22.武器屋にて
武器屋に入ると、学校の教室ぐらいの広さの店内に、ガラスのショーケースがいくつも並んでいた。ショーケースの中には剣や槍、弓矢などの武器が陳列されている。
壁にはいくつもフックがあり、比較的軽めの剣や短剣などが掛けられていた。
「どのような武器をお探しですか?」
店主と思しき親父が近寄ってきた。
政人は、タロウを指し示して言った。
「この子でも扱えるような軽い武器はないか?」
「そうですね。こちらの刺突剣などはどうでしょうか?」
店主は壁に掛かっている剣を示して言った。それは刃渡りが一メートルほどで、フェンシングの剣のように尖った剣だった。
手に取ってみた。鉄なのでそれなりの重さはあるが、これならタロウでも使えそうだ。
「悪くないんじゃねーか?」
ルーチェもそう言うので、「タロウ、どうだ?」と言って振り向いたら、タロウがいなかった。
「どこ行ったんだ、あいつ」
店内をキョロキョロと見まわすと、タロウがショーケースを夢中になってのぞき込んでいた。目が爛々と輝き、尻尾が揺れている。
近寄って肩をたたくと、飛び上がって驚いた。
「ご、ごめんなさい! つい引き込まれちゃって」
何を見ていたんだと確認すると、刃渡り二十センチほどの短剣だった。諸刃の直剣で、刀身が黒く輝いている。
「これはお目が高い!」
店主は淀みない調子で説明し始めた。
「その短剣は、鋼鉄よりも硬いフィブロクス石で作られています。フィブロクス石は、現在ではスランジウム王国のリバル鉱山でしか産出しません。それを新進気鋭の鍛冶師サンディーム・ケイロンが鍛え上げ、短剣にこしらえたものです。見てください、この黒い輝きを!」
タロウはその説明の間も黒い短剣に見入っており、政人をチラッ、チラッと見てくる。
政人は首を振って、タロウにその短剣の値札を指し示した。
値札には「四万五千ユール」と書かれている。
タロウは初めて値札に気付いたようで、「あっ」と小さく声をもらした後、はっきりとわかるように肩を落とした。尻尾はしおれて動かなくなった。
そんなタロウの様子を見て、政人はため息をついた。
(仕方ない、かまをかけてみるか)
「四万五千ユールか、随分安いな」
「えっ」
ルーチェとタロウが驚いたような声を出すが、それを目で制して続ける。
「まあ、フィブロクス石の短剣ならそんなものか」
「もっとよいものをお探しでしょうか?」
「ああ、武器は自分の命を守るものだからな。金に糸目をつけないほうがいいと思うんだ」
「おっしゃる通りでございます」
「タロウにはその短剣でもいいが、俺はそれとは別に、もっといい武器が欲しいな……三十万ユールまでなら出してもいいと思ってるんだが」
二人はわけがわからないという表情だが、政人が何かをしようとしていることは察したようだ。
店主はニヤリと笑って、「こちらへ」と三人を奥の部屋へと案内した。
そこは倉庫のようで、武器が入っていると思われる箱が、いくつも積み上げられていた。
そして店主はその中から一つの箱を持ち出し、政人たちの前に置いた。
箱を開けると緩衝材が詰まっており、店主はその中から、刃渡り一メートルほどの鞘に納められた長剣を取り出した。
「どうぞ、手に取ってみてください」
持つと、ずっしりとした重量感が伝わってきた。鞘から抜くと、虹色に輝く刀身があらわれた。
政人は感嘆の声を上げた。
「これはすごい」
「世界最高の硬度を誇るゴルグ石で作られた剣です」
そして店主は自慢げに説明した。「ゴルグ石は神聖国メイブランドでしか採れないんですが、あの国は限られた相手としか貿易をしない上に、ゴルグ石については輸出を制限していて、ほとんど出回らないんです」
(やっぱり、この店にあったか)
「へえ、よく手に入ったな」
「ウチは独自の仕入れルートを持ってましてね。どうですか、お客さん。ホントは四十万ユールはする品なんですが、今回は特別に、三十万ユールにお負けしてきますよ」
「それはありがたい……でも、一応バーラに確認してからのほうがいいな」
「バーラって、どなたですか?」
「ソームズ家の一等事務官、イルゼイ・バーラだよ。メイブランドとの貿易を担当しているんだ」
そう言うと、店主の顔は目に見えて青くなった。
「最近ゴルグ石を横流ししてる奴がいるらしくてね。彼女はずいぶん怒ってたよ」
ゾエの町の港で船の積み込み作業を見ていた時、バーラはそんなことを話していた。
「まあ、あんたは正規のルートで手に入れたんだろうから、なにも心配はいらないよな。とりあえずバーラに確認だけはしてもらおう」
タロウは嬉しそうな顔で、フィブロクス石の短剣を眺めながら歩いている。
定価の十分の一、四千五百ユールに負けてもらって買ったものだ。
「前から思ってたけど」
ルーチェがニヤニヤ笑いながら言う。「悪い奴だなあ、マサトは」
「何を言う、正当な値引き交渉の結果だ」
「はいはい」
店主との交渉の結果、ゴルグ石の剣については黙っていてやることにした。その代わり、タロウが欲しがっていたフィブロクス石の短剣の値段を、大きく負けてもらうことになった。
尻尾を右に左に揺らしながら歩くタロウを見ていると、買ってあげてよかったと思う。
(どうもオレは、タロウに甘いのかもしれない)
「でも、よかったのか?」
ルーチェが問いかけてきた。
「なにがだ?」
「あの武器屋、ゴルグ石の横流しに関わってたんだろ? バーラに教えてやらなくていいのか? アイツは、アタシたちを助ける義理もないのに、あんなに世話してくれてるんだぜ?」
「まあ、店主に黙っててやるって約束しちまったからなあ」
マサトは言った。「もっとも、俺は黙っていると約束したけど、ルーチェならバーラに何を言っても構わないんじゃないか?」
ルーチェは一瞬キョトンという表情をした後、吹き出した。
「やっぱ悪い奴だ、マサトは」




