【第四部】 追跡 一章 科学と魔術 3
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「言われてみれば、この女性、キョウのおふくろさんに似てるな」
悠斗がパラパラと絵本を見返しながら言う。
「なんだか、意味深な話だと思った」
恭介は、父と母が結婚する前、母には恋人がいたらしいことや、生まれた恭介があまり父に似ていなかったことから、実子でないと父に思われたことを、悠斗と白井に語った。
日暮れの時刻になっていた。
夏の終わりは、妙に切ない。
悠斗は恭介の肩をぽんぽん叩いた。
白井はもう一本、アイスの袋を開けた。食べなれているはずのアイスは、いつもより甘くなかった。
「ちなみに、この絵本描いたの、誰?」
恭介は、本の奥付を開く。
作者名は、日下戸到否。
「聞いたことない人だな」
「検索しても、出てこない人」
いつの間にか、瑠香が部屋にいた。
白井はうわっと声を上げ、アイスを落としそうになる。
瑠香は、花柄の浴衣姿、しかも裾はミニ丈といういでたちで、三人の男子に混ざっていた。
「瑠香さんも食べる?」
恭介は瑠香のファッションに興味を示すこともなく、アイスを一本手渡した。
「その本、絶版なのよ、もう。なぜかウチの爺さん、前から持ってたみたい」
健次郎が、わざわざ読めと言ったからには、やはり恭介に関わる何かがあるのだろう。
「それとね、ちょっと気になる動画があって、みんなにも見てもらおうかと思って」
瑠香のスマホが、動画サイトを開く。
現れたタイトルは、
『悪魔の呪い事』
BGMは、悪魔崇拝で知られるバンドの楽曲だった。
画面上、テロップが流れていく。
『みなさん、黙示録をご存じですか』
新約聖書の聖典、「ヨハネの黙示録」は、神と悪魔の戦いの預言書である。
既に戦いは始まっている。
たとえば、ここ数ヶ月、淫乱な女は裁かれ、動物を虐待した少年は追放され、魔性の薬に手を出したアスリートは自滅した。
裁かれて追放された者たちが悪魔か。
裁いた側が神なのか。
否!
真の悪魔は、一見神のようにふるまって、我々を手玉に取るのだ!
なぜなら悪魔の真の目的は
その目的は!
動画はここで終わった。
「なんだ、これ!」
悠斗が叫ぶ。
「春から夏までの、学園で起こった事例紹介だな」
恭介は冷静に言う。
「でもさ、これじゃ、まるで、キョウが…」
白井の声は震えている。
「そうね、この流れでは、悪魔って名指しされてるようなものね」
宣戦布告か。
手のこんだことだ。
いいだろう。
俺は、受けてたつ。
恭介は心中深く思う。
「あ、話違うけど、わたわたって、今、何してるの?」
「わたわたって、綿貫さんのこと?」
「うん。メッセージの既読が、昨日今日とつかないの」
室内の冷房が、急に効きすぎてきた。




