凡人英雄
連合軍十席【ベヒーモス】
人も、城も、兵器も、全てを踏み潰し、破壊し、更地にする。
歩くだけでその都市に災害をもたらす神代の獣。
数千年に渡り、数多の戦場と街と生命を更地に変えてきた怪物。
ベヒーモスの足音を聞けば、街の住人は皆逃げ、街を明け渡し、魔王軍に今までに数多くの功績を残してきた獣。
その獣から城を守り、撃退したのが【不動】のサラハット。
自身を軸にした一定の範囲の中に他者、障害物が少しでも入っていればその時間を停止させる。
ベヒーモスとの戦いの中で、サラハットの姿は正に不動。
【城崩し】とも呼ばれていたベヒーモスから唯一拠点を守りきった騎士であり、王の"指"の1人。
「グ········ッ、オオォ···············ッッ!」
地面に伏すベヒモス。
かつての自分は歩くだけで全てを破壊し、【歩災】と呼ばれ恐れられ続けた。
なのに、たった一人の、たかだか太陽星君の権能によって作られた"神工生命"の分際で、時に英雄として、時に災害として、時に神として崇められてきた自分を見下し、情けをかけようとしている。
それが、それがこの上ない屈辱だった。
「···············」
「どうした、トドメをさせサラハット」
既に小さな子どもの姿に戻り、体を血だらけにしながら、しかし這いずりながら必死にサラハットに追撃しようとするベヒーモス。
しかし、決着は既に着いていた。
それは誰の目にも明らかだ。
「··········知っていますよね、俺はガキは殺さないと」
「ヴァルバラの受け売りか」
「·························」
───お前はまだ、こんなもの見なくていいんだ。
───だってまだ、子供なんだから。
あの時見た、確かに見たあの光景。
自身の臓腑を切り裂かれ、激痛に耐えながら、それでも治癒も、手当も、切り裂いた子供に制裁する訳でもなく、彼はただ小さな小さな、まだ幼い子供をひたすら抱きしめ続けた。
臓腑に刃が突き刺さってもなお、彼は
───ごめんなぁ。辛いよな、痛いよなぁ。お前の痛みに比べたら、俺のこの痛みなんてすぐに治っちまう。
そう言って彼は子供を泣きながら抱きしめ続けていた。
子供はただひたすらに泣きながら謝り続けていた。
あの時確かに見た。
少年兵に腹を貫かれ、それでも尚子供をいたわり、子供に武器を持たせてしまった自分のふがいなさを悔い、泣き続けた男の姿を。
だから俺は決めた。
誰に言われたわけでも、強要された訳でもない。
たとえ主の命だとしても、それだけは絶対に曲げない。
子供は絶対に殺さないし、殺させない。
例え敵でも、それが魔王だったとしても、仇だとしても。
自分が死ぬことになろうとも。
「違う。俺が、俺自身が決めました」
「···············くふ、くふふふッ!」
その答えに、王は手を口で押えながら笑う。
「バカが」
「なぜ笑うのですか」
「それを受け売りというのだ」
そう言うと大爆笑する王。
その姿に、少しムッとした表情を浮かべながら不機嫌になる。
「いっそお前がヴァルバラの嫁になってはどうだ?」
「ふざけんな」
「案外お似合いかもしれんぞ?子は成せんが、まぁ血の繋がりなど些細なものだ。子が欲しければ養子でも取ればいい」
「お前が言うと冗談になんねぇんだよ」
「冗談のつもりは無いぞ。どこぞの馬の骨に我の刃を渡すくらいならば、お前に任せた方が鋼牙も我も安心だ」
「俺は男だ!」
「些細な問題だろ。今のご時世同姓愛など当たり前だ。否定する方が大問題だ」
「俺は女がいい!」
「···············ならばヴァルバラの性別を女にするか。ちょうど男を女に変える聖水があったはず」
「同僚の女体化とかマジでキツイから!お前そんなんだから愚王て呼ばれんだよ!」
「まぁ戯れはここまでにするか」
「どこからが!?どこからが戯れ!?」
そう言って太陽星君はベヒーモスを見る。
「ならばこいつは"スター☆プリズン"に投獄する。異論は無いな?」
「···············あぁ」
その言葉と共に、ベヒーモスを包むように魔法陣が現れると、ベヒーモスの四肢を鎖が縛る。
「は、なぜえ゛ぇ゛ぇ゛ッ!ごロズッ!おばえ゛をがならずう゛ぅ゛ッ!」
「···············俺はお前を生かし続ける。お前が子供の内は··········」
その断末魔と共に、ベヒーモスは魔法陣の中へと消えた。
「さて、この国を救う英雄の姿でも眺めるとするか」
「英雄ですか···············ヴァルバラは英雄なんかじゃありませんよ。やつは所詮、ただ凡人です」
迫り来る厄災の星、【アルマゲドン】。
王が全力の結界を張れば防ぐことは可能だろう。
だがそれは不可能だ。
たった一度のワープでも大量の魔力を消費する魔法、それを大国の住人、約何百万と言う民を安全な場所へ転移させたのだ、その消費された魔力は計り知れない。
これ以上の消費はリスクが高い。
その為にもこの2つ目の厄災の星なんとしてでも破壊してもらわなければならい。
「結局俺はお前を助けられないのだな···············」
その言葉と共に、厄災の星は粉々となった。




