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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

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53.迷宮都市ヘルン再訪

 政人たちは、再び迷宮都市ヘルンにやってきた。


(前に来たときは、町に入った途端、宿屋の客引きの女の子が近づいて来たっけ)


 そう思い出して町に入ると、宿屋の客引きよりも遥かに嫌な気分になるものに出会った。


「あの、お兄さん、私を買ってくれませんか?」


 まだ中学生ぐらいに見える少女だった。こんな子供が春を売っているのを見ては、無視して通り過ぎることはできない。


「君の親はどこにいる?」

「えっ……なんでそんなこと、聞くんですか」


 少女は戸惑っているようだ。


「俺が文句を言ってやる。さあ、案内しろ」


「なんで子供が(から)むと、わざわざ面倒ごとに首を突っ込むかな」


 ルーチェが(あき)れたように言った。「まあ、それがマサトの良いところなんだけど」


「あの……親はいません。両親とも冒険者だったんですけど、迷宮で魔物に殺されて……」


 少女がそう答えると、政人は少女の手を引っ張って歩き出した。


「わかった、ついてこい」


(くそっ、また冒険者か。子供がいるのに何で死のうとしやがる)


 少女はわけのわからないまま、政人に手を引かれて付いて行った。ルーチェたちも後を追う。


「御主人様、どこに行くつもりなんでしょうか」

「わからぬのう」


 そんな彼らの声が聞こえているのか、いないのか、政人は構わずに歩いていく。

 そしてやってきたのは、冒険者ギルドだった。


 中に入ると、冒険者たちが大勢いた。受付カウンターにいる女性に声をかける。


「ギルド長を呼べ」

「あの、どのような御用でしょうか」


「冒険者の安全保障について提案がある」


 政人は後ろにいる冒険者たちを指さし、小声で付け加えた。「ギルド長に取り次いでくれなければ、冒険者ギルドは、冒険者から搾取(さくしゅ)する目的でタンメリー家が設立した組織だということを、この場であいつらにばらすぞ」


 その事実は、以前にセリーから聞かされたことだ。


「しょ、少々お待ちください」


 受付の女性は奥に引っ込んでいったが、しばらくすると戻って来て、「こちらへどうぞ」と政人たちを応接室に案内してくれた。


 ギルド長はひょろっとした貧相な中年男だった。


(このギルド長はタンメリー家の役人だろうな。元冒険者、なんてことはなさそうだ)


 挨拶もそこそこに、政人は切り出す。


「この子の両親は冒険者だったが、迷宮で死んだそうだ。そのため生計が立たなくなったんだろう。売春行為を行っていた」


 それから政人は少女の境遇について説明した。

 少女はなぜ自分がこんな所にいるのかわからない、という顔で政人を見上げている。


「それは……気の毒だが、珍しいことでもない。そういう話を私に持ってこられても困る」

「ギルドならギルドらしい仕事をしろ!」


 政人が珍しく大声を上げたので、ルーチェたちも驚いている。

 政人は熱くなったことを反省して、声のトーンを落とした。


「冒険者ギルドを運営しているのがタンメリー家だという事は知っている。でも、仮にも『ギルド』と名乗るからには、ギルド員である冒険者の生活を守る努力はするべきだと思うんだ」


「もちろんしている。迷宮で見つけた素材は高く買い取っているし、アルバイトの斡旋もしている」


(なにが高く買い取るだ。安く買い叩くの間違いだろうが)


「ではなぜ、素材をギルド以外で売ることを認めないんだ? その方が高く買い取ってもらえる可能性があるだろ? 冒険者の生活を守るというなら、それを認めるべきだ」


「素材は買い取った後、加工して売る必要がある。それはタンメリー家が一手に引き受けた方が効率がいい。そうなればコストが下がって、加工品を住民に安く提供することが可能になる」


「タンメリー家が独占販売してるんだから値段は好きに決められるだろう? 『安く提供する』なんてよく言えたもんだ」


 政人はギルド長が反論する前に続けた。「営利目的でやるなら、それでも構わない。だが、それなら『ギルド』の看板は下ろせ。冒険者たちがギルドに入会費や年会費を払っているのは、ギルドが自分たちの組合だと思っているからだ。これでは冒険者たちを(だま)しているのも同然だぞ」


「このシステムを考案したのは、タンメリー女公だ。貴様、女公の方針にケチをつけるつもりか?」


(反論できなくなると、権威を笠に着るか)


 政人はこのギルド長と話をしても無意味だと判断した。


「では、直接タンメリー女公と話をするとしよう」

「貴様などに女公がわざわざ会うと思うか?」

「会ってみせるさ」


 政人たちは冒険者ギルドを後にした。




―――




「なあ、どうやって会うつもりなんだ。諸侯に会うなんて普通は無理だぞ」


 ルーチェが疑問を投げかけた。


「前にソームズ公に会ったじゃないか」

「あれは、バーラが紹介してくれたからだろ」


「今回も紹介してもらえばいい。タンメリー女公とつながりがある人間にな」

「誰だ?」


「俺たちがこれから会う人物だよ」


 政人は言った。「ヘルン新聞社社長、オーギュロス・セリーだ」


 政人はヘルン新聞に、「タンメリー女公の一週間」という記事が載っていたのを覚えていた。女公に密着していないと書けない記事だ。


「君、名前は?」


 政人は少女に聞いた。


「えっ、あの、グリエ・モーラです」


「モーラ、俺たちと一緒に来てもらう」

「どうして……」

「もう、あんなことをさせるわけにいかないからだ」


「そうじゃなくて、どうしてそこまでしてくれるんですか? さっき会ったばかりの、私のために」


「会ってしまったからだ」

「答えになっていないような……」


 政人は気にせずに歩いて行く。


 ヘルン新聞社の玄関ドアは新しくなっていた。以前のように開けるのに苦労する、という事もなかった。

 以前は無人だった受付に、女性が座っていた。


「弊社に御用でしょうか?」

「俺はフジイ・マサトという。ヴィンスレイジ王領から帰ってきたと、社長に伝えてもらえるか」

「フジイさんが来たら、ご案内するように言われています。こちらへどうぞ」


 編集局は以前来た時よりも、人が多いようだった。


 応接室に案内された。テーブルの上に今週のヘルン新聞が置いてあったので見てみると、以前に読んだものより、ページ数がかなり増えていた。

 そして、紙面の半分は広告だった。


 セリーが入ってきた。


「君に教えてもらった『広告』のおかげで、利益が相当上がったよ。今じゃ売上よりも、広告収入の方が多いんだ」


 セリーはにこやかな笑みを浮かべて言った。「人員を増やしたから、ここも手狭になってきた。新しい社屋を建てようかと考えている」


「景気がよさそうで、何よりだ」

「ところで、その女の子は誰だ?」


 モーラのことを説明すると、セリーはため息をついた。


「家族がいる冒険者も多いんだ。稼ぎ手が死ぬと、残された家族は路頭に迷う」


 セリーは少女を見て言った。「その子は私が孤児院に紹介してやろう。少なくとも、食うことはできる」


「孤児院があるのか」


「ああ、タンメリー女公が最近作ったんだ。二親(ふたおや)とも亡くしている場合は、孤児院に入ることができる。ただし入るためには、役所に出向いて申請書を提出する必要がある。その子はそれを知らず、世話をしてくれる大人も周りにいなかったんだろう。役所の方から困っている人を探して声をかける、という事はしていないからな」


「まあ、そうだろうな。残念ながら、公的な援助を受けられるのは、役所に申請した者だけだ。日本でもそうだった」

「ん? 日本ってどこだ?」


 政人は自分が異世界人であることを含め、ヴィンスレイジ王領であったことを話した。


「はあ……とんでもないことになっているな。シャラミアを王にするためにクーデターを起こすだって?」

「誰にも言わないでくれよ」


「言えるわけがないさ。ウチのクリッタも関わっているんじゃ、なおさらだ」

「この話を聞いたからには、セリーも関わったことになるな」


 セリーは頭を抱えた。


「君って奴は……。まあ、シャラミアが王になることについては私も賛成だがな。今のままではまずいのは分かっている」


「それなら協力してほしい。俺は今、金策に駆けずり回っているんだが……まず、これを吸ってみてくれ」


 陶器のパイプに詰めたチャバコ草に火をつけて、セリーに吸わせてみた。


「なるほど……これは売れるな」

「そう思うよな?」

「ああ、よく見つけてきたもんだ」


「チャバコ草の栽培、加工、販売事業に資金を出してくれる人を探してるんだ。銀行からの融資に期待するのは、難しそうだ」


「銀行の財布の紐は堅いからな。三年後なら、ウチで資金を出せたかもしれんが、今はまだ無理だ」

「誰か知らないか? 『先見の明を持つお金持ち』を」


 セリーはしばらく考えた後、言った。


「一人、心当たりがある」

「誰だ?」


「タンメリー女公だよ」

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