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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第二章 闇の勇者を求めて

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41.政人vs.ミーナ

 デモンド家に戻り、ヴェイラに作ってもらった昼食を食べていると、ミーナが帰ってきた。


「学校、さぼったのか?」


「違うよ! 今日は午前中で終わりなの!」


 ミーナはそう言って、食卓に加わった。「マサトさんたち、この後用事ある?」


「いや、クリッタが戻るのを待ってるだけだが」

「じゃあさ、私と遊びに行こうよ」

「どこに行くんだ?」

「特に決めてない。フラフラ歩いてるだけでも楽しいよ、この町は」

「まあ、構わないが。みんなもそれでいいか?」


「んー、アタシはそろそろタロウに稽古つけてやりたいと思ってるんだ。旅の間、機会がなかったからな」

「はい、オレもそうしたいです。早く強くなりたいので」


(あれだけ過酷な旅をしておいて、まだ自分の体を痛めつけたいのか)


 政人には理解できなかったが、タロウが強くなろうとしているのは、政人のためなのである。

 せっかくやる気になっているのに、「無理をするな、子供なら遊べ」とは言えない。


「そうか、ハナコはどうだ?」

「我は御主人様に遊んでほしいのである。最近、遊んでないのである」


 それを聞いたミーナは、興味深そうな顔をしている。


「何して遊ぶの? 私も交ぜて!」

「まあ、いいけど、ミーナにはそんなに楽しい遊びじゃないかもしれないぞ」


 そう警告しておく。


 そして食事を終えた後、三人で例のタオルの引っ張り合いをやったのだが、ハナコはもちろん、なんとミーナも楽しそうだった。


 ハナコとミーナは体力的にほぼ互角らしく、熱戦が繰り広げられた。

 手加減をする政人とは違い、ミーナは真剣勝負ができる相手なので、ハナコは興奮しているようだ。


 ミーナもこの単純な遊びを楽しんでいるのは意外だったが、たぶん彼女は何をやっても楽しい人間なのだろう。


「ふー、堪能(たんのう)したのである。我は疲れたので、しばらく休んでいるのである」


 ハナコがそう言って横になったので、政人はミーナと二人で遊びに行くことにした。彼女はまだまだ元気そうだ。


「それじゃ、行くか」

「はいはーい」


 クロアの町の目抜き通りを、ミーナと並んで歩いている。


「ねえねえ、あの店に入ってみようよ」


 ミーナはそう言うと、政人の返事も聞かずに一軒の雑貨屋に入っていった。

 政人はその傍若無人(ぼうじゃくぶじん)ぶりに呆れたが、付いていくしかない。


「ねえマサトさん、これ、私に似合うと思わない?」

「全く思わない」

「せめて見てから返事してよ!」


 仕方なくミーナの方を見ると、彼女は髪留めを持っていた。


(なんだ、これは)


 それは、赤と黒の毒々しい色合いの、蜘蛛の形の髪留めだった。


「そんな物つけて歩いてたら、殺虫剤を吹きかけられるぞ」

「えー、こんなにかわいいのに」

「おまえのセンスは壊滅的にひどいな」


 そう言うと、ミーナは頬をふくらませた。


「そんなこと言うなら、政人さんのセンスを見せてよ。どれが私に似合うと思う?」


 すでに彼女のペースにはめられているような気がしたが、政人は一般的な女子が『かわいい』と言いそうな髪留めを探すことにした。


「これなんか、どうだ」


 そう言って手に取ったのは、大きなオタマジャクシの形の髪留めだった。政人のセンスも、どこかずれていた。


「むむ。確かにそれもかわいい」


 だが、ミーナの好みには合ったようだ。「じゃあ、それに決めた。えーっと、八十ユールって書いてあるよ、マサトさん」


「そうだな」

「…………」

「…………」


「ちょっと、空気を読んでよ。ここは『しょうがねえなあ、買ってやるよ』て言う場面でしょ」

「いや、そんな空気はまったく感じなかったが」


(これは、はっきりと断らないと買わされるな)


 政人は、強い口調で拒否することにした。


「欲しいなら自分の金で買え。俺は買わないからな」

「えー、そんなこと言わないでよ、お兄ちゃん」


「なんだ? そのお兄ちゃんってのは」

「友達から聞いたんだ。年上の男性にこう言えば、なんでも言うこと聞いてくれるって」


 政人は呆れた。

 こいつらの男性観は、どこかおかしい。


「その友達、大丈夫か?」

「あれ、効いてない……? くっ、『先輩』でいくべきだったか」


 ミーナは大げさにうなだれてみせた。


「なんと呼ばれても買わないからな、ほら、行くぞ」

「うん……」


 政人は歩き出そうとしたが、彼女は政人の服の裾をつかんで離さない。


(まだ諦めてないのか)


 政人は、「なんでも思い通りになると思ったら大間違いだそ」ときつく言ってやろうとしたが、その前にミーナが口を開いた。


「ごめんね、マサトさん」


 彼女はしおらしい顔つきでマサトを見上げてきた。「私、一人っ子だったから、ずっと兄弟にあこがれてたんだ。だから、今朝マサトさんに会ったとき、『ついに夢にまで見たお兄ちゃんが現れた!』って思って喜んじゃったの。バカだよね、私。マサトさんは兄なんかじゃないのに……」


(その手には乗らないぞ。乗ってなるものか)


「知ってるんだ。本当は私は、みんなから嫌われてるってこと。当然だよね。だって私、自分の事しか考えてないもん。こんなわがままな子が近くにいたら、誰だって嫌だよね」


 ここでミーナは顔を伏せ、つぶやくように言った。「それでも、マサトさんにだけは、嫌われたくなかったな……」



 政人は店員に八十ユールを払いながら、これは決して自分がミーナに負けたわけではない、と思うことにした。

 お世話になっている家の娘に対して、このぐらいのお礼をするのは当然だ、と。


 だから、オタマジャクシの髪留めをつけたミーナが、さっきの神妙な態度が嘘のように、はじけるような笑顔で踊るように歩いているのを見ても、これでよかったのだ、と自分に言い聞かせた。




 その日の夕方、クリッタから、ケンブローズ・ウェムジー聖司教との面会の約束を取り付けた、との報告を受けた。

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黒蛇の紋章

― 新着の感想 ―
[一言] これは嘘とわかっていても払ってしまうよ、うん。 政人は間違ってない。
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