【第四部】 追跡 三章 交差する光と闇 2
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先だって、畑野は藤影創介に言った。
自分に届いた謎の封筒。
身の周りの不可解な事件。
合理的に説明できないと言う創介に対し
「それは、壬生一族の呪いだろう」
畑野が恭介に語った内容は、恭介の父にも話した。
壬生の名を聞いた瞬間、創介の顔色があからさまに変わった。
「壬生…」
「そうだ、お前に思いを寄せていた、壬生千波は、壬生家最後の呪術者だった」
創介は、しばし無言で酒を飲んだ。
「壬生の呪いは強力だった。人の遺伝子すら、変えてしまうほどに」
「遺伝子を変えるって、健さん、それはあんたの研究テーマの…」
「そうだ。人の強い念、呪いや呪術が、放射線や薬物と同様に、遺伝子に影響すると知り、愕然としたよ」
「壬生、千波は、亡くなったのでは?」
「どうだかな。行方不明のままだが。お前の息子と同じく、な」
息子の話を出されて、創介は眉がぴくりと動いた。
それから、創介は壬生千波のことには触れず、自分と息子のことを畑野に語った。
創介の息子は、畑野と父の関係をまだ知らない。
知らないままに、畑野に尋ねた。
「壬生一族の人たちは、今はどうしているのですか?」
「近年まで残っていた術者は二人。だったが、二人とも、行方不明。そのうちの一人が、おそらくは絵本の作者だ」
恭介の表情が動く。
「母は、作者はセッコク島に所縁がある人、と言っていました。畑野さんは、作者をご存じだったのでしょうか」
「直接は知らない。だからこの先は、お前が調べるべきだ」
「それで、俺に島を買え、ですか」
「そうだ。お前の成すべき道が、そこに繫がっている」
畑野はベランダに出て、タバコを一本吸った。
「呪いは、いまだ解けていないからな」
「あら、おじいちゃん来てたの」
隣室のベランダから、瑠香の声がした。
「今、そっち行くね」
今夜は一緒に飯でも食おう、そう畑野は言った。
「じゃあ、悠斗も呼ぼうよ! ヒロくんも!」
壬生一族の最後の術者は、行方不明と畑野は言った。
ところが壬生の呪術自体は、現存していた。
その呪術を使役できる人間は、今も機会を狙っている。
藤影創介の心身を、完璧に折る機会である。




