【第四部】 追跡 一章 科学と魔術 7
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「二手に別れる」
恭介の綿貫を救出する計画は、綿貫には白井と瑠香があたり、侑太の相手は恭介と悠斗でするというものであった。
「な、なんで、学校に、生徒会長のお母さんがいると思うの?」
青い顔色の白井が聞く。
「だいぶ前だけど、俺が四年生だったかな。学園の体育館を立て直したことがあって、その時、多額の寄付したのが、新堂の家だった」
「そういやあ、そんなことあったな」
「それで、地鎮祭もあったの、悠斗、覚えてる?」
「ああ」
「新堂香弥子が、神主だか巫女さんだかの衣装着て、長い祝詞を上げたんだけど」
香弥子は長い髪を振り乱し、奏上というより、唸りながら舞っていた。
祝詞にしては重く暗く、呪いの文言のように、恭介には思えた。
実際、祭事途中で気分が悪くなり、恭介は倒れた。
あとで父からは「軟弱者」と叱られ、侑太たちからは散々からかわれた。
「俺が海で溺れかけた時に、呪物と化していた女性たちを縛っていたものが、一部解除されたのだとしたら、再度、何かを呪縛する必要が、あったのかもしれないね」
「そんな、そんな場所に、俺一人で大丈夫なのか?」
泣きそうな顔の白井に、恭介は柔らかい眼差しを注ぐ。
「お前にしかできないことだ、ヒロ」
「あの、私も一緒なんですけどぉ」
瑠香が口をへの字にした。
「ところでキョウ、侑太の居場所。特定できそうか?」
悠斗が、声をかける。
侑太が仲間を集めて騒ぐ場所を、知っている限り、悠斗は恭介に伝えた。
パソコン上に、いくつもの地図を並べ、じっと見つめていた恭介は、顔を上げる。
「わかった。多分、ここだ」
恭介が示した地図には、東京で一番高い電波塔が、聳え立っていた。
「根拠は?」
瑠香が問う。
「相手は呪術師だから、学園で良からぬことを企んでいるだろうね。ただし、最大限の呪いの効果を出すとしたら、四方から人の苦しむ念を集めたいはず」
白井の顔色が、さらに悪くなる。
「四点のうち、一つは横浜。さっき、スマホで位置特定した場所だと思う。中心はウチの学園として、東西南北で線を引くと、横浜と俺の住居は、学園を通って南北の線で結ばれる。等間隔で東西を決めると、西は新宿よりも先、東は、墨田」
「生徒会長の居場所が、新宿とか横浜だったら?」
白井の質問に、恭介は答えた。
「侑太が東の地点に行くように、誘導するさ」
恭介は腰を伸ばし、悠斗に聞く。
「悠斗、単車の運転できる?」
「転がすだけならな」
「じゃ、決まり。それで行こう」
「バイクは?」
「瑠香さんの」
白井は内心、ガクガクしていた。
綿貫を助けたい。それはもう絶対に。
でも、自分なんかに出来るだろうか。
同伴するのが瑠香さんだけなんて、無理じゃないだろうか。
白井の内心を見抜いたかのように、恭介が白井に言う。
「侑太の方が片付いたら、俺らも学園に向かうよ」




