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第95話『世間話』


 「いたか!白い砂嵐の野郎は!」

 「いない!あんな派手な服装だ。いればすぐに解る!」


 歌のお兄さんを屋台の中にかくまって幾分かたつが、まだ海賊たちは町の中をどたばたと走り回っている。なので、お兄さんも屋台から出るに出られず、セキル君たちも屋台から出すにも出せず、仕方ないので彼を宿屋まで運んでいくことにしたと見える。セキル君のお父さんが、宿の場所を尋ねている。


 「ええ。ミュージシャンの方。本日、どちらでお休みになられるのですか?」

 「全然、決まってないんだよ……村に着いて昼飯を食べたあと、路上で弾き語りしてたら……」

 「おい!おっさん!ミュージシャン風の男、見なかったか!?」


 歌のお兄さんと会話をしている最中、海賊の1人がセキル君のお父さんへと質問を投げかけてきた。あまりウソがつけない人なのか、お父さんはおどおどしながら返答に迷っている。


 「僕たち、見てないぞ!」

 「ありがとう!」


 動揺してしまったお父さんに代わり、セキル君が質問に応じる。海賊らしからぬ爽やかな返事を残して、男の人は夜道へと姿を消していった。かなり焦っていたのか、冷たそうな夜風の中でお父さんが額の汗を拭いている。


 「セキル、すまない。お父さんは、ウソをつくのが苦手なんだ」

 「僕はお父さんのそういうところ、尊敬してるから……」

 「親子の会話に水をさしちゃって悪いんだけど……俺の話、再開していい?」


 2人は仲のいい親子である。海賊の人に話をさえぎられた歌のお兄さんが、町に来てからの事と、これからの事について説明を始める。


 「昼飯のあと、路上で弾き語りしてたら、なんかすっごい人だかりになっちゃってさ。しかるべき場でやるようって町の防衛団に酒場につれてかれたんだ。で、それから4時間ライブ」


 「お兄ちゃん、4時間も歌ってたのか。すごい」


 「4時間って言っても、途中でおしゃべりもはさんだんだけどね」


 おしゃべりというのは、いわゆるMCというやつだろうか。ただ、壇上にはお兄さんしかいなかった訳だし、しゃべっているってことは声を出していることに他ならない訳で……無口・口下手・人見知りをかねそろえた俺と比較すれば、お兄さんは鉄の声帯を持っていると言っても過言ではない。


 「しかしよ……俺を勧誘してきた海賊ってのはなんなんだ?アクアマリーンっていったっけ」


 「ええ。この付近の海を縄張りにしている一団で、本業は海底に沈んだものを引き上げる人たちです」


 「海賊じゃないじゃん」


 「ええ」


 お父さんの話から推測された事柄について、歌のお兄さんがズバッと本質をついた。確かに……海賊じゃないな。どちらかといえば、サルベージする人と言った方が近い気もする。暴力事件も起こさないようだし、ちょっと船長がわがままなだけの困った集団でしかない。むしろ、海賊団員の人たちの言われるがままな動向を見るに、あの船長のファンクラブなのではないかとすら思えてくる。


 「あの船長っぽい姉ちゃんは美人だったな……あの性格さえなけりゃあ、海賊入りする気持ちも解らないでもない」


 「いやぁ、ああいう強そうな女性もいいものですよ……いざとなれば、背中を叩いてくれますし」


 「……」


 歌のお兄さんから見ても、アクアマリーンさんは美人の範疇だったらしい。なお、お父さんの擁護する口ぶりには、奥さんの怖そうな顔が透けて見える。それを感じ取ってか、セキル君も少し感慨深いといった態度で見守っている。


 「それにですね……実際、この町に海賊がいると触れ込みがあるからか、他の海賊は滅多に近づかないですし」


 「ほぉん。役には立ってんだなぁ」


 「父さん。そろそろ帰ろう。お兄さんも、うちに泊まってもらえばいいじゃないか」


 これからどうするのか、いまいち踏ん切りがつかなかったせいで、お父さんは屋台を引くのを止めてお兄さんと雑談をしていたらしい。宿屋の前には海賊が張り込んでいる可能性は高いし、事を穏便に済ませるにはセキル君の案が妥当だと思われる。


 「それに父さん……うち、知らない人を泊めたって盗まれて困るものもないし。母さんにも僕が説明するから」


 「一応、言っとくが、俺はお客さんの心しか盗まないぜ?」


 「そうだなぁ……困ってる人を放ってはおけないからな」


 これだけの有名人だから、お金にも困ってはいないだろうし……むしろ、汚名をかぶる方が損することも多いだろう。そうと決まれば、止まっていたお父さんの足も自然と自宅へと動き出す。ここでやっと、セキル君がお兄さんに名前を尋ねた。


 「お兄ちゃん、白い砂嵐って名前なの?」

 「そいつは二つ名ってやつさ。本名は、ダイリだ。よろしくな!」


 歌のお兄さんの名前は、ダイリさんというらしい。そんな彼を屋台に入れたまま、セキル君とお父さんは自宅へと向かう。ゆるやかな坂を登って少し高い場所までやって来ると、戸の閉められたお店らしき建物が見えてきた。もう閉店しているようだけど、ここがセキル君たちの家なのかな。


 「ただいま」


 ドアのカギを開けて、ドアの奥へと屋台ごと運び込んでいく。セキル君の声を聞いて、奥からお母さんと見られる女の人が顔をのぞかせた。


 「遅かったわね。あなた、どこか寄ってきたの?」

 「ああ……いえ、まあ」

 「母さん。お客さんを連れて来たんだ。今日、泊めてあげてもいい?」


 セキル君の話を聞き、お母さんの表情が困り顔へと変わっていく。そりゃあ、夜になって急にお客さんを連れてきたと言われても、夕食の用意だってできていないだろうし、お母さんが困惑してしまうのも解らなくはない。ちょっと都合が悪そうな様子で、ダイリさんが屋台から身を乗り出している。


 「ど……ども」

 「……あら。白い砂嵐!」

 「母さん……知ってるの?」

 「今日、路上で見かけたわ。すごい人気だったのよ」


 どれだけ怒られるかとヒヤヒヤしながら帰ってきたのに、まさかお母さんの元まで名声が届いているとは思いもよらなかった。セキル君のお母さんは一転して表情を明るくし、家の奥へとダイリさんを招いている


 「すぐ御飯の用意をするわ。あんた、何かサインしてもらうもの出してきて」

 「何かってなに?」

 「なんでもいいのよ」


 お父さんがお母さんにサインの準備をするよう急かされている。だけど、普通の民家にサイン色紙なんて用意されている訳もないし、何かと言われても困っちゃうよな。そういや、リンちゃんのお父さんはシャツとズボンにサインをもらってたけど、普通に着てたな……あれ、洗っても落ちないのかな。


 「……坊主。それ、なんなんだ?」

 「……?」


 ダイリさんが、セキル君の手にある俺を指さしている。ダイリさんとは、今日の昼に別れたばかりであるが、まさか再会することになろうとは思わなかった。セキル君は俺をぽんぽんと手の上ではずませながら、どこから持ってきたものなのかを告げている。


 「僕と父さん、屋台でイモを焼いてたんだ。これも、イモを焼くのに使ってた石の1つ」

 「貸してみ」

 「……?」


 ダイリさんは俺を手に取ると、両手の指を使ってクルクルと回し始めた。そこで何か見つけたようで、今度は俺をセキル君に見せつけている。


 「これ、町の外に落ちてたろ?」

 「う……うん。拾ってきたけど」

 「こいつ、俺が町まで持ってきた石だぜ。その証拠に、ほら。ここに魔法ペンで顔が書いてある」


 ……え?俺、顔が書いてあるの?いつ書かれたんだろう……まったく覚えがない。その上、どんな顔が描かれたのか、自分では全く確認できないという。気になる。人面岩みたいになってたらどうしよう。


 「サイン……いいものがないな。あっ。それ。セキル。その石にサインをもらっておいてくれ」

 「これでいいの?」

 「まあ、折角の縁だからな。よし、これに描いておくぞ」


 結局、サインを描いてもらうのにいいものが見つからなかったようで、お父さんが俺の体にサインを描いてもらうよう頼んでいる。顔が描かれているであろう部分の逆側へ、ダイリさんは光るペンを取り出してサインを書き入れている。


 「ほら。大事に……いや、大事にはしなくてもいいけど、適当に飾っときゃいいぜ」

 「家宝にするよ」


 思いがけずして、俺はセキル君の家宝にされてしまった。ただ道端の石だった頃から考えたら、幾万倍もランクアップしたな。なかなかの成り上がりである。こんな俺を大切そうに持って、みんなは店の奥にある座敷へとクツを脱いで移動する。ちゃぶ台のようなものの近くにダイリさんが腰を降ろすと、キッチンと思しき場所からお母さんの声がした。


 「白い砂嵐さん。食べたいものはある?」

 「んじゃあ、魚とかある?」

 「もちろんよ」


 魚料理を作ってくれるという。こうして見ている限りだと、お父さんがいうほど、お母さんは怖い人には見えないな。結構、さばさばはしているイメージではあるけど。


 「なんだ。優しい奥さんじゃないか」

 「妻は、外面はいいんです」

 「あなた」


 不適切な発言があったとして、お父さんがお母さんに呼び出されていった。お母さんは魚料理も作れるとは言っていたけど、店先には大量の野菜が積まれていたな。セキル君の家は八百屋さんを営んでいると見られる。背負っていた楽器を床に降ろし、意気揚々とした様子でダイリさんがセキル君に質問をする。


 「なあ。俺、ダイマグロってのが食べたいんだ。どこに売ってるんだ?」


 「ダイマグロは……あんまりとれないんだ。少し前に、珍しく2匹も上がったって聞いたけど」


 「ええ。1尾はアレクシア帝国に冷凍搬送されたはず。もう1尾は、うちによく来る山村の人が買っていったと聞きます」


 山盛り皿に乗った豆を持って、お父さんがキッチンからやってきつつ会話に参加する。リディアさん達と輸入市場に行った時、冷凍されたダイマグロは俺も見たな。もう1匹の方は……リンちゃんの村で食べてたやつかな。


 「あれ、1尾1500ジュエルくらいすんだろ?まるごと買ってったのか?その村、油田でも持ってんのかよ」


 「いやぁ。最近、魔人の問題が解決したとかで。そのお祝いに買っていったそうですよ」


 「魔人ねぇ……」


 魔人という単語を受けて、ダイリさんも気難しい顔を見せている。彼の故郷は砂漠にあるコクサという国だと聞いたけど、そこでも魔人が悪さをしているのだろうか。魚の煮つけらしきものを持って、今度はお母さんが居間へとやってきた。


 「ダイマグロでしたら、海伝いに行った別の村の方が、頻繁に海から上がると聞きますよ。あっ、これ。食べてください」


 「そうなのか!よし!明日は、そっちに向けて旅に出るぜ!いただきます!」


 お母さんから先立つ情報が得られて、ダイリさんの今後の目標が定まった。まだ晩ご飯は全て完成していないようだが、できあがった順に持ってきてくれるらしい。お父さんたちも、魚の煮つけへとフォークを差し込む。その味は絶品だったようだが、それとは別にダイリさんは別の問題に気づいてしまう。


 「こりゃあ、美味い。しかしだ……明日、どうやって町から出よう。海賊がいるからなぁ」


 「ああ。心配ありませんよ。海賊は昼間は海に出ているか、町でコンサートを開いているか、どちらかなので」

 

 お父さんいわく、海賊の人たちは公演も行っているのだという。まさかの同業者だと知り、ダイリさんが豆を口にしつつも驚いた様子を見せている。


 「ほぉ。あいつら、コンサートやってんのか。すごいじゃない」

 「あんまり人気ないんですけどね……」

 「人気ねぇのかよ」


 酒場で聞く限り、歌は上手かったんだけど……どうにも人気はないのだとか。本業じゃないらしいし、まあ……本人たちが楽しければ、それでいいのかもしれない。



第96話へ続く

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