【第四部】 追跡 一章 科学と魔術 18
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狩野学園第二体育館の爆発は、地下に溜まったガスに、何かが引火したため発生したと発表された。
たまたま居合わせた生徒会長の藤影侑太が、危険を顧みず鎮火にあたり、大火傷を負ったという報道もなされた。
ただし、侑太の母、香弥子についての言及は、全く見られなかった。
恭介と悠斗は、救急搬送される侑太に付き添った。
侑太は、体の三割以上がⅢ度の熱傷の上、右眼球に重篤な損傷を受けたため、専門病院での治療となった。
白井と瑠香、綿貫、島内らは、一足先に体育館を抜け、瑠香の主導でそれぞれの傷を癒した。
島内は、記事を書くと言って、すぐに帰った。
「瑠香さん、スゴイ人だったんですね」
白井が体のあちこちに、湿潤療法用の絆創膏を貼りながら、瑠香を尊敬の眼差しで見つめる。
「え、なんのこと?」
「だってほら、宇部とか秦とか、弓も鳴らしてたし…」
「ああ、それ!」
瑠香は軽やかに笑う。
「パクリとはったり! 高校時代は体育で弓道やってたけどね」
秦河勝や大生部多を主人公にした、アニメがあると瑠香は言った。
パクリでも何でも良いと、白井は思った。
瑠香がいなければ、綿貫を救うことは、まずできなかった。
その綿貫は、瑠香の部屋のシャワーを借りていた。
心臓の鼓動は、今だ速い。
悪夢かと思うような出来事だった。
綿貫の体を突き刺すはずだった刃は、たまたま貰ったペンダントが防いでくれた。
たまたま?
綿貫は、白井の祖母、柏内のセリフを思い出す。
「あなたから、ステキなお花を貰ったお礼に、私からもプレゼントです」
薄紅の天然石のペンダントだった。
「お守りになりますよ」
確かに守ってもらった。
偶然なんかじゃない。
あとでお礼を言わなければ。
でも
その前に、まずお礼を言わなければならない人がいる。
綿貫が瑠香から借りた服に着替え、白井と瑠香の元へ行く。
白井は綿貫に気付き、声をかけた。
「だ、大丈夫?」
綿貫は笑顔で答えた。
「うん。ありがとう!」
その笑顔だけで、十分だった。
すべてが報われたと、白井は思った。
その頃。
藤影創介に帯同していた仙波は、一足先に日本に戻ってきた。
空港に着くと、仙波の腕時計のベルトが、いきなり切れた。
ああ、逝ったか。
仙波は直感した。
その時計は、香弥子から受け取ったものであった。
仙波の武装手段を、簡単に無効化した男。
さらには、当代屈指の霊能者がついている。
あなどれない。
実にあなどれない奴らだ。
だが、仙波にも野望がある。
邪魔されるわけにはいかない。
科学でも、魔術だけでも、難しい。
あの恭介たちを退けることは。
本番は秋。




