瑠香は言う。


「何も不思議ではない。砂漠の国々で反政府デモが頻発した時、父はその指導者が、虫使いの一族と知った」


画面の少女の背後に、写り込んでいる人影。


「そもそも虫使いの一族といっても、壬生、新堂、宇部それぞれ、得意な種は違う。


壬生と新堂は寄生虫を植え付け、寄生された人を使役する。そのうち、新堂は海に生息する生き物たちも使えるようになった。外道な呪術と合わせてだ。


だが、宇部は昆虫がメインであり、術式も旧態依然としていた。


父は、それを変えたかった。

砂漠の節足動物を、取り込みたかったのだ」


そう

あの頃、私に与えられたペットは、蠍だった。


「あなたのお父上のその考えは、危険だと判断されました。当時の政府に。そこで政府お抱えの虫使いに、宇部家排除の指示が出た」


陣頭指揮を執ったのは

秦一族の末裔

畑野景之。

当時、内閣情報調査室調査官。


瑠香の後ろに写り込んだ、人影。


瑠香の頭がぐらっと揺れた。


珍しい。

酒に酔ったか。

室内に流れる音楽が、遠く近く聞こえる。


「壬生の蟲は粘膜からヒトの体内に侵入する。脳の海馬を壊して、人間性も低下させる。


手っ取り早く寄生させるなら、粘膜同士の接触。要はセックスですね。しかし効率は悪い」


瑠香の耳元で聞こえる、裾を引きずるような音。


「そこで私は考えました。大量に寄生させる方法を。

そして見つけました。

いや、正確に言えば、この体の持ち主だった、岩崎江一が研究開発した記憶を辿りました」


瑠香の脳内にざわめく音の数々。


「岩崎江一が開発したのは、軟骨伝導によるモバイル機器。

ただし、タッチの差で別の大手が世に出した。


結局売り出せはしなかったが、開発過程で聴覚と脳の働きが鮮明になった。

そこで私は蟲の寄生方法を考えついたのです。


音波に乗って、耳に寄生させることを」


なるほど

耳の中も粘膜だ

寄生する先は、三半規管か、渦巻管か…


そのための、CD付の絵本。

意味不明な動画配信


そして

音楽を流した部屋での、長時間の拘束か。


瑠香は、立っていられないほどの眩暈の中で、仙波の言葉を認識した。


「おわかりですね、もうあなたの内耳には、私の蟲たちが棲みついています」


ひっきりなしに聞こえてくるノイズ。

さすがの瑠香でも、耐え難い苦痛。


加えて、耳元に近付いてくる、大型のトンボの飛翔音。


窓から夕陽が射している。


トンボを追いかけて、走り続けた幼い日の自分を思い出す。

過去の記憶が蘇るとは、いよいよヤバい。


これまでか。


いや、仙波の計画を伝えなければ

あいつら

まともに闘ったら、全滅する…


トンボの羽音は益々大きくなる。


窓に影が写る。

幻聴の上に、幻視かよ。


まさか


窓の外の影には、実体があった。

ヘリコプターが窓の近く、旋回していた。


「リトルバード!?」


旋回するヘリは、軽汎用・攻撃強襲型のもの。

瑠香は慌てて、うつ伏せになる。


瞬間、激しい乱射音。

窓ガラスはキラキラと、細かい破片に変わった。


薄れていく瑠香の耳に

「瑠香たーーーん!」

という声が届いた。



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