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聖女と世界一かっこいいゴリラ  作者: 毒アリクイ先生
5/17

【5】

 ローランドは頼もしいけれど、相手は何百人もの兵士たち。

 さすがに多勢に無勢だろう。


 こうなると――


(私も……手伝った方がいいのかしら。

『あのちから』で……)


 今まで隠してきた、あの|秘密のちから{・・・・・・}で……。


「聖女さま、もう目は閉じたかね?」


 不意に、ローランドからイケボで問われた。


「えっ……? は、はい。閉じてます」


「では始めよう。

 なに、遊園地のジェットコースターと同じく絶対安全なスリルだ。

 楽しもう」


 なんという余裕!

 悩んだ私が莫迦のようだ。


「戦いつつ、森の奥へと走って逃げるぞ。

 少々揺れる。気をつけたまえ」


「は……はいっ!」



◆          ◆          ◆



 前に『ローランドの背中はゆりかごより揺れない』と述べたはずだが、さすがにそれは立ち止まっているときのこと。


 今は違う。

 走って、跳ねて、戦っているのだ。

 さすがに揺れないはずがない。


 現状は、たとえるならば――

『ゆりかご程度には揺れている』という状態だった。


(こんなときなのに、心地いい……。

 お母さんに抱かれてるみたい……)


 母など、もう遠き過去の思い出だ。


 9つのとき、家族も故郷も捨てさせられ、ずっと中央大聖堂で暮らしてきた。


 マーヤ・ヤーマをはじめとする教会の人たちに囲まれ、ただひたすら聖女として生きていた。

 厳しい修行にも耐えてきた。


 それが、もとの暮らしより幸せだからと何度も繰り返し聞かされてきた。


 ――でも、もう全部ない。


 大聖堂は陥落し、御世話係のマーヤ・ヤーマは裏切った。

 神聖ラ・ウース教会も、偉い人たちは脱出できたかもしれないけど、それでも今まで通りに教会を維持していくのは難しいだろう。


 少なくとも、私はもう教会を信じられない。

 もとから信じてなかったけど、前以上にだ。


 もう教会は私の居場所じゃない。


 だから、私には何もない。


(このゴリラの背中だけが、私に残された居場所なのかも……。

 ううん、彼だって教会に雇われてるだけなのだけど――)


 それを思うと、自然と涙があふれてきた。



「――何か、つらいことでも?」


 目をつぶった暗闇の外から、ローランドの声がした。


 いけない。彼の背中を濡らしてしまった。


「いえ……。

 ごめんなさい、お背中の毛を」


「いや、かまわんさ。

 脇腹ほどは濡れていない」


「脇腹?」


 意味のわからない言葉に、思わず私がまぶたを開くと――


 私たちがいたのは、おそらく森のうんと奥。


 あたりに敵の兵士は見当たらなかった。


「敵がいない……。私たち、逃げ切ったのですね!」


「ああ、そうだ。

 だが敵兵はひとりも殺していない。

 多少痛めつけたがね。

 ――知っての通り、ゴリラは平和的な種だ。命は奪わん」


「なんという強さなのでしょう。

 あなたには驚かされます」


「ゴリラならこのくらい誰でもできる。

 私など、たいしたものじゃないさ。

 平和的な種だから、他のゴリラは隠しているのだ」


 本当なのか謙遜なのかわからない話だった。


 ――とはいえ、あの人数を相手に無傷とはいかなかったらしい。


 毛が黒いので気づかなかったが、よく見ると……。


「たいへん! ローランド、あなた怪我をしています!」


 さっき彼が自分で言っていた通りだ。

 脇腹が湿っていた。


 矢が突き刺さり、血が流れ出ていたのだ。


「ああ、人間にも腕利きが混じっていてな。

 たいした傷じゃないが、あまり見ないでくれたまえ。

 ご婦人に見られては恥ずかしい」


「軽口をたたいている場合ですか!!」



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