46.政人とシャラミア
しばしの沈黙の後、シャラミアが口を開いた。
「マサト様の御明察に感服いたしました。おっしゃる通り、私は王位簒奪の嫌疑をかけられ、逃亡してここにいます」
「嫌疑をかけられ、ということは、本当はそうではないのですね?」
「もちろんです。私は女王になるつもりなどありません」
「シャラミア様は幼い王を支えるために、並々ならぬ努力をしておられました」
ティナという侍女が言った。「それがこんな罪を着せられるとは、ひどすぎます」
「本当にひどい話です」
政人は本気で同情しているように見えるよう、感情をこめて言った。「そんな目に遭わせた奴らに復讐しなければなりません」
「復讐とは、何をするのですか?」
「そいつらを倒し、本当に王位を奪うのです」
「何を言うか!」
ネフが声を荒らげた。「シャラミア様がそのようなことをされると思うか!」
「シャラミア様は今の王国の現状をどう思われますか?」
政人はネフを無視して、シャラミアに言った。「ジスタス公と王太后は権力をほしいままにし、国は倒れかけている。シャラミア様を追い出したことで、歯止めをかける者がいなくなり、さらにひどいことになるでしょう」
「確かにその通りですが……だからといって、私が女王になるなど……」
「それで、シャラミア様が女王になるために、君はどう協力してくれるんだ?」
「ギラタン!」
ギラタンが言葉を挟み、それを聞いたシャラミアが思わず声を上げた。
「シャラミア様、お父上がよく言ってましたよ。力のある者は、その力を弱き者のために使わねばならない、と。今の王国を救う力があるのはシャラミア様だけです」
「その通りです」
シャラミアがギラタンに言い返す前に、政人は言った。「俺はこの世界の者が持たない知識を持っています。シャラミア様が王になるための知恵をお貸しすることができます」
(そんな知恵などないが、ここは押し通すべきだ)
「この世界の者が持たない知識って、どういう意味だ?」
「俺は異世界人です」
さっきよりも長い沈黙が続いた。
「信じられないでしょうが、マサトの言う事は本当です。メイブランドの女王レナが、光の勇者と共に彼を召喚したんです」
クリッタが、政人の言葉を保証した。
「『神聖女王』が光の勇者を……?」
彼らは軽い混乱状態にあるようだ。
それを見て取った政人はたたみかけて、魔王と光の勇者、そして闇の勇者について説明した。この話は何度もしているので、説明は慣れている。
説明が終わると、シャラミアが口を開いた。
「とりあえずはあなたの言葉を信じましょう。それで、あなたが私が女王になるために協力してくれるとして、私はあなたのために何ができるのですか? 先ほどは『互いに協力できる』とおっしゃいましたよね?」
(いよいよ正念場だぞ)
「シャラミア様、あなたはガロリオン王国を救うために行動している。そして俺は、世界を救うために行動しているのです」
「世界……魔王を倒すという事ですか?」
「その通りです」
政人は力を込めて言った。「シャラミア様、女王になった暁には、闇の神の加護を受け、勇者として魔王と戦ってください」
「ふざけるな!」
ネフが怒鳴った。「シャラミア様が異端の神の加護を受けるなど、あり得ん! それに魔王と戦うだと! そんな危険なことをさせられるわけがないだろう!」
「無茶な話だ」
ネフよりは冷静な声音で、ギラタンが言った。「女王になったんなら、国を統治しなきゃならん。魔王と戦う暇などあるもんか」
「すぐにじゃない。魔王が誕生してからでもいいんだ。それにシャラミア様一人で戦うわけじゃない。光の勇者や神聖国の聖騎士がいるし、この国の兵士も連れていけばいい。もちろん君たちもだ」
「話にならん! もういい、おまえの協力など必要ない! 我々にはソームズ公がいる。ソームズ公ならシャラミア様を助けてくれるだろう」
「それは駄目だ」
ネフの言葉を、政人は斬って捨てた。
「なぜだ!」
「ソームズ公がシャラミア様を保護すれば、王家に楯突くことになる。諸侯と王が対立すれば、戦争になる。戦争になれば、どちらが勝っても国は疲弊する。今でさえ貧困にあえいでいる民衆を、さらなる困窮に追い込むことになるぞ」
「それは……」
ネフが言葉を詰まらせるのを見て、政人はさらに言葉を継ごうとしたが、その前にシャラミアが絶望的な言葉を発した。
「私は異端の神など信じません。闇の神と、それを信じる異端者たちは地獄に落ちればよい」
政人は、演劇で見た古のメランティーヌ女王のように、シャラミアも六神派に理解を示してくれるのではないかと期待していたが、その期待は見事に裏切られた。
「シャラミア様、女王には力が必要です」
気落ちした政人に代わって、クリッタが言った。
「忌まわしき力であっても、力は力です。
スランジウム王国の『長命女王』が二百年も国を統治し、発展させているのは、彼女に魔法を使う力があるからです。
あなたは王になった後、ボロボロになった国を立て直さなくてはなりません。
だが立て直す前に、他国が攻めてくるかもしれません。
それでも、力があれば国を守れます。闇の勇者になれば、あなたも魔法が使えるようになります。それは大きな力となります」
「クリッタの言う通りです」
政人は気を取り直した。「闇の神の加護を受けたからといって、闇の神を信じる必要はありません。ただ力だけを貰って、利用してやればいいんです。六神派の僧侶たちは、そのための道具にすぎません。ティナさん、そう思いませんか?」
「え? 私ですか?」
まさか自分に話が振られると思っていなかった侍女は驚いた。「なぜ私に聞かれるのですか? 私はただの侍女にすぎませんよ」
「あなたの意見だけは、まだ聞いていないからです」
政人は、シャラミアが「異端者たちは地獄に落ちればよい」と言った時、ティナが悲しそうな顔をしていたことに気付いていた。
ティナは、皆の視線が自分に集まっているので、何かを言わなければならないと思ったようだ。
「えーと、私は幼いころからシャラミア様にお仕えしています。ですから、シャラミア様のことは誰よりも知っていると思います。本当にお優しい方で、弱い者や困っている者を見ると、助けずにはいられない方です。ジスタス公や王太后と会って、彼らを説得しようとしたのも、貧しい民のためを思ってのことです」
彼女はシャラミアの顔をちらっと見てから、目を伏せて言った。「『地獄に落ちればよい』などという言葉は、そんなシャラミア様の口から出るには、あまりにもそぐわない言葉です」
シャラミアは侍女の言葉にショックを受けているようだ。
見たところ、シャラミアはあまり精神的に強い方ではなさそうだ。
政人は、この隙をついてシャラミアを追い込もうと思った。
「現実的な問題として――」
まずクリッタが言った。「あなたたちはしばらく、この異端者の町で過ごさなきゃなりません。その足じゃどこにも行けないでしょうからね。ましてやハルナケア山地を越えてソームズ公領に行くなんて絶対に無理です」
「王都からの追手は、街道沿いを探すはずです。ソームズ公領との境界は特に警備が厳重でしょう」
政人が続けた。「だが、この町にいれば、まず見つかることはありません。まさかシャラミア様が六神派信徒たちの町にいるなんて、誰も思いませんからね。別の言い方をすれば、あなたはこの町にいる間に打開策を見つけなければ、いつまでたっても町から出ることができません」
政人の言葉を聞いて、シャラミアは考え込んでいたが、しばらくして言葉を発した。
「マサト様は、私をどうやって女王にするおつもりですか? ソームズ公の力を借りず、戦争も起こさずに」
シャラミアにこれを言わせた時点で、政人の勝ちと言っていい。
「詳しいことは、王都の内情について聞かせてもらわないと判断できません。でも――」
政人は何でもないことのように言った。
「クーデターしかないでしょうね」
―――
シャラミアたちとの会談を終えたその夜、政人は英樹に出す手紙の最後の部分を書き換えた。
『俺は、ヴィンスレイジ・シャラミアを助けて女王にするつもりだ。そして、彼女に闇の勇者になってもらい、魔王との戦いで協力させる。期待して待っていてくれ』
ここで第二章は終了です。
ここまで書き続けることができたのは、読んでくださっている方のおかげです。
自分が書いたものが、他人にどのように読まれているかは、自分ではなかなか分からないものです。
感想を書いてくださった方には、大いに励まされ、また参考にさせてもらっています。
第三章では、政人の冒険はいよいよ「国盗り」の段階へと進んでいきます。
これからも、応援よろしくお願いします。




