表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第四部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/243

【第四部】 追跡   四章  意識の狭間 3


パレイドリア現象、というものがある。


例えば、立ち昇る線香の煙が人の姿に見えたり、飼い猫が「おはよう」と言ったように聞こえたりする、視覚や聴覚が、実際とは異なる認知をしてしまう現象である。


恭介も、窓に突然現れた人影を見た時に、この現象を疑った。

何よりも、反魂とか骨を集めてだとか、現世と違う次元の文献を読んだあとだったため、意識が霊的な方へと向かっていた自覚があった。


更に言えば、修行が進んだ白井が、恭介の住まい全体に、結界を張ってくれていた。

「ばあちゃん程じゃないけど、ふらついてる邪気くらいなら、多分入れないよ」

お試し程度だけどな、と笑いながら白井は言っていた。


となれば、結界を越えて現れた人影は、強力な邪気なのか。

あるいは、そもそも邪気ではないのか。

分からないながらも、恭介は灰色の人影に向き直る。


超常現象に何回も立ち会ってきた恭介には、既に恐怖心はなかった。


影は漂いながら恭介に近付く。

灰色の顔に陰影が現れ、目と口の辺りは黒色の穴となる。

その黒い口が動いた。


――…して


なんだ

何か訴えたいことがあるなら、はっきり言ってくれ!


――か…して、くれ


脳内に響く人影の言葉は、その姿と同じように揺らいでいた。


――か、え、し、て、


返して?

何を?


――ほ、ね


ほ、ね

骨!


「あの骨は、お前のものか!」


人影の真っ黒い目が、僅かに動いたように見えた。

そのまま、文字通り煙が消える如く、人影はいなくなった。


あとに残ったのは、微かな香り。


骨の持ち主は、おそらく男性だったのだろう。

薄ぼんやりとした輪郭と、眼窩の大きさくらいしか分からなかったけれど。


ただ


どこかで見た顔つき

誰かに似ている

誰だ


恭介は床に座り込みながら、そう思った。

スマホが震える。

悠斗からのメッセージだ。


「ちゃんと夕飯食ったか?」


俺の母親か、おまえ


恭介は苦笑する。

悠斗は週に何回か、夜、恭介に食べ物を持ってくる。

今週は、恭介も悠斗も忙しいので、学校でもほとんど会っていない。


「大丈夫だよ」

返信しながら、そういえば夕食を摂っていなかったと、恭介は思い出す。


「明日、なんか持ってく」

きっと、悠斗には、恭介が「ちゃんと」食べていないことが、バレているのだろう。

スマホの向こうで、心配そうな顔をしている悠斗を想像し、恭介は微笑した。


翌日。


学園全体、大規模な改修工事が始まっている。

藤影亜由美の指示により、全校舎がバリアフリー化される。


恭介が校門をくぐると、朝からヘルメットを被り、図面を片手に現場監督と話をする亜由美がいた。

恭介を認めると、小さく手を振る母。

遠目からでも分かる、目の輝き。

ヘルメットの影で、一瞬、亜由美の瞳全体が、黒く塗られたかのように見えた。


そうか!


恭介は理解した。

昨夜の人影の顔は、亜由美に似ているのだ。


教室に入ると、白井が心配そうに恭介の顔を覗き込んだ。


「目が赤いぞ、キョウ。何かあったん?」


「え、ああ。ちょっと寝不足だ」

「まさか! エロゲのやり過ぎか? いやいや、キョウに限って…」


白井の明るさは、恭介の救いだ。


「ヒロ、実は…」

恭介は昨夜の出来事を白井に伝えた。


「えっ、やべえ、俺の結界、効いてないのかな」

「どうだろ。まあ、特に実害はなかった。すぐ消えたし」

「ちょっと、ばあちゃんに聞いてくる!」


昼休み、白井は恭介に柏内の話を語った。


白井の造る結界は、強い邪気邪霊を撥ねつけるが、網の目が粗いので、微弱なもの、悪意の少ない浮遊霊などは、網目から入ってしまうのだという。

おそらく昨夜の影は、その類であろう。


なるほど、と恭介は納得する。

となると、亜由美にも、聞かなければならない。


亜由美の兄、岩崎江一氏は


今、どこにいるのか、と。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ