【第四部】 追跡 二章 先人の涙 11
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「新しい絵本を作る!」
恭介は、悠斗や白井にそう宣言した。
読んだ人が皆、幸せになれるような、そんな絵本を作る。
そして、その絵本を世の中に広めると。
「絵は、綿貫さんに描いて欲しい」
白井は綿貫に恭介の依頼を伝えたあとで、浮かんだ疑問を口にする。
「絵本を作って売ったら、元の絵本の呪いって晴れるの?」
「絵本全体に、呪い解除の護符を忍ばせるつもりだ」
「護符って、ああ、ばあちゃんのお札みたいな…」
「そうだな、柏内さんにもお願いしよう!」
ばあちゃんにも?
ということは
ほかに、お祓いできる人って、いたっけ
思考を巡らす白井の頭に浮かぶ、一人の女性。
「あっ!瑠香さんにも?」
巫女姿の瑠香が、怨霊と化していた香弥子を葬ったのは、白井も目の当たりにしていた。
凛とした佇まいと、朗々と発せられた祝詞。
あの時、確かに瑠香は、何かを祓っていた。
「ああ、そうだね、瑠香さんもできるか」
瑠香さん、も?
さらに、誰かいるとでも?
「瑠香さんを育てた人がいるんだ。あの人なら、きっと出来る」
そういえば、絵本を恭介に渡したのは瑠香だったが、その瑠香は「おじいちゃんから」と言っていた。
「何より、元の絵本の『天使の願い事』を描いた人は、セッコク島に所縁があるそうだから。あの島のことをよく知っている人が必要だと思う。セッコク島の守り人なんだ、瑠香さんのおじいさん、畑野さんは」
「島へ行くのか、キョウ?」
それまでじっと聞いた、悠斗が恭介に聞く。
「遠いからなあ。飛行機で行って、さらに舟で島へ渡って」
うーん、と悩みながら恭介は答える。
閃いた、というように白井が言う。
「じゃあさ、その、瑠香さんのおじいさんに、こっちへ来てもらうとか」
「あ、それ、いいかも」
夜更けまで三人、あれやこれやと話を続けていた。
綿貫からは絵本の製作を快諾する、メッセージが届く。
男子高校生たちは、歓声を上げた。
同じ頃。
島の守り人、畑野健次郎は、恭介たちの住む関東にやって来ていた。
久しぶりの東京である。
畑野は何年かに一度、都市部を訪れていたのだが、ここしばらくは来る機会がなかった。
元々は都内の大学で、遺伝子変性の研究をやっていた畑野である。
都心の指定された場所にも、慣れた足取りで向かう。
珍しい相手からの誘いであった。
ただ、誘われた理由は、およそ検討がつく。
ただ純粋に、会ってみたかった。
会って、話がしたかった。
奴も、昔の思い出語りをしたいのか。
自嘲気味に畑野は笑う。
いや、そんなことのためだけに、アポイントを取るような奴じゃない。
畑野が向かうのは、有名ホテルの最上階。
夜景の見えるバーで、一人の男が待っている。
待っているのは恭介の父、藤影創介その人である。




