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聖女と世界一かっこいいゴリラ  作者: 毒アリクイ先生
9/17

【10】


 あれから2日――。


 私たちは、森の中を歩き続けた。



 ――ぐううううううう



 急に、はしたなくお腹が鳴ったので、私は顔を真っ赤にしたが――、


「失敬、私の腹の虫が粗相をした。実は少々空腹でね」


 ローランドは、自分の鳴らした音だということにしてくれた。


 このゴリラ、さすが紳士だ。

 ふたりきりなのだから無意味な取り繕いではあったけれど、こんな森の奥でも淑女として扱ってくれること自体がうれしい。


「ちょうど、そこに食べられる木の実がなっている。

 朝食にしよう」


 そう言って もいだのは、赤くて1セッチ(1セッチ=1cm)ほどの小さな果実をみっつ。


 それと歩いている途中で拾った、まるまる大きなどんぐりを1個。


 あとは、この逃避行の中で何度か食べた、保存食用の固いパンと、金属のびんに入った油漬けの魚のペーストだった。


「この果実は甘いが、3粒以上食べては駄目だ。腹をくだす」


「気をつけます」


「こっちのドングリは苦くて渋いが栄養はある。薬と思って食べておきたまえ。

 パンと魚は……まあ、いつもの通りだ」


「いいえ、私はこのパン、好きですよ」


 パンに魚ペーストを塗ってから口にすると、腐りかけたお魚の臭いとパンのかびくさい臭いが、ぷんっと鼻にひろがった。

 味もひどい。


 でも、逃亡中で火の使えない私たちにとっては貴重な栄養源だった。


(それに……ローランドは、このパンさえ我慢しているのだし)


 彼は隠しているが、知っていた。


 このパンとお魚ペーストはローランドの分だ。

 自分の分を私に譲り、もっとまずいどんぐりを食べてがまんしていたのだ。


「本当に、ローランドはパンはよろしいのですか?」


「かまわんよ。

 私はゴリラだ。ドングリもおいしく食べられる。

 これを不味く感じる人間たちを気の毒に思うね」


 強がっているが、後ろを向いて顔をしかめているのを私は知っていた。



 赤い果実はほんのり甘い。

 すぐ近くに生えていたので、その気になれば追加でもっと食べることはできたが、言いつけ通り3粒でがまんした。


 もしお腹を壊したりすれば、足手まといになってローランドに申し訳がないし、


 それ以上にこの紳士イケボゴリラに、

『お腹の具合が悪いので、そこの茂みでお花摘みをさせてください』

 なんて言わなければいけなくなったら、きっと恥ずかしさで死んでしまうだろう。


 最後に、水筒に溜めておいた朝つゆを一口。


「苦労をさせてすまんな。

 大聖堂では毎朝、豪華な朝食だったのだろう?」


「ええ、まあ……。

 ただ、私はしょせんおかざりですので、そこまででもありませんが――」


 それでもパンは柔らかかったし、甘いオムレツやあつあつのスープ、食後にはお腹を壊さないデザートと、異国産のお茶も出た。


 だが、それでも、この固いパンと森でもいだ実は、決して悪いものじゃない。


 あのくそ教会に用意されたものじゃなかったし、それに――


(ローランドがいるから……)


 彼と食べるなら、かびたパンでも美味だった。


「食べたかね?

 では、行くぞ――エウァ」


「ええ、ローランド」


 彼はまだ、私の名を呼ぶとき、ぎこちない。


 ――それも、なぜだか、ぐっときた。




「足元が悪い。私の背中に乗るといい」


「はい」


 ローランドはゴリラらしく、四つ足のナックルウォークで森を歩く。


 私は、彼の背負った大剣を手すりがわりに背中に腰かけ、揺られ続けた。


 その調子で、1時間(地球の約0.98時間)ほど歩き続け……。



「朗報がある」


「なんでしょう?」


「もうすぐ森を抜ける。

 里に出るぞ」



 その、わずか数秒後。


 私たちは薄暗い森を抜け、まぶしい陽光に包まれた。


 ――人里だ!


 目の前には農園がひろがり、家もある。


 里の中央からは白い煙がのぼっていたが、おそらくは共同のパン焼き窯だ。


「やったぞ、エウァ。

 これで、まともな食事にありつける」


「まあ。どんぐりがおいしかったんじゃなかっんですか?」


「あんなもの本当はクソだ。

 やわらかいパンばんざい! 腐ってない魚ばんざい!」


 驚きのてのひら返しだったが、実は私も同意見だ。


 やわらかいパンばんざい! 腐ってないお魚ばんざい!



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