【第四部】 追跡 四章 意識の狭間 4
4
その日の午後、学園の美術部宛に宅配便が届いた。
印刷に出していた絵本が、仕上がったのだ。
恭介と白井そして綿貫は、放課後その封を解き、本を取り出した。
最初に手にした綿貫は、ほおっとため息をつき、絵本を抱きしめた。
「きれいな仕上がり」
綿貫の繊細なタッチのパステル画が、見事に紙面に写っていた。
「思ったより早かったね」
白井も掌で表紙に触れながら、嬉しそうだった。
「データ入稿で、オンデマンド方式だから、このくらいの冊数なら早いね。ISBNも取得したし、このままネット通販で、販売も出来るよ」
恭介の話に頷きながらも、白井はなんのことか、よく分かってはいなかった。
分からないなりにも、パラパラと頁をめくると、白井は「あっ」と声を出す。
「この本、なんか、気持ちいい!」
「ヒロが必死に念力込めたからじゃね」
「え、いやそんなこと」
恭介がそう言うと、白井は顔を赤くした。
綿貫が表紙をじっと見て、恭介に聞く。
「ねえ、作者の名前、『KGA』って?」
「ああ、狩野学園、美術部の頭文字。美術部だけ、アートクラブって読むことにした」
「美術のB使うと、KGBになるもんな」
せっかくだから、高等部の図書室にも、寄贈することにした。
三人で図書室に入ると、司書の女性と亜由美が、何か話をしていた。
「ええ、自費で絵本作ったの? みんなでお金出して? スゴイですねえ理事長、今どきの高校生は」
司書は亜由美に同意を求める。
「ホント! いろいろビックリしちゃうわ。見せて見せて」
学園の新理事長になった亜由美を初めて間近で見た綿貫は、緊張して「どうぞ」と差し出した。
二人は扉絵からじっくり、その絵本を読み始める。
…………
『天使と魔女のさがしもの』
ねえ、知ってる?
天使さんと魔女さん、お友達なんです
月の光がキラキラと
輝く夜のお話
天使さんと魔女さんは、雲のお部屋でゲームをする
お茶飲みながらゲームする
天使さんが好きなのは、ハチミツ入りのミルクティ
魔女さんが好きなのは、ジャムの入ったローズティ
二人はたくさん、石を持ってる
天使さんの持つ石は、水晶、ヒスイ、ダイヤモンド
魔女さんの持つ石は、オパール、オニキス、エメラルド
二人はそれぞれ自分の石を
地上にパラパラ落とします
誰が拾ってくれるかな
いくつ拾ってくれるかな
地上の人たちが拾ってくれた
石の数が多い方が勝ち
二人だけのゲームです
…………
亜由美は、途中まで読んだところで、いきなり三人に向かって言った。
「これ、せっかくだから、大々的に売り出しましょう」
恭介は驚いた。
元々絵本を流布するために、SNSあたりで、地道に宣伝をしていくつもりではあった。
だが、亜由美が全面的に協力してくれるなら、もっと早く広めていける。
綿貫は「きゃっ」と声を上げる。
「いいんですか、理事長」
恭介の問いに、亜由美は力強く答えた。
「もちろん! 学園にとって、素晴らしい宣伝になるわ」
それにね、と小声で亜由美は恭介に言う。
「ちょっと感動しちゃった」
数日後、高校生が自分たちで絵本を作成し、出版にこぎつけたという記事が、いくつかの新聞に取り上げられた。




