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第四部

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【第四部】 追跡   三章  交差する光と闇 3


事故から一ヶ月。

藤影侑太は退屈な入院生活を送っていた。


国内で最高峰と言われる治療を受け、まるでホテルの様な個室での日々。病院食も不味くない。

ただただ、暇である。


たまに、仙波か藤影家の使用人が顔を見せに寄るだけで、見舞い客はゼロ。

先日も、養父の創介が立ち寄ったが、二言三言喋っただけで、すぐに帰った。


悠斗、もう一回くらい来てくれないかな

恭介でもいいぞ

てか、俺って、人望なかったのか、これほど…


看護師はきびきびと日々のケアを行うが、どうみても年配者ばばあ

清拭をしてもらった時に、冗談でシモの世話をお願いしたら、翌日からは男性看護師が担当になっていた。


昨日、午後の検温の時に、

「明日から、この部屋に、もう一人、患者様がいらっしゃいます」

そう言われた。


「ここって、個室じゃなかったっけ…」

「特別室ですが、個室ではありません」

返事はそっけない。美人だが、やはり年配の看護師。


そして今日、新しくベッドが運ばれ、廊下から話声が聞こえてきた。


「おお、元気そうじゃないか、侑太」


車椅子に乗り、入室してきた人が侑太に声をかける。


えっ

この声って

「親父!?」


入室者は、新堂陽介。侑太の実父であった。


いまだ頭にはネットが被さり、片腕には点滴のチューブが繋がっている陽介だが、転院が出来るくらいには回復してきた。

息子、侑太の事故を知り、陽介は自ら願い出て、同じ病院に移してもらったのである。


侑太に「親父」と呼ばれ、陽介の目は少し潤んだ。

事故の後遺症で、感情のコントロールが、下手になっているのかもしれない。


陽介は車椅子からベッドに移乗し、看護師のバイタルチェックを受けていた。

その姿を侑太は隣で眺めている。


親父、あんなに腕、細かったか


お見舞いに、誰も来ないと不満に思っていた侑太だが、自分も、陽介の見舞いに行っていないことを思い出す。陽介が交通事故を起こして、危篤という知らせは届いていた。


だが、あの時、香弥子は冷笑したのだ。

「仕方ないわね、寿命でしょ」


生まれた時の戸籍上では、侑太は新堂陽介の長男だが、香弥子は侑太が物心ついた頃から

「あなたの本当のお父さんは、藤影創介よ」

そう言い続けた。


だから、侑太は陽介に懐かなかった。

どこかで陽介を小馬鹿にしていた。

それでも陽介は、侑太に優しかった。

他人に暴力を奮ったときも、陽介があちこちに頭を下げて、ことを治めてきた。

従弟の恭介に、ケガを負わせた時でさえ。


その日の夕食は、親子並んでベッドの上で、病院食を食べた。


侑太は普通の食事だが、陽介の食事は、お粥と細かく刻まれたおかず類。

「飲み込むのが、あまり上手くできないんだ」

陽介は笑った。

弱々しい笑顔だった。


「お母さんのこと、許してくれ」

消灯時間後、唐突に陽介が言う。


許すも何も、もう香弥子はいないよ、親父

侑太が思いを言葉にする前に、陽介は重ねて言った。


「お母さん、香弥子の死亡が確認された」


「そう…」

侑太はそれだけ答えた。


「知っていたのか?」

「俺の目の前で、…焼け落ちたから」


爆発事故後、警察や消防の捜索により、体育館の床下から、炭化した骨の一部が見つかった。

その骨に、絡まる様に残っていた指輪が香弥子のものと判明し、新堂香弥子は死亡と認定された。


「お前にも、謝らなければならない」


今更、何だよ


「お前はどう聞いていたかは知らないが、侑太、お前は間違いなく、俺の息子だ」


マジかよ

香弥子は言ってたぞ

結婚できないなら、せめて子どもが欲しいからって、泣いてすがって藤影創介に抱いてもらったとさ


「香弥子は、普通であれば妊娠は出来ない体だった」

「えっ…」

「俺はな侑太、どうしても自分の子どもが欲しかった。香弥子に産んで欲しかった」


この陽介の強い想いが、当時では国内でまだ症例が殆どなかった高度不妊治療に踏み切ることとなる。すなわち、顕微授精。


ただし、その技法を行うことを、陽介は香弥子に伝えていない。

その時に、兄の創介に協力を仰いだ。

のちのち、創介が、息子に対して持つ疑念も、この時に生まれたのだ。



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