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第964話『壁』

 百二子様の案内と周辺のマップを頼りに、俺は人のいる場所を目指して雪の中を進んでいる。目的地へは近づいているはずなのだけど、見えるものは雪ばかりだから、進捗に関しては解らない部分が多い。


 今のところ木には一度もぶつかっていないことから考えて、植物があるのは人の手で除雪した場所……街の近くだけなのだと思われる。生き物もいないし、オーニスの街の人たちがどうやって安定的に食料を確保しているのかは不明である。


 「……」


 俺の登っている足場は、上り坂となっている。とすると、俺は山を登っているのだろうか。そして、これがどのくらいの高さの山なのか。それを知ろうと上を見ても映るものは雪ばかりであり、山の形はおろか空すら見えない。


 そうした歩みの中で、次第に斜面が厳しくなってきた。丸い体を転がしながら移動するのでは、あまり効率がよくない。足があった方が昇りやすいと考え、俺はラーニングした魔獣のリストを視界の中に表示する。


 穴の中に住む魔獣に変形すれば、雪を掘り進めることも容易だろうか。いや……雪自体は土と違い、強く押せば崩すことができる。斜面に対応しやすいよう、爪のある魔獣になった方が歩きやすいはずだ。


 『造形:カイリザード(レベル2)』


 ドラゴンならば前足にも後ろ脚にも、しっかりとした爪がある。羽を折りたたむことができる体の構造から、俺は比較的オーソドックスな緑色のドラゴンへと変形する。といっても色までは変わらないので、結局は灰色の石のドラゴンになってしまう。


 カイリザードに関しては帝国でも何度か見かけた為か、以前よりラーニングスキルのレベルが上がっている。まあ、レベルが1上がるくらいで、そこまで何か変わるかというと、別に大して変化はない……。


 爪を地面に食い込ませ、姿勢を低くして雪の中を進む。段々と斜面の角度が上がっていく。


 「……」


 もはや、角度が70度くらいある。山を登っている気持ちが、徐々にクライミングに近いものとなっていく。それでも爪の性能が高いおかげで、張り付くことはできている。


 「……!」


 ついに角度が90度となり、山登りが完全なる壁登りと化した。その瞬間、視界が開けた。雲のかかった夜空が見える。


 「……」


 かなり登ったと思ったが、それでもまだまだ道のりは遠そうだ。俺のしがみついている壁は、天まで続いているのかと錯覚するほど高い。他の山々にはばまれ、周辺の景色もふさがっている。


 「職人の人々は、こちらの山の頂の付近に住んでいます。石田様。飛行は可能でしょうか」


 風が強いので、体重を軽くすると飛ばされてしまいそうです。このまましがみついて登っていく方が安全かもしれません。


 「……」


 しかし、こうして過酷な環境で変形してみると、魔獣の体というのはよくできたものである。氷に差し込んだ爪も誤って外れたりはせず、がっしりと固定されていて落ちる心配もない。体が細いおかげで体に雪も積もらず、雪で視界が遮られることもない。非常に機能的だ。


 周囲の状況を確認し終わり、俺は再び壁登りを始めた。山の壁は平面ではなく、ところどころに大きな突起がある。それを避けながら、俺は一歩一歩、慎重に頂を目指す。


 「……?」


 なんだろう。空に影……みたいなものが見えた気がする。鳥か?そもそも、こんなところに鳥がいるのか?そんなことを考えている内、落下してきた何かが俺の横を通り過ぎ、そのまま山のふもとに積もる雪の中へと消えていった。


 「……石田様。人が落ちてきました」


 ええ?今の人でしたか?


 「間違いなく人でした。職人の一人かと」


 まさか。山から転落したのか?でも、俺の横には太いロープが見えている。これを先程の落ちていった人物はつかんでいるのだろう。とすると……下山したのか?こんな夜に?


 「……」


 どうしよう。このまま登っていった方がいいのか。念のために降りて様子を見に行った方がいいのか。手足を止めて考え込んでいると、ピンと張ったロープが小刻みに揺れているのが解った。


 ザッザッザッ……という壁を蹴るような音が聞こえる。もの凄い勢いで下から、ロープをつたって人が上がってきた。俺がいる高さに並び、ゴーグルをつけた顔を近づける。


 「……」


 ニット帽とゴーグルで顔は隠れている。口元もマスクで覆われていて、人物の表情は全く解らない。ただ、マスクから白いヒゲがあふれているので、ご年配の男性なのではないかと思われる。


 「……」


 何を言うでもなく観察され、俺は動くに動けず体を固めている。今、体の光を消すと、それはそれで怪しまれそうだ。何もせずにやりすごしたい。


 「……」


 突然、謎の男性は俺を左手につかんで腋にはさむ。その後、勢いよくロープを伝って壁を登り始めた。


 「ああ……石田様が」


 急に掴まれたことよりも、俺は謎の男性の身体能力に驚いていた。俺を小脇にかかえて動きづらいにも関わらず、まるで跳ねるように軽快に壁を登っていく。


 見る見る内に高度は増していき、他の山々は眼下に映る。この山が恐らく、付近では最も高いのだろう。そんな最高峰のてっぺんが、ぐんぐんと近づいてくるのが見て解る。


 息を切らすこともなく謎の男性は山を登り終え、俺を左手に持ち直す。こうして見ると、山の上も結構、広い場所であるらしい。向こうには更に高い丘らしきものもうかがえる。


 山の下とは比べ物にならない吹雪の中に、二階建ての建物が見えた。ドアを開けて灯りのついている部屋へと入り、謎の男性はゴーグルやマスクを外す。


 「お前の言ってた、空から落ちてきたもんかは解らんが、変なもんは見つかったぞ」

 「お……お帰りなさいっす。お師匠様」

 「師匠。すぐスープを入れますんで。座っといてくだせぇよ」


 部屋の中には男の人が二人いて、一人は大柄でスキンヘッド。スープをかき混ぜている人も細身ではあるが、筋骨隆々なのが厚手の服越しにも見て解る。そんな二人に師匠と呼ばれている……ということは、もしかして俺を持ち帰った、この人が職人のガレッキさんなのか?


 あと、空から落ちてきたもの……という言葉から察するに、お弟子さんの一人がメテオを使った俺の姿を見つけ、ガレッキさんが探しに出たものと考えられる。夜だし一瞬で地面に落ちれば気づかれないかと思ったが、意外と見られているものである……。


 「そ……それで、お師匠様。その、変なものとはなんっすか」

 「魔獣の作りもんみたいなもんが、この山の側面にはりついとった。これだ」


 ガレッキさんと思われる人物が、テーブルの上に俺を置く。今もなお俺の体は光り輝いており、小さいながらもドラゴンの姿であることは造形から一目瞭然である。


 「こ……こりゃあ。なんっすか?師匠」

 「わしにだって解らん。まったく動かんぞ。鑑定してみても、ただの石じゃ」

 「どれ。俺にも見せてくだせぇよ」


 スープを運んできた男の人が、俺を持ち上げて様々な角度から観察する。体のあちらこちらを押されたり、くすぐられたりしている感じはあるが、俺は肌に感覚はないから反応は示すことができない。


 「……かちこちで動かねぇ。凍ってる様子もねぇし、魔獣でなく置物でせぇ」


 「でも、本物のドラゴンにしか見えねぇっす……こんなの作れるの、お師匠様くらいじゃないっすか?」


 「わしは作った記憶はない」


 奇怪なもの。もしくは、不気味なものを見るような目つきで、三人は俺を無言ながらに取り囲んでいる。俺もまた動くに動けず、このまま時が過ぎるのを待つしかない……。


 三人は顔を見合わせる。その後、体の大きなお弟子さんが、やや怖気た様子で後ずさりつつ、ガレッキさんへと判断を扇いだ。


 「もし本物の魔獣なら、危険かもしれないっす。捨てた方がいいんじゃ……」

 「いいや……捨てるには惜しい。わしは興味深い。呪術的な魅力もある」


 呪術?とするとガレッキさんも、神の力が見える人なのか?


 「待ってくだせぇよ。二人とも。今、問題なのは、そこじゃねぇさ」


 スープを運んできた男の人が、二人の会話に声を差し込む。


 「魔獣ならいいですえ。雪山に紛れ込む変わり者で済むんでねぇ。じゃあ、これが細工だとすりゃあ……誰が、山の側面に貼り付けて行ったのかって話でせぇ」


 「え……僕ら以外に人が、この山にいる!?」


 「それはまた、何の為に?」


 「それが解んねぇから問題なんでせぇ。師匠」


 俺の無計画な山登りが、不可解な事件へと発展を遂げた。なお、俺を山に貼り付けた犯人はいないので、この難事件が解決することは恐らくない……。

続きます。

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