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第926話『面会』

 「んで、これからどうします?私たちもロゼちゃん、探します?」


 「ひとまずは……ルビィさんの家にご挨拶すべきではないだろうか。本日は泊めてもらうことになるだろうし」


 ギルドへの報告は……一応、終わったようなので、次に何をするのかとエメリアさんが尋ねている。リディアさん達はジェラさんと一緒に商店街を抜け、一旦は入国門広場へと戻ってきた。


 「ああ……シロガネさん。ご連絡が」

 「ええ。どうされましたか」


 入国門の方から騎士団の鎧を着た人が走ってきて、シロガネさんへと声をかけた。なんか至急の用事っぽさを感じるな。どうしたのだろうか。


 「……お嬢様、ロゼ様が発見されましたわ」

 「見つかったのですか」

 「発見と申し上げるのは……やや語弊がございますが、入国門より再度、来訪されましたわ」

 「すると……ロゼさんは外に出られていたのですか」

 「詳細につきましては現在、取り調べ室にて聴取している段階にございます」


 すでにロゼさんは帝国に到着して、事情聴取を受けているようである。今回は帝国暗部の人が同行しているから、前回よりは話がスムーズなのではないかと期待したい。


 「ええと、さっき話に出ていたロゼさん……という方は、見つかったのですか?」

 「ああ……ジェラにも心配をかけたが、どうやら無事だったようだ」


 探し人が見つかったと知って、ジェラさんも一安心したようだ。そうした中で、エメリアさんが思いついたようにして言う。


 「ロゼちゃんって、たくさん黄金爪を持ってるらしいですよね。ジェラちゃんも頼んだらもらえたりしないですかね」


 「え?その人、黄金爪を持っているんですか?ぜひ、私も見てみたいです」


 「……アレクシアの街に在中しているンジュー族の方は現在、ジェラ様以外にございません。同行いただくことで友好的にお話を進められるやも解りませんわ。こちらからも、お願いいたしますわ」


 ジェラさんに同行してもらうという案には、シロガネさんも同意している。念願だった黄金爪も見られるかもしれないとして、今回の事情聴取はジェラさんにも来てもらうこととなった。


 ロゼさんがいる場所は、さっきの密室脱出事件があった部屋であるらしい。騎士団の人の案内で、入国門の裏口から中へと入る。


 メフィストさんがメモを見つめている。そこには、質問することのリストが書かれているようだ。


 「ロゼさんに聞くことは、黄金爪……天空大陸。あとは、あのヒビについても知りたい」


 「恐らく、あのヒビ割れもロゼさんが関与しているものなのでしょう。空中に割れ目を作る魔法や魔道具があるのかもしれませんね」


 施錠されている扉を幾つも潜り抜け、受付カウンターのある通路を進む。ロゼさんがいるであろう部屋の近くまで来たところで、扉の前に立っている騎士団員の人が、シロガネさんに報告を始めた。


 「先程は身元不明者の失踪を許してしまい、失態でございました。現在、取り調べを進めております」


 「いえ……この部屋から野外へ抜け出す方法が、そうは多くございません。致し方ございませんわ」


 「えと……リディアさん。シロガネさんって、偉い人なんですか?ギルド外の人なので、私はよく知らないんですけど……」


 「シロガネさんは私の中でも、まだ謎の多い人だから……」


 ジェラさんの質問に、リディアさんも困ったような返答をしている。実際、シロガネさんが騎士団長さんからの依頼でリディアさんを尾行していたことや、帝国暗部の人間であることが解ったのも、そこまで昔のことではない。幼馴染ながら、リディアさんも知らないことが多いようだ……。


 「失礼します……」


 ノックをした後、ゆっくりとリディアさんが扉を開く。室内には3人の人物がいる。テーブルをはさむ形で騎士団員の男の人と、ロゼさんと帝国暗部の人が座っている。


 騎士団員の人がリディアさんたちに気づき、席を立ちつつ挨拶をする。この人は……さっき部屋に来た時にもいた人だな。


 「ああ。先程は……どうも失礼しました。ロゼ氏が発見された為、改めて取り調べ中です」


 という男の人に続き、帝国暗部の人も立ち上がり口を開く。


 「拙者がロゼ氏を連れてきた次第。事の経緯を誠心誠意、ご説明している最中でそうろう……」

 「あなたは……遠方の監視任務につかれていたはずですが」

 「この者は国を脱出後、遠い場所まで飛んできた様子」


 シロガネさんと帝国暗部の人は、顔見知りでもあるので話しやすいようである。ここはお任せした方がいいと考えたのか、騎士団員の男の人がリディアさんたちに席をゆずる。


 「すみませんが私が問いただしても、なにやら要領を得ない様子で……シロガネさんたちにお話いただいてもよろしいでしょうか」


 「了解いたしました。交代いたしますわ」


 という訳で、騎士団員の男の人がいた席にリディアさんとメフィストさんとジェラさんが座り、シロガネさんがテーブルの横に立つ。エメリアさんは、また壁際の適当な席へとついた。


 知らない人が大勢、入ってきたことを受け……ロゼさんが暗部の人の袖を掴んでいる。しかし、ジェラさんの背中に羽があることに気づいたのか、やや嬉しそうながらに立ち上がった。


 「は……羽がある方なのです」

 「は……はい。私はンジュー族のジェラです」

 「ほ……本当に外界にも、同胞がいたのです。あなたに出会えて、ロゼは感激に至りました」


 ジェラさんの背中の羽をのぞきこみ、目に涙を浮かべながらロゼさんが着席する。ジェラさんも自分が話し相手になった方がスムーズだと感じたのか、自主的に会話を進めてくれる。


 「外界……というのはなんなんですか?」

 「ここが外界なのです」

 「……?」


 さっきのセリフのニュアンスとして読み取るならば……そういうことになるな。逆に言うと、内界が存在することも予想はつく。


 「拙者は見た……虚空に出来たヒビ割れの中に、見果てぬ陸地が存在する事実を。あれが内界ではないかと存じておりまする」


 「と……証言は出ているのですが。言葉だけでは信じられないので、そのヒビ割れを見せて欲しいと頼んでも、ロゼ氏が断るのです」


 帝国暗部の人が小さな声で告げ、それを聞いた騎士団員の男の人が事情を補足する。そして、ロゼさんが先程とは別の意味で泣きそうな顔をして理由を述べる。


 「このフードを被った人にに天空大陸を見せたとじっちゃんに言ったら、無暗に見せてはならぬと注意を受けたのです。ロゼは悲しいです」


 何気なく帝国暗部の人に見せたところ、じっちゃんという人に注意されたようだ。それで騎士団員の男の人に言われても、今度は見せられなくなってしまったみたいだな。


 しかし、そのヒビというものの痕跡に関しては、この部屋でも似たものを見た。リディアさんは憶測を交えて話を始める。


 「ロゼさんは……もしや、そのヒビ割れを通じて、この部屋の外に出たのですか?」


 「ああ……またロゼは見られてしまいました。あの穴を通じて、天空大陸に誰かが向かっていたら、ロゼは叱責では済まされないのです」


 「あの穴が天空大陸に……」


 メフィストさんが天空大陸という言葉を受け、興味深そうにまばたきをする。俺やリディアさんが部屋でヒビ割れを見た時は、穴……というほどの隙間はなかった。割れ目しか確認できず、その向こうに何があるのかは見通せなかったな。


 「……」


 もしかして、俺の本体がある巨石の近くで、帝国暗部の人に何を見せていたところにもヒビ割れは残っていたのだろうか。小さくて見逃してしまったな……これは俺の観察不足である。


 「ワタクシが、ここまでのお話をまとめさせていただきますわ。ロゼさんは天空大陸という場所からやってきた方であり、天空大陸はヒビ割れ……のような穴の向こうにあるのですわね」


 「そうなのです。ロゼの言うことは本当なのです」


 「では、そのヒビ割れは……どのように作り出すのですか?」


 話をまとめつつ、シロガネさんが……帝国暗部の人に尋ねる。恐らく、実際に穴を作るところを見せてもらった人に聞いた方が早いと考えたようだな。


 「とがったものを……こう、押し込むとできあがりまする」


 「とがったもの……とは」


 「金色にとがった……なんとも形容しがたい尖ったものでありまする。拙者、やや口下手なり……ロゼ氏。現物を見せることはできぬか」


 「見せられないのです……たくさんの人に見せたら、きっとじっちゃんに怒られるのです」


 それに関してもまた、口封じがされているようだ。まあ……じっちゃんという人に怒られるのも可哀そうだし、無理強いはできない。でも、なんとか教えてもらう方法はないかな……。


 「多分なのですが……同胞の方になら、見せてもいいと思うのです」

 「……私ですか?」


 無暗に見せるのはいけないことだが、同じ種族であろうジェラさんに見せるなら許容範囲なのではないかと、そうロゼさんは考えたようだ。羽のある人を見て感激していたくらいなので、この出会いは俺が思っている以上に価値のあるものだったのかもしれない。


 「わ……わかりました。よく解りませんが、私にだけ……そのとがったものを見せてください」

 「念の為、ロゼ様に同行された方……あなたにも、部屋へ残るよう頼みたく存じます」

 「御意」


 今さっきロゼさんのことを知ったばかりのジェラさんだったが、ここは自分の出番だと察したようである。謎の天空大陸人とジェラさんを二人きりにするのも心配だったのか、シロガネさんが帝国暗部の人にも部屋に残るよう頼む。


 「……」


 ジェラさんとロゼさん……それと帝国暗部の人。その三人を残して、他の人たちは退室する。リディアさんのネックレスである俺も、そこで自然と通路へと出ることとなった。


 「あれ……もしかして私も羽を見せたら、仲間に入れてくれましたかね」

 「エメリアの羽は……なんだかトゲトゲしているから種類が違うのでは」


 夢魔であるエメリアさんも、魔力でできたような見た目の羽で飛ぶことはできる。しかし、それはコウモリのような翼であり、かなりロゼさんたちのものとは形状に違いがある。仲間と呼ぶのは難しそうだな……。


 「……」


 特に室内から音がするとか、声が聞こえるとか、そういうこともなく……静かにジェラさんが扉を開いて出てくる。とりあえず、話しやすいリディアさんに声をかけた。


 「とがったものを見せてもらいました」

 「ど……どうだった」

 「ええと……」


 ジェラさんが身振りを交えて説明を始めようとする。その前に……リディアさんはジェラさんが口の中に何か入れていることに気づく。


 「……何か食べているのか?」

 「お近づきのしるしにと、黄金爪を……もらっちゃいました。このすっぱさ……至高の逸品です」


 ロゼさんの持っている尖ったもの。それを見せてもらうついでに、スパイスの原料となる黄金爪ももらったようである。幸せそうなジェラさんとは打って変わって、すっぱさを想像してかリディアさんは渋い顔をしていた……。

続きます。

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