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第935話『熱意』

 「よーし!野郎ども!出発だ!」


 大量の『ア』を浮き島へと運び込み、盗賊団の新しい旅が始まった。まだ見ぬ天空大陸へ向けて。しかし、その天空大陸がこの世界のどこを探しても見つからない、別次元にあるものということを彼らは知らない。


 そして、武闘大会が終わっているという事実を受け、コクサ王国行きはキャンセルとなったようだ。砂漠に詳しい人がいるとはいえ、砂漠越えは危険だしな。その点は、早めに気づいてよかったとも言える。ひとまずは、勇者一行と盗賊団、どちらも無事であることが解り、俺としても安心できた。


 今度は別の場所を見に行ってみようと考え、自分の体がある場所をながめてみたところ、植物学者の人たちがお野菜ランドに戻ってきているのに気づいた。


 『現在地:お野菜ランド・書庫』


 お野菜ランド内にある書庫。そこに、羽のある男の人と、若い女の人、あと隊長のおじさん。三人の植物学者が集まっている。そうした中で女の人が、やや心配そうにつぶやく。


 「……天空大陸から来たという人。ロゼさん……でしたか。見つかったのでしょうか」


 面会を直前にしてロゼさんが行方不明となった為、お野菜ランドの学者さんたちは彼女に会うことは叶わなかったんだったな。その後、無事に発見されたのだが、そういった情報も今のところは入ってきてはいないようだ。


 「室内でいなくなったのなら、違う部屋に隠れていたのでは。自分も黄金爪について、色々と聴けると……あわよくばもらって食べる機会もあるかと期待していました」


 背中に羽のある男の人も、まだ黄金爪を食べるには至っていないらしい。そこで改めて、隊長さんへと話を持ち掛ける。


 「隊長。そろそろ……あの黄金爪も解剖し、中身を確認した方がよいのでは。味も気になるところです」


 「ううむ。殻のような部分に関しては、十分に観察しスケッチも済ませた。確かに、なるべく良好な状態で、内部を調べておく必要はある」


 拾ってから数日は経っているし、段々と鮮度が失われている部分については隊長さんも危惧しているようだ。なにせ発見例の少ない植物なので、いつ腐るとも解らない。後悔するよりは、早めに中を見ておいた方がいいかも解らない。


 「だが……私の一存で勝手に解剖することはできない。お野菜ランドの王たるライゼン殿に許可をいただく」


 一応、上司に報告しておく必要があるようだ。黄金爪が入っているであろう箱を持ち、隊長はライゼンさんに会いに行くため退室する。本をめくりながら、女の人が何気なく話を始める。


 「結局……黄金爪は野菜なのでしょうか」


 「見た目は鉱物にしか見えないですけどね。自分は塩とかの一種かもしれないとも考えて始めていますが」


 「鉱物……金や鉄は、食べ物として使用される場面があると聞きます。あとは砂も」


 「聞いたことがあります。コクサに食べられる砂があるとか。なんにせよ黄金爪が植物でないならば自分たち的にも、お野菜ランド的にも専門外ですが」


 黄金爪の輝きと重厚感は、どう見ても純金の粒である。ここにいる人たちは植物学者なので、鉱物の話題に関しては、そこまでテンションが上がらないのかもしれない。


 「……二人とも、待たせた。それでは、これより別室にて黄金爪を解剖し、検証や保管の作業に入る。その前に、アレクシアより封書が届いた為、そちらを確認したい」


 「貴重な機会なので、私も同席させてもらいたい。よろしく頼む」


 隊長さんがライゼンさんを連れて戻ってきた。合わせて、アレクシアから手紙が来ているようだ。テーブルの近くにある席へと全員が座り、隊長さんが封筒から手紙を取り出して読み始めた。


 「まずは、ご挨拶の文章だ。ロゼ氏との面談を実現できなかったことへの謝罪文も記載がある」

 「まあ、密室からいなくなるなんて思わないでしょうしね」


 羽のある男の人の発言に、みんなは頷いている。アレクシアの人たちだって、別の世界へと繋がる入り口を作って、そこから逃げてしまうとは誰も思わなかったであろう。隊長さんが手紙の続きを簡潔に伝える。


 「ロゼ氏は我々が、お野菜ランドへ帰還したのち、それほど時間は掛からずに発見されたようだ。発見場所はルッチル村の近郊。巨大な岩のある丘」


 「ええ?なんでそんな遠い場所に」


 「入国門の外に出ていたのですか?どのようにして……」


 「その点については記載は……ないようだ」


 研究員の男の人と女の人に尋ねられるも、そこは詳しく書かれていないらしい。解らないことはどうしようもないので、隊長さんは次の文へと進む。


 「改めてロゼ氏への事情聴取をした為、その旨をお野菜ランド学者チーム様にお伝えしたく封書を作成した。ロゼ氏いわく、黄金爪は……?」


 手紙の内容を音読しようとして、隊長さんが困ったようにして眉を寄せる。そして、頭で理解しようとするようにして、ゆっくりと隊長さんは口を動かす。


 「黄金爪と呼ばれるものは……爪に似た形状の道具を用いて裂け目を作り出すことで繋がる異界に存在している。ロゼ氏が大量に所持していた理由も、そちらの世界から持ち込んだ為……」


 「……ちょっと待ってください。隊長」


 話を聞いていた男の人が、おでこのあたりを押さえながら話を差し止める。


 「……なんですか?異界って」

 「字面から察するに、こことは違う別の世界だろう」

 「あるんですか?そんなのが」

 「解らない」

 「あの……私も、急に話のスケールが大きくなり、頭が追い付いておりません」


 そうして研究者の三人は困惑を露わとし、その後……何も言わずにライゼンさんの方を見る。


 「……いや、私も存じていない。異界などというものがあるのか」

 「王ならば、ご存じではないかと」

 「私は、ただの経営者でしかない。過度な期待はしないでください」


 隊長さんからも、謎の期待を寄せられてしまう。多分、普段は何を聞いても即座に答えてくれるのだと思われる。やや話をズラすようにして、ライゼンさんは隊長さんへと尋ねる。


 「この世には、まだまだ理解不能な事象や、未知なる真理も多々ある。しかし、今……私が最も欲している情報は、黄金爪が野菜か、そうでないかだ。植物学者である君たちも、その点に興味を惹かれていることだろう」


 「おっしゃる通りです。黄金爪の分類にまつわる情報は……文書に記載がありました。黄金爪は……」


 ライゼンさんの要望を受け、隊長さんが黄金爪の種別についての記載を探す。そして、また……少し悩ましい様子で読み上げた。


 「黄金爪はロゼ氏の証言では……葉肉だそうだ」

 「葉肉だと?」

 「え?やっぱり植物なんですか?鉱物でなくて?」

 「あれは実ではなく……葉なのですか?」


 葉肉……という微妙な表現を受け、ライゼンさんや男の人、女の人も次々と困ってしまう。隊長さんは一度、手紙をテーブルに置き、黄金爪が入っているであろう箱を開けて、みんなの前に差し出す。俺は部屋のすみにいるから、黄金爪の様子まではうかがい知ることはできない……。


 「……こんな小さな葉があるんですか?」


 改めて黄金爪を観察し、男の人が疑問を浮かべている。確かに……こんな豆とも見間違うような葉っぱは俺も見たことがない。それは到底、学者さんですら見慣れないものなのだろう。


 「ううむ……異界という場所は我々の知り得ない特殊な環境なのだろう」


 そう言って隊長さんが手紙に視線を落とすのだが、そのまま最後まで黙読したと思われるタイミングにて目を閉じた。


 「どうやら文章を読む限り……他に情報はない模様です」

 「今から行けば……まだロゼさんがいるのでは」

 「ロゼ氏は……今日は疲れたと言い、家に帰ったようだ」

 「異界にですか?そんなに気軽に……」


 女の人が再度、面会を試みようと考えるが、ロゼさんは家に帰ったので今は帝国にもいない。


 「……」


 しばしの沈黙。そして、また研究者の三人がライゼンさんを見る。そうして中で、ライゼンさんが隊長さんへと質問する。


 「見つめられても困るのだが……あえて言おう。この際……もはや野菜に執着している私とて、これがなんなのかということが純粋に気になってきている。そこであえて、興味本位にて問いたい。葉肉とは、野菜にもあるのだろうか」


 「……あるものも、あります」


 「……つまり、これは……野菜かな?果物かな?野草か?」


 「申し訳ございませんが、解りかねます」


 ロゼさんの話を聞いてもなお、黄金爪は簡単には分類できないようだ。植物として生えているところを見ないとなんとも言えない……。


 「ライゼン殿。隊長の私から一つ、お願いがございます」


 「はい」


 「……我々、研究チームに……異界について調べる時間を。必要とあらば異界へ向かうことを。許してはいただけないでしょうか」


 「な……なに?」


 このままではおさまりがつかない。そう考えたのか、隊長さんが更なる調査を申し出る。その言葉に、ライゼンさんは黄金爪をながめつつ返答する。


 「難しい問題だ……少し考えさせてほしい」

 「黄金爪の正体が解らぬままでは、私は学者として死ぬに死ねません。どうかチャンスを」

 「黄金爪が天空大陸が来ているならば、自分もンジュー族の一人として調べたい気持ちです」

 「私も、二人に同意です」


 学者さんたちの熱意に圧されつつも、ライゼンさんはひるまない。そして、冷静に言葉を返した。


 「悪いのだが、異界の危険度が解らない手前……労災の問題がある。しばし、時間をいただきたい」


 黄金爪について調べるという目標の前に、労働災害の壁が立ちはだかった。みんなが安心して働ける職場づくりは大事なので、そこは安易に返答できずとも仕方がない……。

続きます。

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