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第951話『採掘』

 ラピスラズリーさんのお店の地下にあるダンジョン。その暗闇をメフィストさん、ラピスラズリーさん、エメリアさん、ジェラさん、シロガネさんの順に、ゆっくりと慎重な足取りで探索していく。


 事前に聞いていた通り、ダンジョン内には魔獣がいっぱいいる。ただし、皮膚の模様や体の形で風景に擬態している生き物が多く、ステータスで見ると発見できるのだが、肉眼でとらえることは難しそうである。


 「……」


 足元に白いタマゴのようなものが無数にある。これがエメリアさんの言っていた、急に足が生えて動き出す魔獣だろうか。


 「魔獣……ですわね」


 魔獣が苦手なシロガネさんの警戒心を帯びた声が聞こえる。地面に生えているタマゴのようなものに、ラピスラズリーさんが歩み寄っていく。


 「……」


 ラピスラズリーさんがしゃがみこんで、タマゴに似たものを観察している。光が当たると、白いものが透き通って見える。生き物じゃないのかな。


 「魔獣ではないです。はい」

 「あれ?じゃあ、なんなんですか?これ」

 「アバミ石です。持つと精神力が回復します」


 回復効果があると聞いたエメリアさんが、1つひろいあげてシロガネさんに渡す。


 「なんですの……」

 「持っといた方がいいと思います。10個くらいあれば帰るまで気持ち安定するんじゃないですか?」

 「お嬢様への手土産といたしますわ……」


 精神的に疲弊していると見て、使うよう促された。確かに今のリディアさんにも必要なものではあるかもしれない……。


 「……」


 ダンジョンは暗く、果てが見えない。そんなだだっぴろいダンジョンにも、通路のようになっている狭い部分があるようだ。右と左の分かれ道にて、ラピスラズリーさんが行き先を見通している。


 「最も近いダンジョンの端っこは、右の方にあります」


 端っことはいっても、ダンジョンに一つしかないもの……というわけではないようだ。ダンジョンの奥へと向かう足取りに交えて、ジェラさんがラピスラズリーさんに問いかける。


 「ラピスラズリーさんは……どの程度、このダンジョンの構造を把握しているのでしょうか。全て頭に入っているとか……」


 「形は解りませんが、構造は解ります。ダンジョンは、たまに動くので道が変わってしまいます」

 「たまに……動くものなんですか?」

 「なので、同じ道でも日によっては、左に曲がっていたり、坂になっていたりします」


 イメージとしては、生き物が動くと内臓も動くが、内臓の数や腸の繋がる先は変わらない……みたいなものだろうか。なので、どこがどこに繋がっているかを憶えていれば迷わない。そういう理屈なのだと思われる。


 「……?」


 暗い通路を先へ進んでいくと、何かがキラッと輝いたのが見えた。また魔獣だろうか。俺はステータス画面を開き、それの正体を探ってみた。


 『魔獣:テンペラー』


 魔獣だ。それが解ったと同時に、ラピスラズリーさんがメフィストさんへと呼び掛ける。


 「あれはダンジョンで、もっとも危険な魔獣です。ご注意ください」

 「うん」


 とは注意されつつも、あまり緊迫感のない返事をメフィストさんは返している。前に来た時にも見たのだろうか。


 「……」


 壁にウミウシにも似た灰色の生き物が張り付いている。その背中には鋭利な刃物が突き出しており、危険であることは火を見るよりも明らかである。


 通路には適度に広さがある為、避けて通ることは容易い。しかし、相手が魔獣である以上は、どのような動きをしてくるとも解らない。横を通り抜ける前にと、シロガネさんがラピスラズリーさんに確認する。


 「……壁から飛び跳ねたりなどはいたしますか」

 「しません。絶対に動かない魔獣です」


 もっとも危険な魔獣ではあるが、狂暴ではないようだ。逆に言えば、この魔獣以上に危険な存在はいないということは、襲ってくる魔獣はいないとも考えられる。


 「……」


 危険と言われているにも関わらず、みんなはテンペラーの前で立ち止まる。ラピスラズリーさんの杖から発せられる光がテンペラーの刃に反射し、鏡とも違う黒っぽい光沢を返す。刃は層になっていて、刃の中に何枚も刃がある様子が透けて見通せる。


 「……触ってみたくなる魅力ありますね」


 エメリアさんが様々な方向から刃を観察している。見るからに危ないのだが、どうしてか質感を知りたくなるのは、この魔獣の持つ魅了の魔法みたいなものなのだろうか。


 そうして、ちょっと観察している内にラーニングが完了した。刃物に関するスキルは有用そうだが、気をつけないと誰かを傷つける懸念もあるな。


 『ラーニングスキル:張り付き』


 ラーニングはできたが、刃とは全く関係のないスキルだった……ラーニングスキルに選ばれる特性の基準が未だによく解らないのだが、その魔獣の一番の特色を会得できない場合が意外と多い。


 まあ、『張り付く』というアクションに関するスキルは今までなかったので、便利といえば便利なのだけど……ちょっと期待には外れている気もする。


 「この一帯はテンペラーの縄張りなので、たくさんいます。気をつけてください。はい」


 ラピスラズリーさんの言う通り、右や左の壁には大小さまざまなテンペラーがいる。背中に生えている刃には個性があって、それぞれ大きさや形も異なっている。刺さる危険性を考慮しなければ、なんだか幻想的な空間にも思える。


 しばらく進むと、また広い場所に出た。足元に水が溜まっていて、メフィストさんが歩くたびにザブザブと音が鳴る。


 「メフィストちゃん。石を被った大きな魔獣がいたの、あのあたりでしたよね」


 水辺の中央に大きな石があり、そちらを指さしてエメリアさんが記憶を呼び起こしている。石を被っているということは、ザリガニに似た聖獣のことかもしれない。今は本体はおらず、被っていたであろう石だけが残されている。


 「うん。そして、このあたりにダンジョンの端っこがあった」

 「こちらです。はい」


 メフィストさんが言うには、ここから近い場所にダンジョンの端っこがあったらしい。しかし、他の場所の例にもれず、地形が変動しているようだ。ここはラピスラズリーさんに先頭をゆずり、より具体的に道案内をしてもらう。


 「……」


 小さめの滝がある。よく見ると滝の裏に入れる隙間があり、その奥に……壁が青くなっている場所があることに気づいた。なんだろう。この青いぶよぶよした物体。


 「こちらがダンジョンの端っこです。ここ以外にも、ダンジョンの行き止まりには、ダンジョンの端っこがあります」


 これが……ダンジョンの端っこなのか。もっとこう、石みたいなものだと勝手に考えていた。メフィストさんがダンジョンの端っこに触る前に、ラピスラズリーさんに注意点を求める。


 「素手で触って大丈夫?」

 「毒素などはございません。どうぞ」


 ドロドロしているように見えたが、質感はゴムに似ているらしい。メフィストさんがダンジョンの端っこを両手で持ち、腰に力を入れてグッと引っ張って、そのまま何歩か後ろに下がる。


 「手伝いますわ」


 なかなかちぎれない様子を見て、シロガネさんが加勢に入る。ますますダンジョンの端っこは長く伸びて行くのだが、それでも壁から採取するには至らない。


 「ジェラさん。斧で切ってあげてください。はい」

 「あ……そういうことなんですか」


 ラピスラズリーさんに言われ、ここでやっとジェラさんは斧を持たせられていた理由に気づく。手で引っ張り、引っ張られて細くなった部分を斧で切断する作戦であるらしい。


 「……ええい!」


 せまくて動きづらいながらも勢いよく、ジェラさんが斧を振り下ろす。しかし、ダンジョンの端っこの弾力性に負け、そのまま斧は押し戻されてしまった。


 「き……切れません」

 「……手が滑りそう」

 「一度、手を放し、仕切り直しますわ」


 かなり弾力が強いようで、引っ張っているメフィストさんとシロガネさんが一度、手を放してダンジョンの端っこを壁に戻す。


 「予想以上に強固です。ダンジョンの端っこを取り除く手段を考えます。少しお待ちください。はい」


 斧でも切れなかったのはラピスラズリーさんにとっても誤算だったようで、持っているバッグの中を探り、使えそうなものを探してくれている。


 そうした中、エメリアさんが何か申し訳なさそうにラピスラズリーさんへ告げる。


「これ、使えます?」

 「……?」


それは……テンペラーの刃だ。


 「なんか、触ったら抜けたので持ってきちゃいました」

 「危ないので触ることは推奨しません……が、使えるかもしれません」


 テンペラーの刃。その根元を布で包み、ラピスラズリーさんが簡易的なナイフを作ってくれる。それを使い、メフィストさんがダンジョンの端っこをこそぎとろうと試みる。


 「……取れた」


 あれだけしぶとかったダンジョンの端っこが、ニンジンの皮をむくみたいに簡単に……凄いな。なのに、なぜ俺の会得したスキルは刃とは全く関係のない『張り付き』なのか。まあ、刃をもらっても使い道はないからいいんだけど……ちょっと残念ではある。

続きます。

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