あなたをずっと愛してる。
「───英雄」
金神は口ずさんだ。
全ての計画が無駄となったことよりも、幾百の同胞の犠牲が無駄になったことよりも、金神の小さな小さなメモリーに入っている燃えるような記憶。
知っている、あの姿。
覚えている、あの力。
忘れるはずもない、あの男の英雄譚。
かつて自分が恐れ、恐怖し、理解できなかった英雄の姿がそこにあった。
「我は狩人、悪逆非道な怪物も、罪なき善良な怪物も、我の弓の前ではただの獣。その剛矢は全ての獣を貫き射殺す。神の名の元に───【ターゲット固定】【具体変形:神の弓矢】【魔力装填】【応急修理】【詠唱省略】【制御機能全解除】」
カルディヤの右の機腕が2m以上の巨大な弓に変形し、召喚魔法により3m近い巨大な槍のような矢が現れ、弓に装填される。
スコープによりヴァルバラの姿を確認し、矢が完全に装填されると同時にその矢は放たれた。
それはかつて酷道平原にてエルフ、ドワーフ、ビースト、ヒューマンによる6万の同盟軍の内、4万もの人類を屠った神の剛矢。
エクスマキナによるたった一度の一斉射撃により、同盟軍は5分の1の人類が全滅し、それを休む間もなく何度も、何度も放たれ、その度に数千もの人類が死んだ。
「《一矢の慈悲》」
その矢は、魔槍グングニールを矢に改造したもの。
量産し、いく100、幾万にも量産されて尚、その魔槍グングニールの能力が落ちることなく、それは常に的に当たると言う確定事項が現実となる代物。
つまり矢が放たれた時点でヴァルバラにあたるのは確定した未来となり、既に矢はヴァルバラに当たっているという未来にそって向かっていく。
「死ね」
───ガイイィィッ!
「なにッ!?」
次の瞬間、矢が一振の剣によって防がれた。
それは勇者の剣を模した模造品。
しかし、その力が弱くなったとて、力が無くなった訳ではない。
その剣は運命を否定する。
確定した運命を捻じまげ、拒絶する。
予知、運命、未来、その確定した全てが剣の一振で不確定なものとなる。
カルディアが剣で魔槍を弾いたと同時に機械仕掛けの剣は砕け散る。
たった一撃、たった一撃防いだだけだ。
次は確実に殺せる。
金神はすぐに再装填を開始するが、そのわずかな時間は、ヴァルバラが反撃するには十分な時間だった。
「───鋼牙一刀流」
───鋼牙一刀流には1つの技しかない。
それはあまりにも単純であり、技と言えるかどうかも怪しい技。
【鋼牙流・"一式"《爆心爆血》】と【鋼牙流・"二式"《剛力豪体》】により身体能力を極限まで引き上げ、自身の剣を限界まで回転させて相手に投げつける技。
「《大車輪》ッ!」
───要はただのめちゃくちゃ速くて威力の高い投擲である。
剣のような長く重い物は投擲に向かない。
風の抵抗や重心などの影響で、小さな投げナイフなどと比べ狙った場所に当たりにくいという理由などもある。
「───がッ」
しかし、それはただの投擲だった場合だ。
ヴァルバラの力任せな投擲は、さながら斬れる大砲と言ってもいい。
かの金神と言えど、負傷した機体での回避は不可能であった。
何よりヴァルバラの使う魔剣、【血を啜る剣】は使用者の血液を啜り、それによって効果が異なる。
それは相手の全ての防御を無視するという能力。
つまり、相手は防御ができなくなる。
この時金神は"回避"ではなく"防御"を選択し、それが悪手となった。
「オ、ノ・・・・オノノノレエエェェェッッッ!!!」
ノイズ混じりの音声で叫ぶ金神。
しかしその直後、はるか遠くに居たはずのヴァルバラが目の前に突きの構えをして立っていた。
ヴァルバラの装備している魔装【黒兜】の効果である、"視認できている敵"の目の前に移動出来る能力による物。
金神はすぐに攻防の加護を発動させようとするも、それよりも速くヴァルバラの拳は放たれる。
「"鋼牙流"【三式】・《鬼拳》」
次の瞬間、鋼牙によって破壊されていたコアを更に破壊する。
それと同時に、カルディアの全機能がシャットアウトしていく。
「───」
「憐れだな、ガラクタが」
「───カナラズコロス」
そう言って金神、及びカルディアは完全に沈黙した。




