第933話『相談2』
「ワタクシの居ぬ間にそのようなやりとりが……」
シロガネさんが目を放した10分ほどの間に、大怪盗が家にやってくることが決まっていた。その旨、事情を聞き理解はできたようである。
「しかし、夢魔の言うことが、どれほどの信ぴょう性かを考えれば、過度の期待は禁物ですわね」
「そのあたりは大丈夫だと思います。あの人、女の人には絶対に嘘をつかないらしいので、シロガネちゃんが聞いたら嬉々として話しますよ。私には嘘つきますけど」
エメリアさんいわく、ジェントルマンなので女性には優しいようだ。ただ、家族はノーカンである。嘘をつかれる心配はないみたいだけど、シロガネさんとしては別の悩みもあるようだ。
「そうでなくとも、あの怪盗はアレクシア帝国にて第一級指名手配犯。ワタクシといたしましては、やや複雑にございますわ……」
「あの人、そんな指名手配されてるんですか?」
「過去に、当時の姫様……現女王様を拉致した不届き者にございます。当然の処置ですわ。誘拐しながらも度々、帝国へと連絡を入れつつ、一年ほどで被害者が解放された為、うやむやにされた節もございますが……」
そのようなエピソードもあり、俺の中ではエメリアさんは現アレクシア女王の隠し子なのではないかと怪しんでいたりもする。とはいえ真相は不明だ。デリケートな問題でもあるので、あまり追及もしたくはない……。
そして、『拉致』というと完全に犯罪であるが、さらう側とさらわれる側、双方の合意のもとに城を出て、旅行へ行ったような気持ちなのではないかと推察もしている。グリーンズさん、無理やりさらうような人でもなさそうだしな。
なんにせよ、黄金爪を安全に食べる方法については、大怪盗の知恵をお借りできそうな雰囲気である。本人が知らずとも、あれだけ顔の広そうな人であれば、また別の人を紹介してくれそうでもある。
そんな話に繋げる形で、シロガネさんが黄金爪の話題を口に出す。
「……黄金爪につきましては、帝国の調査員より仮説があがりましたわ。ご報告を申し上げてよろしいでしょうか」
「……あ。はい」
帝国の研究者の人の方でも、調査に進展があったようだ。未だにリディアさんはすっぱさの余韻で苦しげな息を漏らしている為、話を聞ける状態なのかとシロガネちゃんが心配しつつも報告を始める。
「帝国の研究員が、広い浮き島に生えている木の下に黄金爪が落ちているのを発見いたしました。そして、ロゼ様の発言と照らし合わせた結果、黄金爪は天空大陸よりやってきていると推察が成されましたわ」
「……?」
盗賊団の浮き島と同じく、また別の浮き島の上にも、黄金爪が落ちていたようだ。ただ、その説明だけでは釈然としなかったのか、その場にいるリディアさんたちは不思議そうな顔をしている。
「順に説明いたします。ロゼ様は、鳥の爪にも似た道具を用いて、ヒビ割れのようなものを作り、こちらの世界へとやってきております。天空大陸には黄金爪が大量にあるとのこと。すなわち……」
「……何度もヒビ割れを作ったから、黄金爪が天空大陸から落ちてきていた」
答えに勘づいたといった様子で、メフィストさんが答えを口にする。その考えで概ね合っているらしく、シロガネさんが情報を追加してくれた。
「ええ。こちらへ来るにあたり世界をうかがうべく、ロゼ様が何度もひび割れを作っている内、そのヒビ割れを通じてちらほらと……こちらの世界に黄金爪が転がり落ちたのではないかと推理されましたわ」
まあ、ロゼさんも下見せずに別の世界へ飛び込むのは勇気がいるからな。それに、どこにヒビ割れを作れば、こちらの世界の安全な場所に出ることができるのかなど、そういったことも検証せねばならなかったのだろう。
そうした試行錯誤の中で、浮き島より高いところや地面に近い場所など、色々な場所にひび割れを作っていた。そう考えれば、黄金爪が不規則に落ちていたことにも納得はいく。
「……」
ヒビ割れを作るたび勝手に転がり出る程、天空大陸には黄金爪が大量にあるのだろうか。右も左も黄金色に輝いている……そんな光景が俺の脳裏にはよぎった。
「黄金爪は……うちの父が昔、家の近くで見つけたと……うっ」
「そちらにつきましても予想の域は出ませんが、天空大陸に住む者も興味本位で古来より、空間にヒビ割れを作っていたのではないかと考えに至りましたわ。その為、こちらの世界では黄金爪は滅多に発見されなかったのではと……」
リディアさんのお父さんが昔、黄金爪を拾ったという話。そちらについてもシロガネさんが推察してくれた。ンジュー族は故郷がない民族という話も聞いたけど、それは天空大陸から移住してきた為とも考えられる。
そうした話を聞き、まだ見ぬ天空大陸についてメフィストさんが思いをはせている。
「……天空大陸。あふれるくらい黄金爪がたくさんある」
「黄金爪自体に、香りがないことが救いですわね……」
すっぱいにおいが充満していたら、それはそれで対応しなくてはならないところであったが、どうやら味の強烈さに反して香りはないようだ。見た目は硬そうで外皮が厚いようだし、香りも閉じ込められているのかもしれない。
こちらの世界へ来るにあたり苦労したであろうロゼさんの事情を汲み取り、エメリアさんが別の方向性から問題点をあげる。
「じゃあ、ロゼちゃんは出てくるところを間違えたら、急にお姫様の部屋とかに出ちゃう可能性もあるんですか?」
「そういった事情も含め現在、騎士団および密偵部隊内でも周知を進めておりますわ……」
一応、帝国城は人間のみ入城できる規則だしな。見つかり次第、ひっとらえられてもおかしくはない……まあ、今回、帰っていった場所と同じところから戻って来るのではないかと思われる。
「それ以外のご報告といたしましては……料理の腕の立つ者に意見をうかがいましたが、黄金爪を安全に食す方法は得られませんでしたわ……」
「そうでしたか。シロガネさん……もう誰も、私のような思いをしなくていいよう引き続き、探求をお願いします」
うまく回らない舌で長めのセリフをつぶやき、リディアさんは静かに目を閉じる……。
「ああ……あの。舌のしびれが消えるまで、眠ってもよいでしょうか」
「どうぞ、ワタクシはそばにおりますので、なんなりとお申し付けください」
「私、最近あんまり役に立ってないですけど、せめて添い寝とかしましょうか?」
「いい……」
今、添い寝して欲しい気持ちではないとして、エメリアさんの添い寝はお断りされた。リディアさんは全く動けそうにないし、いまだに涙が止まらずにいる。黄金爪の威力は俺が想像していた以上に強そうだな……。
しばらくリディアさんには休養をとってもらうとして、俺も自分の力で調査を進めたいと思う。まあ、できることといったら盗み聞きくらいなものなのだが……まあ、誰にも喋らないので勝手に聞くことについては許してもらいたい。
「……」
そういや勇者の人たちが昨日から、砂漠を徒歩で出ようと試みていたな。今はどこを歩いているんだろうか。一応、俺の装備効果が砂漠の暑さ対策となってもいる為、様子を見に行ってみようと思う。
『現在地:砂丘』
「ペリダ。ここは砂漠か?砂丘なのか?」
辺り一面、砂だらけの地形を見回しながら、勇者の人がメイドのペリダさんに尋ねている。現在地情報を見た感じ、砂漠は超えているものと見られる。
「勇者様が、この不思議な石から身を放し、とても暑いと感じれば砂漠です」
「まだまだリディアの家までは距離がある。ここは命を大事にすべき局面だよ。ペリダ」
「……砂の色が白色になったんで、コクサ砂漠は抜けたんじゃないですかね」
オーパーさんに言われてみれば、確かに砂は白色だ。日中のコクサ砂漠の砂は赤色に燃えている為、色で見分けることができる。なお、俺の装備効果を受けている為、あまり三人とも暑さは感じないようである。
「なるほど。すなわちボクら勇者パーティは砂漠を越え、また一つ強くなった。強大な敵が襲って来ようとも今ならば倒せるはずだ」
「今、敵と戦うのは……無理です。勇者様」
「ああ。私も魔法とか使える気がしないですよ……」
恐らく三人は、極寒の夜の砂地を一晩中、歩き続けたのだろう。俺の装備効果を抜きにしても、足腰の筋力強化……それと疲労の蓄積は、かなりのものなのではないかと思う。ただ、勇者の人だけは異様に元気だ。元々のバイタリティーが違うのだと見られる。
「はははっ!もしも今、邪悪なドラゴンにおびえる村が見えたとしたら、この勇者が一撃で救ってみせるというのに……周囲には村すらない。残念で仕方がないな」
「途中、爆発音の響いてる村があったけど……あそこなんだったんだろう」
「あれは絶対に危険な場所です。オーパーと二人掛かりで勇者様を説得して、立ち寄りを拒み正解であったと断言します」
爆発……というと、盗賊の一員であるタマタマさんの故郷だな。俺も見に行ったことがあるけど、実に爆発の絶えない村だった。勇者の人は行きたがったようだが、オーパーさんとペリダさんの危機察知能力により立ち寄りはキャンセルされた模様である。
「……なんか大きいのが来ましたけど。あっちから」
「……?」
オーパーさんが遠くの空を指さしている。巨大なものが次第に、空中を漂い近づいてくる。
「な……なんだ!あれは!金色の……浮かぶ木!」
あれは……盗賊団の人たちが乗っている浮き島に、豆の木の上半分が引っかかったものである。盗賊団も、まだコクサに到着してなかったのか。
「ゆゆゆ……勇者様。あれ、倒してください。ドラゴンでも倒せるんですよね」
「お……おお。木のバケモノめ!おとなしく森へ帰るんだ!」
ペリダさんの願いを受け、勇者の人が剣を構える。そして……そんな戦慄している勇者の人の頭上を浮き島が、音もなくスルーしていった。
「……」
砂漠を越えてきた自分たちとは逆に、砂漠へと向かって飛んで行く豆の木。そちらを振り返り、勇者の人は剣を掲げた。
「恐れを成して逃げて行ったようだ。木といえども、この勇者のたぎる力強さを感じ取ったか」
「ついでに聞きますけど……勇者スピネル。暑いですか?」
「……いや、暑くはない。砂漠ではなく、やはり砂丘だ」
オーパーさんに問いかけられ、勇者の人が剣を収めつつも答える。剣を構えた拍子に俺から手を放した為、やっとここが暑くないと解ったようだ。
続きます。




