【第四部】 追跡 一章 科学と魔術 1
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恭介らが陽介の入院先に向かう数時間前。
恭介は柏内と相談した。
事故が人為的に起こされたものならば、おそらく陽介の入院している病院も、狙われるであろう。
では、どうするか。
牧江を海外へ逃がす前に、仙波の攻撃を受けた恭介は、ドローンの脅威を目の当たりにした。
地上を、自分や友人たちの生活を、いかに守ることができるか恭介は調べた。
結果、海外からドローン防衛システムを購入し、あちこちに配備することを決めたのだ。
そのために、日本での販売代理店を立ち上げた。
「お前、いつの間にそんなことやってたんだ」
半ば呆れたような声で悠斗が言った。
「細かいことは、瑠香さんのお祖父さんに任せてるから、たいしたことやってないよ、俺は」
残りの時間を使い、恭介は、代理店の在庫をすべて、病院周辺に配備させた。
「入院している人に影響ないの? ほら、心臓悪い人とか、ケータイが良くないって言うじゃん」
白井が問う。
「俺が購入したのは、病院で使っている器材とか、スマホの通信とかには、影響のないものなんだ」
恭介は、十分『たいしたこと』やってると白井は思った。
「それから柏内さん、寿和子さんと一緒にすぐに東京へ行って、陽介さんの代理人に会っていただけますか」
「もとよりそのつもりです。ついでに、この家屋敷一帯に、強力な結界を張ります」
そう言って微笑む柏内は、どことなく菩薩像に似ていた。
かようにしてドローンを退け、恭介は悠斗と白井を伴い、病院に入った。
陽介は現在も集中治療室に寝ていた。
面会時間は五分。治療室には、恭介だけが入った。
マスクと防護服を身に付け、恭介は叔父の眠るベッドに近づいた。
包帯だらけの全身にたくさんのチューブがぶら下がっている。
事故による外傷のレベルが伺えた。
恭介は小声で呼びかけた。
「陽介おじさん」
その一瞬だけ、陽介は瞼を細く開いた。
恭介の姿を捉えた彼の目から、涙が一筋流れた。
それだけで十分だった。
陽介の手甲に自分の掌をしばし重ねたのち、恭介は治療室を出た。
一方、セッコク島では、親父らが、酒を飲みながら、よもやま話を繰り広げていた。
隣室の瑠香は、飛行場で買ってきた日本酒を手酌で飲みながら、聞くともなく二人の会話を耳にしていた。
健次郎がこんなことを言う。
「俺は、科学と非科学が相反するものとは思っていないんだ」
爺さん、あんた、ノーベル賞狙えるような理系の研究者だったとか、さっき言ってたじゃん。
「ニュートンは錬金術、ケプラーは占星術、科学と非科学を両方操っていたぐらいだ」
ほうほう
それで?
「俺は、科学と魔術は、既に融合してると思ってるよ」




