表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第四部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/243

【第四部】 追跡   一章  科学と魔術 9


「お嬢さんは寄生虫ってご存じかしら」

香弥子はうっとりとした表情で、綿貫を見下ろす。


綿貫の周囲を取り囲む無数の蟹は、ざわめきながら綿貫の体にハサミを構える。


「寄生虫って、ほかの生き物の体に棲みついて、生きているのね。棲みつかれた側は、その虫のため、病気になったり、時には死んでしまうこともある。私の体にも、いるのよ。珍しい珍しい、寄生虫」


香弥子の言葉は、催眠効果でもあるかの如く、綿貫の意識を沈ませていく。


「ねえ、これを見て」

香弥子はこぼれそうな胸の谷間を、綿貫の前に突き出す。

谷間の上部、胸骨の上あたりに、浮かぶ渦巻模様一つ。


「ここに寄生しているの。私の虫」

綿貫の目には、香弥子の渦巻模様が、蠕動したているように映った。


「これは、糸状虫しじょうちゅうと言われるもの。普通は、この虫と長く共生することは難しい。でも、私は、私の血は特別だった」


香弥子の顔は恍惚感に包まれる。

「この虫は、どんな願いも叶えてくれるわ。お金も名誉も恋愛も」


―お前の願いは叶うだろう。どんな願いも、ね―


香弥子の養母が、かつてそう語った。


「ただね、願いを叶えるためには、捧げなければならないの」


香弥子は綿貫に顔を近付け、微笑んだ。

その口元は空間に亀裂を生んだような、黒い半円だった。


「お嬢さん、あなたの血を頂戴。大丈夫。あなたの体は、一片も無駄にならず、海の生物の贄になるわ」


香弥子は両手に光るものを持ち、綿貫の胸をめがけて振り下ろす。


綿貫が目を瞑り、香弥子から顔を背けた時、彼女の首筋にもキラリと光るものが現れた。

体を横たえていたために、隠れていたペンダントだ。

そのペンダントヘッドは、香弥子が振り下ろした刃先を防ぐべく、綿貫の胸を守った。


ガラスが割れる音がした。

同時に「ぎゃああ!」という叫び声。

やいばを弾かれた香弥子が思わずあげた悲鳴だった。


「なぜ、お前ごときが、この玉を!」


憎悪をむき出しにした香弥子の眼。

その眼の瞳孔に向かう毛細血管は、あたかも糸状の赤い虫のようであった。


綿貫の目の前に、砕けたペンダントヘッドのかけらが転がる。

柏内からもらったプレゼントだ。

「お守りよ」

どこからか、柏内の声が聞こえた。


香弥子は綿貫の首に爪を立てる。

「こうなったら、頸動脈を引きちぎる!」

香弥子の怒りと呪詛により、綿貫は身動き一つ、取れなくなった。

ギリギリ皮膚に食い込む爪。

ぷつぷつと出血が起こる。


もう、だめ…


目を閉じた綿貫に、聞きなれた声が届いた。


「やめろ――――!」


声が響いたと同時に、何かが飛んできて、香弥子の額に当たった。

香弥子は再度悲鳴を上げ、頭を抱えて蹲る。


声の主は白井だった。

白井が香弥子にぶつけた物は、校庭で拾ってきた石だ。

ただし、その石は、祖母の柏内からもらった、お札に包まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ