第962話『積雪』
盗賊団の人たちは雪国の街に到着するも、非常になまっている方言を聞き取るのに苦戦していた。浮き島で旅をするという珍しい一味でもあった為に、他の旅人以上に警戒されてしまったのかもしれない。
「街、行くぜ」
「でげす」
「はい」
降雪は弱いものの、ちょっとずつ風が強くなってきた。寒いと口数も減るようで、最低限のやりとりで意思疎通を取り、盗賊団の三人は街へと降りる準備を始める。
「邪神リュリュリュ―ン。浮き島の番は頼むぞ」
親分さんに頼まれてしまう。俺は番として残されるらしい。ただ、オブジェにハマっている以上は動けないので、誰か来たとしても追い返すにも難しい……。
浮き島の中にはクマみたいな魔獣もいるし、豆の木も寒さで弱るかもしれない。それらを守る意味でも、俺は浮き島にいた方がいいように思う。
「……」
暗い景色の中に街の灯りが映える。窓の中に燃える白い光や、木々についている赤くて丸い光。それらに雪景色が合わさると、どこかクリスマス然とした風にも見える。ここがオーニスの街なのだろうか。
山の上という立地としても外から攻め込みづらい場所だし、近くに魔人が潜んでいてなお無事だったのも、街の作りによる恩恵が大きかったものと推測される。ハイドレンジアの街も山の上にあったし、この世界ではよくある光景なのかな。
「……」
動くに動けない以上は情報を集めるにしても、ここからながめた範囲が限界である。リディアさんたちは明日、ここに来る予定らしいけど……盗賊団と遭遇するのだろうか。
まあ、リディアさんたちはタマタマさんとは前にも会ってるし、顔をあわせたところで別に何が起こるともなさそう。むしろ、勇者の人と出くわす方が何倍も揉めそうではある。
「……」
今になって、勇者一行のことを思い出した。未だに俺はオーパーさんのバッグに入れられているようで、勇者の人たちの動向は全く見えない。透視を使えば見える可能性はあるが、そこまでして別に調べたいかというと、そうでもない……みんな全裸に見えちゃうしな。
「……」
まあ……いいか。リディアさんの家に行くと言っていたし、ちょっと揺れている感じからするに、まだ移動中なのではないかと考えられる。
『現在地:始まりの丘』
あと今日はできることもなさそうなので、俺は自分の本拠地とも言える巨石へと意識を移した。いや……まさか、ルビィさんのお父さんのパーティを盛り上げる苦肉の策が、中庭での野外パーティだとは。お墓を見ながら食事をするのは、ある意味では風情はある。
「……」
ちょっと前まで遠い砂漠まで行っていたこともあってか、今日は移動も多くなく割と何もない一日……だったように感じてしまう。やっぱりリディアさんが動けないと、調査の動きが鈍くなってしまう。
それは逆に言えば、俺が調査に関して、リディアさんに頼りっきりだということなのだろう。それはよくない傾向だ。何か夜の内に出来ることはあるだろうか。
「……」
人間の人たちが雪山を歩くのは、最悪のケースで考えると人死が出る。石の俺ならば埋まって動けなくなることはあれども、死に至ることはない。先に行って職人のガレッキさんを探しておけば、何か役に立てるかもしれない。
「石田様。そうではないかと私も考えておりました」
俺の心の声に反応する形で、百二子様が目の前に現れた。ああ……聞いてらっしゃったんですか。
「そして、僭越ながら……私は先に雪国へ向かい、職人らしき人々のいる場所を発見いたしました」
もう見つけたんですか?仕事が早い……俺が、うだうだやっている内に、こんなに仕事をしてくれているなんて……。
「いえ、石田様は情報収集に余念がなく、常に努力されております。それに引き換え、私は……誤解を恐れずに言ってしまえば暇……」
暇……まあ、暇ですよね。俺だって何かしている雰囲気は出していますが、誤解を恐れずに言えば盗み聞きをしているだけ。これほどの暇人は、この世界に他にいないと思います。
「いえいえ」
いえいえ……。
「いえ、そのようなことはございません」
……ここで暇な石と暇な神が謙遜しあっても悲しいので、ガレッキさんのところに案内してもらってもいいですか?
「はい。参りましょう」
という訳で、俺は森の中にいる暗部の人にバレないよう、5センチくらいの小さな分身体を作成。そちらへと意識を転送する。この作業にも大分、慣れてきたな。
「以前のように、空を飛行して向かわれますか?」
それでもいいんですけど、今回は場所が非常に遠いのと、そこそこ風のある地帯でもあるので、一気に移動しようと思います。
「空へと飛びあがる術でしょうか」
そうです。『メテオ』というスキルなのですが、生き物や人にぶつかると危険だと考え、あまり使わないようにしていました。
ただ、雪山でマップを見てみたところ、ほとんど生き物の存在が確認できなかったんです。あそこにならば落下しても問題はないんじゃないかと思います。
「承知いたしました。私は石田様についていきます。よろしくお願いいたします」
ここで飛び上がると暗部の人に気づかれかねないので、とりあえず巨石から離れるべく丘の下まで移動した。それから一度、盗賊団の浮き島に意識を移し、改めて周囲のマップを見てみる。やっぱり山には生き物はいないな。
元の体へと意識を戻して、スキル『メテオ』の発動を試みる。一度でも行ったことのある場所に限り、メテオの着地地点として設定できるようだ。ようするに、この星の裏側に行きたいと思っても、俺が一度も行ったことがない場所だと飛べない。
盗賊団の浮き島を着地地点とすると、勢いで浮き島ごと破壊しかねない。ちょっとずらして、なるべく山……それも何もないところを目的地とする。
よし……行こう。スキル発動だ。
『スキル:メテオ』
グググ……という力を溜めるような音がした後、丸い石の姿をしている俺は上に引っ張られるかのように、勢いよく空へと飛びあがる。弾丸になったとも思える勢いで雲を抜け、眼下に広がる世界を見下ろす。
「……」
雲がかかっていて鮮明ではないが、なんとなくコクサ王国や雪山の位置は把握できた。一瞬だけ空中に制止したのち、俺の体は白い一帯を目掛けて落下を開始する。
人間だった時の名残だろうか。肝も内臓もないのに落下の影響で、体の中が委縮する感覚に襲われる。次第に落下の勢いは増していく。
ぐんぐんと面前に近づいてくる地面。そこに突っ込む。着地に際して音が鳴ると考えていたのだが、そんなことはなく……俺の体は着陸してなお落下を続ける。
「……」
積もっている雪をえぐるように、まだまだ落下していく。こんなに深く雪が積もっていたのか。てっきり膝上くらいに積もっている程度だと思っていた。もはや、落ちながら上を見ても、雪に視界をはばまれ空すら見えない。しかし、まだ落ちる。
「石田様……ど……」
ちょっとだけ百二子様の声が聞こえてくる。神様は瞬間移動できるから、その能力で追いかけてきてくれているのだろう。
「石田様……」
……。
「いし……」
何度も先回りしてくれるも、まだまだ俺は雪の中に勢いよく埋もれて行く。申し訳ないですが、止まるまでちょっと待っていただきたい……。
続きます。




