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第969話『乗り継ぎ』

 現在、リディアさん達は魔導式の貨物車に乗せてもらい、職人のガレッキさんがいるという雪山を目指している。


 「到着。到着でーす」


 部屋の上の方についている管から、到着を告げるアナウンスが聞こえてきた。砂丘を爆走していた貨物車は無事、事故に合うこともなく目的地へとたどり着いたようである。


 「我々、乗組員は先に降り、荷物の積み込みと運び出しを済ませます。皆さんは、あとで降りてきてください。作業が終わったら呼びに来ます」


 積み下ろしや仕事先とのやりとりで、到着からしばらくはゴタゴタするのだろう。リディアさんたちを残し、男の人たちは車を降りて行く。


 「ええと……バルトさんは、あのままでよいのですか?」

 「お役目を果たされましたので、しばらく休憩となりますわ」


 リディアさんが正面についている窓ガラスをのぞいている。その向こう側にいるバルトさんは床に倒れていて、無表情のまま天井を見つめている。ひとまず、持てる魔力を全開放して、疲れ切ったものと考えられる。他の乗組員の人たちも気にしていなかったし、いつものことなのかもしれない。


 「到着した……だったら、もう氷竜を見られる?」

 「現在地は、湿地でございます。ここより更に数時間ほど移動した場所が雪山となりますわ」


 そう言うメフィストさんと同様、俺も早く氷竜を見てみたいとは思うのだが、その前に湿地帯を超えねばならないようだ。エメリアさんが窓から外をのぞき見て、そこにいる魔獣を教えてくれた。


 「コウラを背負った大きい魔獣がいますね~。あの魔獣の引いてる車に乗るんですか?」


 「湿地帯は木々やぬかるみが多いことから、あまりスピードを出すことができません。荷物も多い為、体の大きな魔獣により慎重に牽引することとなっておりますわ」


 みんなの入れ替わりの質問に、シロガネさんが丁寧な解説を返している。ここからはカメっぽい魔獣が引く車に乗り換えることとなるようだ。


 そうした話を20分くらい続けたところで、乗組員の男の人が呼びに来てくれた。


 「もう外に出ていただいても問題ありません。ただ、我々が同行できるのは、ここまでとなります。あとは現地民の業者へ引き継ぎます」


 「了解しましたわ。お嬢様。皆さま。事前に申しあげたとおり、ワタクシたちは運搬業者の一員といった身分にて、貨物車に同乗いたします。ご留意くださいまし」


 「解りました。バルトさんも、ありがとうございました」


 「……おお」


 リディアさんがバルトさんにも感謝を告げるが、横目でチラッと見ただけで身体は動かせないようだ。魔法は使いすぎると、MPだけでなくHPも消耗するのだろうか。


 リディアさん達が車を降りる。周囲の景色には、まだ密林地帯という雰囲気はなく、砂場に木々がぽつぽつと生えている程度である。倉庫にも似た建物が幾つか建てられていて、ちょっとした村みたいな感じだ。


 「……」


 トラックくらいも体格のある大きなカメの魔獣の近くに、肌が白くて髪が青っぽい人たちがいる。あの人たちが、ここから先の荷物の運搬を担当する人たちなのだろう。アレクシアの運搬業者の人が、リディアさんたちを紹介してくれている。


 「こちらが、アレクシア帝国の視察団です。よろしくお願いします」

 「……どうやら、人間以外の種族の方がいるようですが?」

 「今回は高所の調査を目的とし、ギルドへ応援を要請しておりますわ」


 アレクシア帝国の公務員は人間のみで構成されている。エメリアさんとメフィストさんはさておき、羽のあるジェラさんは一目で人間ではないと見抜かれてしまったようだ。だが、シロガネさんの言い訳で、なんとか納得はしてくれたようである。


 「まあ、良いでしょう。乗っていただく場所は屋根上しかないですが、ご乗車ください」


 カメが引いている車の中は荷物が詰まっているので、車の屋根の上に乗せてもらうこととなった。一応、人が乗りやすいよう日よけはついているようだ。


 「それでは、シロガネさん。それと皆さん。お気をつけてー。視察に行って来てくださーい」


 リディアさん達ははしごを使って車の屋根部分へと上り、下で手を振っている乗組員の人たちを見下ろす。そうして見ていると、魔導車の中からバルトさんも駆け出し、全力で手を振ってくれた。


 「雪国の寒さに負けるなぁぁぁ!心は炎魔法だあぁぁ!」

 「バルトさん……もう動けるとは。すごいな」


 英傑と呼ばれるだけあって、魔力の回復も早い……のかは解らないが、その元気さにリディアさんは驚いている。見送りの声を受けている間にも、カメの魔獣が引く車は移動を開始した。エメリアさんが車の前の方に座って、魔獣の歩く様子をながめている。


 「あれですね~。ゆっくりですけど、自分で歩くよりは、ぜんぜん速いです」

 

 魔獣は一歩一歩、踏みしめるようにして進んでいく。体格が大きいこともあり、その一歩も非常に大きく、スピードは思いのほか速い。


 なお、この先の道は色濃い森であり、木々の背も高い。スピードを出せば、すぐに木にぶつかるであろうことは明白である。


 そうしたオーニスの街までの経路を踏まえ、リディアさんが考え事を始める。


 「これだけの道のり……さらに雪道が待っているとあらば、魔人討伐作戦の準備も容易ではなかったのだろう」


 「そうですわね。特に寒さに耐性のないコクサ王国の援軍は、環境に適応するだけで苦労したことでしょう」


 「でも……魔人を倒してくれてよかったです。そうじゃなかったら、こうしてみんなで行くこともできなかったでしょうから」


 ジェラさんの言葉に、みんなはうなずいている。あの雪の深い場所で魔人と出くわしたならば、絶対に命はない。それは想像できることである。


 「……」


 そういや、魔人って高熱をぶつけて倒すことはできるようだけど、寒さに関してはどうなのだろう。雪山の一帯にいたことを考えると、どちらかといえば寒い方が動けるのかもしれない。


 それに、ガレッキさんたちの住んでいる場所が、魔人に襲われていたという様子もなかった。高いところに登るのは苦手なのだろうか。魔人の性質については未だ謎が多い。


 「まだ雪山も見えていませんけど……ちょっとずつ寒くなってきました」

 「防寒着がございます。こちらをお使いくださいまし」


 ジェラさんが背中の羽で、自分の体をおおっているのを見て、シロガネさんはラピスラズリーさんの店で買った防寒マント……らしきものを差し出している。ジェラさんだけは帝国製の装備をつけていないが、一応は普段より厚着している……ような気がする。なお、透視しているので、実際のところは解らない……。


 立っていると風に吹かれるとしてか、みんなは座って景色をながめている。いつ頃、雪国に到着するのか、エメリアさんが気にしている。

 

 「何時間くらいで着くんでしたっけ?」

 「そうですわね……このまま4時間ほど移動いたしますわ」

 「……寝てもいいですか?」

 「いや……一応、現場の視察の名目だから寝るのはどうなのだろうか……」


 リディアさんとしては業者のふりをする以上は、寝るわけにはいかないという考えのようだ。とはいえ、このゆったりとしたスピードと、いい感じの晴れ空である。眠くなるのも仕方がない。


 「……」


 というわけで、みんなは到着するまで眠気に抗うという、それなりに過酷なミッションを課されることとなった。


 「……」


 その間に俺は、他の場所を確認してみることにした。ガレッキさん達は未だに俺を納めるための箱を作っているし、職人さんたちに見られている以上は俺もうかつに動けない。


 盗賊の人たちも、まだ浮き島には戻って来てはいない。久々のベッドでの睡眠が気持ちよくて、なかなか起きられないのかもしれない。


 「……?」


 何をしようかと俺が考え始めたところで、勇者一行の元にある俺の体が、やっとカバンから取り出されたのが解った。勇者の人たちはリディアさんの実家に向かっていたはずだが、ついに到着したのだろうか。俺は透視スキルをオフにして、そちらの様子を見せてもらうことにした。


 『現在地:ラチナ共和国 郊外』


 「長い旅路の末、ついに来たぞ。リディア・シファリビアの家に!」


 「この石……ずっとカバンに入れていましたが、動いた気配はなかったですね」


 「やっぱり、その石はオーパーが転んだ時に、ポケットに入り込んだだけだと思います。少し変わったただの石です」


 勇者の人は大きな門を見ているが、後ろにいるオーパーさんとペリダさんは俺を気にしている。あまりリディアさんの家に興味はないようだ。

 

 「オーパー!ペリダ!もっと喜ぶべきだ。今から世界一の美少女であるリディア・シファリビアに会えるのだぞ!」


 「私……子どもの頃から会ってますので、もういいです。それに、あれを美少女とも思いません」


 「私は……まあ、別に……」


 ペリダさんは元々は貴族なので、リディアさんとも何度も顔を合わせたことがあるようだ。オーパーさんは……コクサ王国で会ったことを知っているから、その点はしらばっくれている。


 「リディアはともかくとして……あのメイドのシロガネがいるかも解らないと思うと、屋敷に入りたくもありません」


 「いや、ペリダ。ここは同じメイドとして、シロガネに格の違いを見せつけるべきだ。行くぞ。たのもー!勇者スピネルが参ったぞ!」


 ペリダさんの意向は気にせず、勇者の人が道場破りみたいな呼びかけを門へとぶつける。


 「……」


 しかし、反応がない。そもそも門の向こうにあるであろう家すらも見えない。


 「勇者スピネルが参った!開けて欲しい!」


 ……。


 「ボクは勇者スピネル!勇者だぞ!」


 ……。


 「勇者スピネルだ!リディア・シファリビアに会いに来た!」


 ……根気強く呼び掛け続け、10回ほども叫んだところで、メイド服を着たおばあさんが門の上から顔を出した。


 「おお!気づいてくれたか。勇者スピネルだ!開けて欲しい」

 「スピネル様……あなたには以前、出入り禁止と申し上げたはずですが」

 「いやしかし、リディア・シファリビアがボクに会いたがっている。開けて欲しい」


 出禁にされている……なのに、会いに来てしまったようだ。


 「お帰りくださいませ。失礼いたします」


 おばあさんは門を開けることなく、一礼して去っていった。リディアさんの家としては、勇者の人を危険人物とみなしている節があるようだ。これでは入るに入れないとして、オーパーさんが引き返そうと告げる。


 「過去に何をしたのかは解らないですが、出禁にされてるじゃないですか……帰りましょうよ」


 「……試練か」


 「……?」


 「くっ!リディア・シファリビアは……ボクを試しているというのか。ならば、なんとしてでも会わねばならない!行くぞ!ペリダ!オーパー!」


 会わせてもらえないとなると、逆に燃えてきてしまう困った人であるようだ。屋敷へ入るための次の作戦に移るべく、勇者の人はカッコよくマントをひるがえした……。


続きます。

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