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第934話『おやつ』

 勇者一行は無事に砂漠を抜け、気候としては比較的、過ごしやすいであろう砂丘へと行きついた。そちらとは反対に、浮き島に乗ってコクサ砂漠を越えようとしている人たちが盗賊団である。


 『現在地:砂丘上空』


 盗賊の親分さんが、浮き島から眼下に広がる砂の海を眺めている。


 「おお?今、下の方を誰か歩いてなかったかぁ?」


 「ああ。このへんの地下に、激流の運河があるでげす。そこに行こうとしてる、うちの村の人だと思うでげす」


 玉子のような姿をした人であるタマタマさんが、簡単に事情を説明してくれた。まあ、下にいたのは勇者一行なのだけど……その情報は今、重要ではない。


 そういや、リディアさん達は激流を伝い、砂漠の周りをぐるっと一周してから海に向かったんだっけ。運河は地上だけでなく、地下にも続いているみたいだな。


 そうして浮き島が進んでいく内、砂漠と砂丘の境目に印をつけるようにして、大きな岩山が突き出ているのが見えてきた。岩山の陰にあたる部分から爆発音が響いている。その物音を親分さんが気にしている。


 「おいおい……なんか爆発してやがるぜ。ありゃ、なんだ?」

 「うちの村では、よくあることでげす。気にしないでくだし」

 「物騒じゃねぇか。俺様たち盗賊団は安心安全がモットーだぜ?」

 「大丈夫でげす。爆発で死人が出たことはないでやんす」


 爆発が見えた時点で、もう親分さんが行きたくなさそうにしている。ただ、浮き島は重量の重い方向へ進む為、いわば多数決。親分さんの腰が引けても、他の二人の重みで砂漠へと勝手に動いていく。


 岩山の裏側には小さな集落がある。建物や看板など、あらゆるものが丸いデザインをしており、どことなく立つにバランスが悪く見える。周辺の国々とは違う独自の文化を持っているようだ。


 盗賊団の3人が浮き島を降りて、岩山のてっぺんに豆の木のツタを結んでいる。あれが船でいうイカリの代わりとなり、浮き島が勝手に動かぬよう引き留める役目なのだと思われる。


 なお、俺は浮き島に取り付けてある石だから、村へと降りては行けない……それでも頻繁に爆発音が聞こえてくる訳で、見ていて飽きない光景ではある。


 久々にタマタマさんが帰省した形となったのだから、もしかすると今日は泊まりになるのではないかとも考えていたのだが、そんな予想に反して一時間と経たずに盗賊の三人は浮き島へと戻ってくる。


 「王子!お気をつけて!ご無事で帰ってきてください!」

 「その盗賊が悪さをせぬよう、しっかりと見張っていてくだされよ!」

 「帰ってきたら今度こそ、私と結婚の儀を行うのよ!いいわね!」


 などと、あとをついてきた丸い姿の人たちが、浮き島の下から呼びかけている。王子?


 「いやぁ。タマタマ!おめぇが王子だとは思わなかったぜ」


 「なにが王子でげすか。こんな人口30人もいない村で」


 「それにタマタマさんが盗賊の仲間だって言っても、見張るためにそばにいるに違いないの一点張りで、村の人たちには信じてもらえなかったですね。へえ」


 タマタマさんは村では王子と呼ばれているようだ。見た目は王子じゃなくて玉子っぽいが……なんて言ったら失礼なんだろうか。先程の下からの呼びかけを聞くに、婚約者も決まっているようだ。


 「とにかくでげす。あっしはこんな辺鄙な村で一生を終えたくないでげす。世界を見て回りたいんでげす」


 「辺鄙かはさておき、村でもらった『ア』は美味しいですけどね」


 「おお!世界中を舐めまわしたと自負する俺様でも、こんなうめぇもん食ったことねぇぜ。『ア』の作り方とか、お前も知ってんのか?」


 犬っぽい人と親分さんが、小さな白いおまんじゅうみたいなものを食べている。『ア』って料理名なの?


 「おいしいでげすけど……村にあるおやつ『ア』しかないんでやんすよ。あっしは食べ飽きたでやんす。それにそれ、虫の体液に粉を入れて練って蒸したやつでやんすよ」


 「ほぉん。虫って美味いんだな。俺様、見直したぜ。今度、別の虫も試してみるか?」


 「美味しいかもしれないですね。へえ」


 リディアさん達や海の人たちと比べて、盗賊団は虫食に好意的だ。確かに、この『ア』については見た目も虫っぽさがなくて食べやすそうではある。俺は食べたくはないし、そもそも食べられないけど……。


 「んでよぉ。村に来て、こうして美味い『ア』をいただいた訳だが、それよりもっと重大な事実が村で判明したぜ」


 手に持っていた『ア』を食べ終え、親分さんが浮き島の上に腰を据える。ここへ来たことで何かが判明したようだ。それはともかく、村の人たちの下からの呼びかけが絶えず、タマタマさんが少し居心地悪そうにしている。


 「重大な事実……それは、武闘大会が終わっていたってことだぜ……」


 「そりゃあ、親分。雨で浮き島の動きが鈍ったり、居眠りして変なところへ行ったり、時間がかかり過ぎたでやんす。終わっててもおかしくないでやんす」


 「タマタマ!大会が終わっちまったら大怪盗のグリーンズも、次の獲物を探しに行っちまうじゃねぇか!次の目的地はどこだ?」


 武闘大会が終わったという情報は、この村にも届いていたようだ。そもそもコクサ王国にグリーンズさんが行っていたのかどうか……それすら不明ではあるが、盗賊の人たちがコクサへ向かう理由もなくなってしまった。


 「あっしも、ずっと親分と一緒に浮き島にいる身でやんすから、そんなの解んないでげす。おーい!ちょっと聞くでやんすが、何か最近、大きな出来事があったとか知らないででげすか?」


 「村に初めてのカフェができたで!もう、この村も都会じゃあ!」


 タマタマさんが村の人へと尋ねてみたが、ローカルのニュース番組でやってそうな情報が流れてきた。今まで村に喫茶店はなかったようだな。


 「いや……手がかりすら、なんもねぇでげす」

 「んじゃあ、今日は村に泊るか?爆発に耳をつむれば良い村だぜ」

 「そんなに暑くないですし、泊めてもらえるならいいですね」

 「やでげす!あっし結婚させられちゃうでやんすよ!そんな好みの顔じゃない許嫁と」


 ついさっきまでは立ち寄りたくないといった様子を見せていた親分さんだったが、もう環境に慣れたようだ。適応能力が高い。そして、タマタマさんは許嫁の容姿が好きじゃないようだけど、俺にはみんな同じ顔と容姿に見える……。


 とりあえず、タマタマさんの居心地が悪いので、出発はした方がいいようだ。しばらく黙って考えた後、親分さんがポケットから『ア』を取り出し、それを食べながら話を始める。


 「……こういう迷った時はよぉ。夢を……夢を語るんだぜ。夢ってやつは人生の道しるべなのだぜ」

 「あっ。ずるいです。ボクも食べたいです」

 「食べながら説得力ないのはさておき……親分の夢ってなんでげすか?」

 「たりめぇよ!大怪盗グリーンズみてぇな、世界を驚かせる仕事をするってこった!」


 ただ、その為にどこに行けばいいのかが今の論点である。続けて、犬っぽい人も夢を語る。


 「ボクの今の夢は『ア』をいっぱい食べることです」

 「タマタマの夢が、チャーロスの夢のでっかさを上回るかで、ここを出発するかどうかが決まるぜ」

 「なんで夢の大きさ勝負みたいになってるでげすか。あっしの夢……でげすか」


 『ア』の魅力に親分さんと、犬っぽい人でるチャーロスさんは夢中である。タマタマさんが今日、村をあとにできるかどうかは、語る夢の大きさにかかっている。


 「あっしが見てみたいのは……例えば、天空大陸ってやつでやんす」


 「て……天空大陸だとぉ?」


 「え?天空大陸ですか?」


 「そうでげす。世の吟遊詩人に詠われる天空大陸。空を引き裂いた場所にあるという黄金郷。そんな夢みたいな場所をあっしは見つけたいでやんす」


 まさかの天空大陸という見果てぬものが語られ、親分さんと犬っぽい人は拳を握る。


 「タマタマ……そこで天空大陸を出すのは、卑怯だろうが!ロマンすぎだぜ」


 「ボクも見たいです。へえ!天空大陸」


 「まあ……本当にあるかは解んないでげすが。そういう冒険がしたくて、あっしも今、こうしてるんでげす」


 いつもは引いた目線で物事を見ているタマタマさんも、実のところは冒険やロマンに心を動かされているようだ。あまり似てないように見える三人だが、根っこの部分では共通している部分が多いみたいだな。


 「そうなっちゃあ……探すしかねぇ。天空大陸。だが、その前に一つ……タマタマ。俺様は、てめぇに言っておきてぇことがある」


 「なんでげすか?」


 「……『ア』を。俺様ちゃんは『ア』をもっと喰いてぇんだ」


 「ボクも食べたいです。『ア』が食べたいです」


 「解ったでげす……村から持ってくるんで、ちょっと待ってるでげす」


 「100個だぞ!200個でもいい!」


 「多過ぎでげす……あれ賞味期限1日しか持たないやつなんで、勘弁してほしいでやんす」


 夢は天空大陸。しかし、とりあえずは『ア』を食べてから行動に移すこととしたようだ。これだけ美味しいと言われると、ちょっと味が気になる。少しでいいから食レポしてくれるとありがたい……。

続きます。

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― 新着の感想 ―
タマタマさんの好みの容姿・・・ 外から見たら全部同じに見えると いう語りになるほど!と頷きながらも ではどんな容姿ならいいのかと 思う気持ちもあってですね。 で、洋梨みたいな体型なのか ひょうたんの…
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