間奏7 藤影侑太の自分語り
なんで、藤影恭介を嫌っていたかって?
お前さあ、自分が欲しくて欲しくても、なかなか手に入らないものを、いとも簡単に手に入れてる奴のこと、好きになれる?
だろ?
何が欲しかったかって?
全部だよ、全部
家柄と資産
美しく優しい母親
努力も苦労もしないのに、ピアノが弾けて、絵も描ける才能
何より、だ
あの顔と
髪の色
ああ、俺さ、自分の顔は嫌いじゃないよ
そこそこ、ちやほやされるし
女ウケ悪くないし
ただな
こっからは昔話だ
俺が幼稚園に行ってた頃、絵本読んでたのよ
ははは、俺だって、絵本くらい読むさ
「天使の願い事」とか言ったかな、ほかの園児にも人気があった本
主人公の天使が、大天使になる修行かなんかしてて、人間の願い事を十個叶えようとするの
十個叶えたら、大天使
叶えられなかったら、天使失格。
あと一つで課題クリアするって時に、細かい内容忘れたけど、その願いを叶えたら、なんか良くないことになるってわかって、その天使は叶えてあげないの
それで、天使失格となって、天界から追放されそうになるんだけど、
聖母の情けで人間界に転生するのさ
絵本の最後に、転生した天使のイラストが載ってて、すげえ綺麗なの
くりっとした眼にサラサラの茶髪。
そのイラストに、あいつ、恭介は、そっくりだったのよ、ガキん時
五歳、いや、もっと前か
初めて藤影の屋敷に招かれて、あまりの広さにびっくりして
ふらふらしてたら、ピアノの音が聞こえてきて
音のする方へ行ったら、あいつがピアノを弾いてた
大きな窓から陽が射して、あいつの髪がきらきら光ってて
イラストの天使の顔と、そっくりだった
女だと思ったよ
それがさ
香弥子さんが常日頃、あいつにだけは負けるなと俺に発破かけてる相手、藤影恭介だってわかった時
マジ、ムカついた
なんだよ、男じゃねえか
ふざけんなよ
だからあいつを殴って、ピアノもぶっ壊した。
香弥子さんは、誉めてくれたけどな
いや、今はもう、恭介の持っていたもの、ほとんど俺が手に入れたから、どうでもいいけどさ
ああ、悠斗には逃げられたか
まあ、しゃあねえな
ところで、仙波
何の用だったんだ?




