間奏6 父と子の会話
房総から戻った俺は、毎日宿題と格闘している。
夏季休暇とか言って、毎日家にいる親父は、料理を作りながら
「宿題、見てあげようか。ヒロくん」
とか、超ウザイこと言ってくる。
悔しいが、なんだかんだ言っても、親父は偏差値がバカ高い大学出てるので、数学なんかは仕方なく聞いてしまう。
だが、親父の教え方は、壊滅的に下手だ。
「見れば解けるでしょ?」
ムリだって。
俺、文系頭だし。
やっぱ、あとで松本、じゃない、キョウにでも聞こう。
「あああ、俺、ホントに親父の息子なのか。理系科目ダメダメだ」
呟きが聞こえたようで、親父はにっこりと笑う。
「何言ってるの。ヒロくんとパパ、瓜二つ。そっくりじゃん」
いや、そう言われても、あんまり嬉しくないぞ。
「似てるっていえばさあ」
親父は思い出したように語る。
「前に久里浜行ったとき、ヒロくんのお友達二人いたじゃない。ああ、ヒロくん、高校で、お友達出来たんだ。良かったあ、ってパパ思ったの」
ほっとけ!
「二人とも礼儀正しい、イイ子たちだったし。それで、小沼くんって言ったっけ、目付きの鋭いコ」
「うん」
「パパ、多分、小沼くんのお父さん、知ってるよ」
「ええ! マジ?」
「おそらくね。顔とか雰囲気とか、そっくりだから」
キョウもそうだけど、悠斗って自分のこと、あんまり話さないから、家族のことって聞いたことなかった。
「小沼さん、警視庁の刑事さんで、パパ、一緒に薬の取り締まりしたのよ」
「へええ」
世間は意外に狭いな。
いや、縁がある同士が集まっているのか。
ばあちゃんが今の高校に行けと言ったのは、そういう人たちに巡り合うからだったのか?
「たださ、小沼さん、もう何年か前に、殉職されてね」
殉職…亡くなった?
そういえば、俺が親父の話をした時、悠斗も「うらやましい」て言ってたっけ。
うらやましい?
俺が、か?
俺の方こそ、キョウも悠斗も羨ましいぞ。
あいつらと一緒にいると、俺は時々コンプレックスを感じる。
キョウは成績良いし、素顔は美形だ。
悠斗はカッコいい。
俺、タバコ苦手なんだけど、悠斗がタバコ咥えた姿は、不良っぽさが漂って、ちょっと憧れる。
二人とも、ハードボイルドチックな人生みたいだし。
なんで、あいつら、こんな平凡な俺なんかと、つるんでくれてるんだろ。
房総からの帰り道、悠斗が言ってた。
「お前、イイ奴だな。キョウが付き合うの、分かるわ」
イイ奴なのか、俺。
そもそもそれ、誉め言葉なのか?
俺、あいつらに、釣り合っているのかな。
今度、ばあちゃんにでも聞いてみよう。
それでも…
親に殺されかけたキョウ
親を亡くしている悠斗
ウザい父親とか、口うるさい母親とか思うけど、普通に高校に通っている俺って…
「俺って、恵まれてるのかなあ」
親父はまた笑顔になり、俺の頭を撫ぜた。




