表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第四部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/243

【第四部】 追跡   一章  科学と魔術 10

10


白井が、綿貫の救出に突入する数分前。


白井と瑠香は、車から降り、学園のはずれに建つ、体育館を見据えた。

運動部の選手が基礎トレーニングを行うための、第二体育館であると悠斗が言っていた。


校内の木々は晩夏の風で、触手のように動いている。

三階建ての校舎より、高い屋根が見えた。

その屋根の下、非常灯に似た、赤色せきしょくの窓が闇に浮かんでいる。


「あそこね」

瑠香のセリフで、白井は唾を飲み込んだ。

駆け出そうとする白井を瑠香が止める。


「ヒロ君、そのカッコで行くの?」

白井はTシャツとジーパンといういで立ちだ。


「え、何かまずいっすか?」

瑠香は自分のバッグから、ごそごそ何かを取り出した。

「相手は海の呪い屋だからね。念のため」


瑠香はビニールの雨合羽を、白井に着せ、校庭に落ちている石をいくつか、白井に持たせた。

「これも念のため。石には、柏内さん直筆の、お札を巻いといて」

白井はコクコク頷くのが精一杯で、両手で自分の頬を叩くと駆け出した。


「荷物持ったら、私もすぐに追いつく」

瑠香の車の後ろに、もう一台の車が停車した。


そうして白井は、第二体育館の階段を駆け登り、綿貫と香弥子の姿を、体育館の壇上に認めた。壇上は真っ赤な照明で彩られていた。


白井は綿貫にまたがる香弥子に、石を投げつけた。

綿貫の体から、香弥子が離れた。


今だ!

何も考えず、白井は走った。綿貫の名を叫びながら。


あと一歩で壇上だ!

白井が手を伸ばした瞬間、白井の足元が割れた。

白井は体育館の床の割れ目から、落下した。


ああああ

なんで!

俺、どうして!


暗闇の中、自分が落ちていることを、白井は理解した。


壇上の香弥子は顔を押さえながら、甲高い声で笑う。

「うひゃひゃひゃひゃ。どこの小僧か知らないが、バカだねえ。この体育館は地下にプールがあるのよ。こことの落差、七メートル。うまく飛び込まなければ、落ちた瞬間、首の骨が折れるよ」


香弥子の言葉に、綿貫は絶望する。

ザボンと、何かが水に落ちたような音が聞こえる。


「ああ、どうにか水中に入ったようだね。でも、これからが本番さ。プールには、腹を空かせた、あいつらがいるからね」

香弥子が唇を舐めた。


白井は体勢を立て直し、下手くそながらも暗闇の水面に飛び込んだ。幼い頃から、山間の源流で水遊びをしていた恩恵である。


水面に浮かんだら、落ちて来た場所から射す灯りが見えた。

そこへ向かって泳ぎ始めると、白井の首筋がざわっとした。


灯を目指して泳いでいるのは、人間だけではなかった。

水面に波を作りながら、文字通り、蛇行してくるモノ。

白井の顔の前で、そいつは首をもたげる。


蛇か?

いや、こんな形の蛇は知らない。

三メートル? もっと長い。

だいたい何匹いるんだ!


そいつは大きく口を開ける。

錐のような歯が並ぶ。

慌ててよけた白井の腕に、そいつは容赦なく噛みついた。

白井の絶叫が階下から響く。

綿貫は目をぎゅっと閉じた。


「あはははは! 私のウツボは大食いさ。だって、私の寄生虫を分け与えてあるからね!」


その時である。

香弥子の笑い声をかき消すような、重低音が体育館を包んだ。

その音は階下の水面にも波紋を広げる。

白井の腕や足に噛みついていたウツボは、のたうちまわるように白井から離れた。


香弥子は叫ぶ。

「止めろ――! その音を鳴らすな!」


「止めるのは、お前だ!」

体育館の入口に、大きな弓を構える瑠香の姿があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ