【6】
同時刻――。
中央大聖堂、城壁北側。
ただし城壁の外側――つまりは討伐軍の側である。
「――斥候より報告!
聖女エウァンシェリルに逃げられました!」
大聖堂を包囲する討伐軍――
メデテラ連合帝国の第四軍3千2百を率いる将は、副官の報せを耳にして、
「かまわん。
“聖女”は囮である。おそらくは偽物。
追う必要はない」
と断じた。
「ただし本物の聖女を囮として用いている可能性もある。
斥候のうち特に俊足の者10名をもって、決して見失わぬよう後を追わせよ」
それよりも自陣を急いで立て直さなければ。
手柄を急いだ現場指揮官や兵たちが、持ち場を捨て、聖女のいる森の中へと殺到してしまったのだ。
城壁の包囲は崩れかけていた。
「……見せしめに士官を何人か、首を刎ねてやらねばなるまいな」
ぽつりと漏らしたその言葉に、周囲の士官たちは顔から血の気を失わせた。
この将の名は、メルウ・グルゼ軍事伯。
人呼んで“斬首姫”。
北方討伐で名高きグルゼ・ノゼ軍事伯の長女である。
まだ十代のうら若き乙女でありながら、引退した父親の跡を継ぎ、帝国の将軍として堅実に軍功を上げ続けていた。
「それよりも、先ほど混乱に乗じて裏手から脱出したという一団をこそ追跡せよ。
あれが枢機卿一派であるならば、この討伐自体が失敗となろう。
逃がせば罪は償いきれんぞ」
この討伐軍の真の目的は、教会を実質支配する枢機卿一派の討伐なのだ。
おかざりの聖女は後回しでよい。
――それに、どうせ囮の聖女は本物だろうと追っても無駄だ。
聖女の護衛は、名高き“大剣”ローランド。
あの出自不明の異民族傭兵がついている以上、千や二千の兵では手に負えまい。
(今は見逃す。
だが、いずれ貴様の首はもらうぞ。
“大剣”ローランド――わが心を奪った男よ!)




