【第四部】 追跡 一章 科学と魔術 8
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瑠香は中型の単車と、軽自動車を所有している。
単車の鍵を悠斗に渡した瑠香が、念のため、と尋ねる。
「悠斗って、単車の免許、持ってたっけ?」
「十六歳未満は、免許いらないので」
そんなことあるか、と悠斗は瑠香に頭を叩かれた。
「まあいいわ。うまくやってね」
ヘルメットを二つ、恭介に預け、瑠香は自分の荷物を後部座席に投げ入れ、白井を助手席に座らせた。
「それじゃ、またあとで」
四人は互いの拳をそれぞれ重ねた。
夜も更け、恭介の住まいから都内への道は、さほど混んでいない。
悠斗の背後で、恭介は頬を過ぎていく風の速さの心地良さを感じた。
悠斗の情報では、侑太らがたむろしている場所は、多目的スペースだという。
「何する場所?」
恭介が聞くと
「本来は、SNSに上げるための、写真撮影をする場所」
悠斗は答えた。
当然、侑太は、本来の目的を越えた使用をしているのだろう。
浅草まで来たところで、悠斗はコンビニに単車を止め、スマホを耳に当てた。
通話を終えると、悠斗は恭介に缶コーヒーを投げる。
「昔、親父の部下だった人に連絡した」
悠斗の父親は、警察関係だったことを、恭介は思い出す。
「そっか。何か言ってたか?」
「今夜は西新宿と横浜方面で、ちょっとした騒ぎがあったってさ。発煙筒が焚かれたとか」
恭介はコーヒーを飲みながら、微笑した。
カフェインのおかげか、脳内の神経は先鋭さを増した。
「いくか」
その頃、瑠香の運転する車は、狩野学園の近くまで来ていた。
車中、一言も喋らなかった白井が、瑠香に聞く。
「瑠香さんは、恐くないんですか?」
「こわい? 私が? なんで?」
「だって、相手って、呪いかける人みたいだし、わ、綿貫さん、捕まっているみたいだし…」
瑠香は真面目な顔で、白井を見つめる。
「あなたのお祖母様、柏内さん、今の日本じゃおそらく五本の指に入る、スゴイ霊能者だよ。ヒロくんは、その血を色濃く受け継いでいるんだから、絶対負けないって!」
「ば、ばあちゃんはそうかもしれないけど、俺、霊能力とかないし、キョウや悠斗ほど、格闘もできないし」
「でも、助けたいんでしょ、わたわたのこと」
「うん。俺が、なんとしてでも」
「じゃあ、大丈夫だよ! 君の強い思い、誰かを守りたい気持ちがあれば、絶対大丈夫!」
瑠香はにっこり笑う。
大輪の花が咲いたような笑顔。
明るく、輝いている。
白井はしばし、瑠香に見とれた。
「それに、私がついてるんだから」
瑠香の細腕で、何が出来るのか、白井にはわからなかった。
ただ、「絶対大丈夫!」と力強く言い切る瑠香の言葉で、己の脆弱性が払拭されたのである。
間もなく、深夜になる。




