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今更




「今回の国打ちでお互いが求めたのは、鬼族の魔王軍に下るか、我らと同盟を結ぶか。結果鬼族と我らは対等な同盟関係を結ぶことが出来た。お前のおかげだ、ヴァルバラ」

「はい」


俺達は例え落ちぶれようとも、使い物にならなくなろうとも、死んだ後も、その魂と肉体を王の供物とする。

要はていのいい生贄だ。

今更人間一人殺した程度、なんとも思わない。

たかだか数年共にすごし、俺の技と力と生きる術を教えたに過ぎない。


きっと俺の師匠がそう思うように、俺も弟子を殺したからと言って、なにか思うわけでも、ましてや誰かを恨むこともない。


俺は騎士であり、兵士だ。

換えの聞く駒だ。


その事を忘れてはならない。


「もう下がっていいぞ。報酬はまた後日渡そう」

「はい」


そう言って俺は王の玉座から出ていこうとする。

歩く足が重い。

前を見れば、今まで殺した魔族や人間達が俺を見ている。

1人、一人殺す事にその数が増え、俺の地獄行きの道を示してくれている。


(これで、何人目だ)


ふとそう思った時、俺は今まで殺したヤツの顔が頭に浮かぶ。

目に焼き付いた、命の終わる瞬間。


俺はそれを決して忘れることが出来ない。


そうして扉を閉めた。


そしてヴァルバラの居なくなった部屋でサラハットが口を開いた。


「昔の弟子を殺させて、ヴァルバラの忠誠心を試すなんて···············いい趣味ですね」

「いや」


そして王はヴァルバラが出ていった扉を見つめながら


「奴の願いであり、森からの頼みだ。今度こそ殺してくれとな」

「·························」


これでお前は満足か。

お前は奴が自分を殺せば少しは楽になる、救われると言っていたが、我には奴が···············ヴァルバラをさらに苦しめたようにしか見えぬぞ。


それとも、自分の死でもって、ヴァルバラに森長可という存在を刻ませたか?


「···············あいつのあの顔は、いつ以来だったか」


初めてヴァルバラに謀反人である男と、その子供を殺させた時、奴はあんな顔をしていたな。






▲▽▅▽▲







「よぉ、おかえり」

「····················ただいま。リヴァイアサンは?」

「なんか腹減ったって言ってどっか行った」

「そうか」


疲れた。

酷く体が重い。何もやる気が起きない。何も考えられない。ともかくどこかに寄りかかりたり。

全てが灰色で、つまらなく感じる。気分が悪い。胸の奥がザワつく。兎も角なにかして、この気持ちを落ち着かせたい。

何をすればいいか分からない。


疲れた、疲れた、疲れた。


───何が?


「おい」

「あ?」

「ん」

「····················なんだよ」

「女が膝を差し出してんだ。する事は1つだろう」


そう言って二十八号はソファに座りながら膝をポンポンと叩く。

また馬鹿みてぇな本でも読んだのだろう、くだらない。

だが、今の俺にとっては、気を紛らわせてくれるなら、たとえそんなくだらない事でも、断ると言う選択肢はなかった。


「機械の癖に、随分と柔けぇな」

「当たり前だ。人間を忠実再現してるからな」

「·························」

「随分と疲れてるみたいだな」

「····················分からねぇ」


自分自身が今何を考えているのか、どうしたいのかすら分からない。


「分からないなら教えてやる。お前は疲れてんだよ」

「·························」


二十八号は膝の上に乗せた俺の頭を優しく撫でながらそう答えた。


「昔、俺にも友が居た」

「機械じゃないんだから当たり前だろ」

「殺した」


俺の最初の罪。

初めての殺人。

俺の初めての童貞を捨てた日。


「俺の友は謀反人で、俺はその友の一族全てを殺した」

「人を殺すのがそんなに辛いのか?」

「辛くはねぇが、苦しい」

「罪悪感か。これだから哺乳類は、感情が豊かすぎる」

「あぁ、たまに思うよ。お前ら機械みたいになれたら、どんだけ楽なんだろうな」

「····················阿呆が」


そう言って二十八号は俺の頭を軽く叩いた。


「お前は人間だ。愚かで、無様で、弱く、脆い。非合理的生き物だ。特にお前はその人間その物だ」

「随分な評価だな」

「だから惹かれた」

「····················」

「非合理的思考、行動、理解不明、エラー、私の知っている人間だからこそ、理解できなかった。お前は"あの時"、死ぬとわかっている戦いになぜ、身を投じた」


かつての魔王軍との大戦。

魔王軍が四天王の一人と、その部下14万。

王の懐刀であり近衛隊隊長の鋼牙の不在と勇者の不在により、ヴァルハラはその14万の敵に、たった数人の近衛隊で挑み、ヴァルハラの全ての部下を犠牲にし、勝利した。


しかし、その功績は勇者の物となり、ヴァルハラは逆に優秀な兵を無駄死させたことによる罪で降格。

部下殺しの汚名までつけられ、師である鋼牙により半殺しされ、半年王国の地下に投獄された後、鋼牙の提案により突撃隊に所属することになる。


「なぜだ。今でもわからん」

「何が」

「魔解放連合軍、第五席。四天王、A-00-02。お前が見逃した機械人形だ」

「····················居たな、そんな奴」

「私だ」

「あ?」

「ソレは私の初期型だ。今は改造に改造を重ねてこの姿に落ち着いた」

「·························機械って変わるんだな」


俺の知っているその四天王は確か、300メートルはある巨大な戦艦だ。

なんか破壊したら女の子が出てきたから何となく見逃したんだが、まさかあれが本体だったのか。


「私にとってお前は初めて理解できない人間だった。思えばお前を見た時からだな、私が人の真似事をし始めたのは」

「機械は男を見る目がないんだな」

「生憎、私は外見より中身派だ」

「言ってろ」

「お、惚れたか?」

「····················少し」

「ふふん、これはお前と結婚する日は近そうだな」


そんな上から目線の言葉を、俺は聞き流した。

少しだけ心臓の鼓動が早くなって、顔が熱くなった気がするが、きっと気の所為だ。

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