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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

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74.心が壊れる音

 政人とタロウは、夜も眠らずにクロアの町へと馬を走らせた。


 政人はきっと大丈夫だと、自分に言い聞かせる。


 シャラミア自らが出兵したということだが、おそらくもう王太后を発見して、王都へ引き上げただろう。

 王太后は処刑され、クオンは悲しむだろうが、それはやむを得ない。


 クロアの町はまた平穏を取り戻しているに違いない。それを早く確認して、安心したい。


(大丈夫だ。あのシャラミアが、王太后ひとりを捕えるために民衆を巻き込むはずがない。あれだけ国民のためを思って、日々悩んでいたんだから)


『異端者たちは地獄に落ちるがよい』


 だが、政人の脳裏に、かつてのシャラミアの言葉がよみがえった。彼女の考える「国民」に、六神派信徒は含まれているのだろうか。



「御主人様、あれを!」


 すっかり夜も明けたころ、クロアの町の方角から、いくつもの煙が上がっているのが見えた。

 政人たちはさらに速度を上げた。




 政人とタロウは、かつてクロアの町()()()ものの残骸(ざんがい)を前にして、言葉もなく立ち尽くしていた。

 既にあらかた火は消えているようだが、まだあちこちで煙が上がっている。


 力が抜けそうになる足をなんとか動かして、政人は町に入った。タロウも後に続く。


 クロアの町は木造の建物が多かったため、多くの建物が焼け落ちている。あちこちで瓦礫(がれき)の山が積み上がっていた。


 そして、見ないようにしても嫌でも目に入ってくるのが、地面に散乱している死体だ。

 鼻を覆いたくなるような、何とも言えない異臭が漂っているのは、恐らく焼けた死体の臭いだろう。


 町にはまだ兵士たちが残っており、忙しそうに立ち働いていた。

 政人とタロウの姿を見かけ、兵士が声をかけてきた。


「あれ? あなたは確か……陛下のご友人では?」


 政人の顔を知っている兵士のようだ。


「ああ……、ここで何があった?」

「はい、昨夜陛下の命令で、町を焼き討ちしたのです」


 政人は目の前が真っ暗になった。足から崩れ落ちそうになったが、なんとか踏みとどまる。


「なぜそんなことを……。王太后は見つからなかったのか?」


「王太后は陛下の前に引き立てられましたが、陛下はその王太后の前で、焼き討ちの命令を出されたのです。王太后もその後で首をはねられ、殺されました」


「御主人様、大丈夫ですか?」


 タロウが政人の様子を心配して声をかけてくるが、そのタロウの顔も、青ざめている。


(俺のせいだ……。シャラミアが六神派を嫌っているのは知っていたのに……。彼女をこの町に(かくま)い、女王になるのに協力してしまった俺のせいだ……)


「生存者はいますか?」


 自失(じしつ)状態の政人に代わって、タロウがたずねた。


「いま探していますが、地下に隠れたりしていたものが、何人か見つかっています」

「その人たちはどうなりますか?」


「避難所に連れて行きます。そこには医者もいますので、怪我を負っている者は治療します」


 それを聞いて政人は不審に思った。


「あんたたちは、誰の命令で動いている?」


「もちろん陛下のご命令です。ここの後始末をするようにと言われています。生存者がいた場合は、保護するようにと」


(どういうことだ? 虐殺を命じておいて、生き残りは助けるのか?)


 シャラミアの心も揺れているのかもしれない。


 政人はふらふらと歩き出した。


「御主人様、危ないですよ! 瓦礫が崩れてくるかもしれません」


 慌ててタロウもついてきた。

 政人は闇の神殿に向かっている。町の中心にある闇の神殿は、町のどこにいても見ることができた。

 元は砦だったというその建物は、焼け崩れることはなく、原形をとどめていた。


「生存者がいたぞー!」


 声がした方に、ハッと顔を向けた。


「女の子だ!」

「君、もう大丈夫だよ」

「おい、担架を持ってきてくれ」


 兵士たちの声の中心に、ぐったりと横たわる少女が見えた。


(あれは……)


 ゆっくりと近づいていく。


 少女のピンク色の髪が遠目に見えた。

 やがて、その少女の髪についている、大きなオタマジャクシの髪留めが目に入った。見覚えがあるものだ。


 政人は走った。


「ミーナ!」


 駆け寄ると、その少女は確かにミーナだった。

 特に外傷は負っていないように見えるが、その目は焦点が合っていない。


「ミーナ! 俺だ、マサトだ! ミーナ!」


 政人の声を聞いたミーナは、声の主を求めるように、視線をさまよわせた。

 そして、政人の顔を認めると、激しい勢いでガバッと抱きついてきた。


「…………!」

「よかった……生きて……」


 政人は優しく抱き返してやりながら、背中をなでてやった。


「ミーナちゃん、声が……」


 タロウが言うので彼女を見ると、何やら口を動かそうとしているのだが、声が出てこないようだ。精神に強いショックを受けたためだろうか。


 だが、生きていてくれたことだけでも嬉しい。


「あなたのお知り合いですか?」

「はい、……妹のような存在です。この子は俺に任せてもらえませんか」

「そうですか、では、特に怪我もなさそうですし、お任せします」


 政人が立ち上がると、ミーナは離れないようにしがみついてきた。


「大丈夫だ。もうミーナを傷つけようとする奴はいない。俺が一緒にいるから」


 政人がそう言うとミーナは理解したようで、黙ってうなずいた。

 あの、元気で生意気だったころの面影はない。


 政人は、ミーナと手をつないだまま、闇の神殿へと歩きだした。



 闇の神殿は石造のため、火災で全てが焼け落ちることはなかったようだ。

 だが内部は、血を流した僧侶の死体が散乱している。兵士たちが突入し、剣や槍で殺しまくったのだろう。火で焼かれ、()げ臭いにおいを放っている死体もあった。


「ウッ……!」


 タロウがその惨状に息を()む。


(俺のせいだ……)


 政人は、二階の祈りの間を目指した。ケンブローズ聖司教と初めて会った場所だ。


 階段で二階に上がると、そこも惨憺(さんたん)たる光景だった。

 ミーナがまた、しがみついてきた。


「見るんじゃない」


 政人はミーナの肩を抱き寄せた。


 祈りの間の前に来た。

 覚悟を決めて扉を開いた。


 そこにもやはり、無残な姿で死んでいる僧侶たちがいた。

 政人は、一人一人確認していった。


 そして探していた人物を見つけた。

 決して見つけたくはなかった人物を、見つけた。


 ケンブローズ聖司教の死体を前に、政人はがっくりと膝をついた。


「御主人様、しっかりしてください!」


 タロウの声は、政人の耳を空しく通り過ぎた。


(俺のせいだ……)


 政人は自分の心の中のとても大切な何かが、ポキリと折れる音が聞こえた気がした。

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黒蛇の紋章

― 新着の感想 ―
[一言] シャラミアは正義感が強すぎた。
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