【第三部】 開始 六章 遺伝子と環境 13
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新堂陽介の事故の知らせは、翌日、柏内のところにも届いた。
大破した車両の状況からは、即死でもおかしくなかったそうだが、陽介は一命を取りとめていた。
しかしながら、彼は現在、意識不明の重体だという。
柏内に連絡してきたのは、陽介個人の顧問弁護士である。
陽介は、自分に万が一のことがあれば、柏内に連絡して欲しいと依頼していた。
後日、陽介から預かっているUSBを渡すとも言っていた。
新堂陽介が白井の実家まで来ることを、恭介は事前に聞いていたが、事故と聞いて拳を握りしめた。後悔が湧く。
おじさん。あなたには、もっと早く、話をしておくべきだった。
その姿を見た柏内は、静かに恭介に話をする。
「あなたの憤りは分かります。私も同じです。まさか、新堂さんまで狙うとは思わなかった、私の甘さです。お許しください」
深々と頭を下げる柏内に、恭介は言う。
「いえ。柏内さんのせいじゃない。俺も迂闊でした。海底の呪いが一部解除されたこと、先方にも把握されたわけですね」
「え、何? 何の話? 事故じゃないの?」
白井が問う。
「まあ、事故は事故なんですが、単なる自損事故ではないでしょう。先ほど、お電話で聞いた話では、新堂さんが運転していた車は、いきなりタイヤがパンクしてスピンを起こし、高速道路の壁に激突したということです。パンクの原因はよくわかってないそうですが、一つのタイヤに、漁師が使う、銛の先のようなものが刺さっていたとか…」
「事故に見せかけた謀殺、か…?」
悠斗が呟く。悠斗の頭には、恭介の海難事故の真相が過る。
「ま、まさか、呪いとか?」
白井は先日の房総の夜を思い出していた。
「病院の場所を教えてください。俺、行ってみます」
顔を上げた恭介に、柏内は病院名を告げた。
白井の実家からは、さほど遠くない場所の救急病院だった。
「一泊なんてけち臭いから、もっと泊まっていけば良いのに」
三人は、白井の母寿和子の車で、新堂陽介が入院する病院まで運んでもらった。
お見舞い後は、そのまま帰る予定である。
「いろいろお世話になりました」
恭介が礼を言う。
「いえいえ、こちらこそ、立派な手土産まで貰っちゃって。弘樹にも見習って欲しいものだわ」
相変わらず、明るい寿和子である。
助手席で白井は唇を突き出す。
「白井君が純粋で素直なのは、良いご家庭だからなんだと、改めて思いました。ありがとうございました」
病院の駐車場で恭介は寿和子に挨拶し、悠斗も頭を下げた。
白井も照れながら、「またな」と言っていた。
その様子を病院の裏手の丘から、双眼鏡で見つめている人影があった。
藤影社長秘書、仙波である。
「三人捕捉。君たちはそのまま白井家へ突入せよ」




