表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
928/978

第925話『報告』

 一度は帝国を逃げ出したロゼさんだったが、帰って食事を済ませたことで少し気持ちが落ち着いたようだ。帝国暗部の人と一緒に今一度、帝国へと向かうことを決意していた。


 しかし、ロゼさんが帝国に着くまでには一時間以上はかかるものと見られる。そして、そんなロゼさんの動向を知らないリディアさん達は一旦、帝国の街へと出ることとしたようだ。


 「ロゼちゃんって人には、会えなかったですね~。で……これから、どうします?ルビィちゃんの家に帰ります?寝ます?」


 「いや、まずはギルドに報告しなければならない。ギルド長が先に帰っているだろうから、大方の事情は伝わっているとは思うが」


 エメリアさんは帰って寝たいような雰囲気を出しているが、ギルドに所属している以上は報告が第一であるようだ。一行はギルド本部を目指し、入国門広場に出て左手にある商店街を進む。


 「……騎士団の人たちが慌ただしく走り回っているな」


 「本物とも見分けのつかない黄金爪が大量に市場に流されては、大事件となる可能性もございます。ロゼという少女の捜索は急務ですわ」


 「本物であったとしても、口に入った時点で問題になる代物ですからね……味が危険なので」


 さすがにまだシロガネさんにも、野外にてロゼさんが発見されたという情報は伝わっていないようだ。みんながみんな、電話みたいな魔道具を持っている訳ではないようだな。


 そうして話をしていると、向かい側からやってきた人が手を振っているのが見えた。


 「……あっ。リディアさん!」

 「ああ……ジェラ。こんにちは」


 商店街を抜けようというところまで来て、背中に羽のある少女と鉢合わせとなった。この人は……リディアさんたちと同じギルドに所属しているジェラさんだな。俺も初めて見た時は本当に、天使なのかと思った。そんな見た目の人である。


 「……ええと。リディアさんは、武闘大会に出たんでしたっけ?」


 「それはギルド長が……いや、ギルド長も出てはいないな。私たちは武闘大会に関連する儀式を拝見しただけだ」


 武闘大会への参加や、コクサ王国への来訪は急を要した為、ギルド内でも何が目的だったのか周知されていないようだ。


 見たところジェラさんは今、ギルド本部から戻って来た様子なのだが、もう少しリディアさんと話したいと思ったようだ。一緒に商店街を抜け、畑のある地帯まで歩いていく。


 「ジェラは今日は、何をしているんだ?」


 「私は街のマンホールを数える仕事を終わらせました。空を飛べる種族の利点を活かして働いています」


 「あの仕事、ジェラちゃんがやってるんですか?私もやりたかったです」


 前にエメリアさんが、マンホールの仕事がどうと言っていた気もする。結局、同じく空の飛べるジェラさんがやってくれたようだ。そうして仕事の話の合間に、やんわりとシロガネさんが質問を差し込む。


 「……ジェラさんとおっしゃいましたでしょうか。つかぬことをおうかがいいたしますが、ロゼさんというンジュー族の少女をご存じではございませんか?」


 「ロゼさん……ですか?」


 恐らく、背中に羽のある種族の人ならば、知っている場合もあるのではないかと考えたのだろう。ただ、ジェラさんは首を横に振る。


 「いいえ……聞いたことはないです。その人を探してるんですか?」


 「ええ。現在、行方知れずとなっている人物ですわ。いなくなった場所は入国門内の為、命に別状はないと推測されますが……」


 「ちなみにだが……ジェラは天空大陸というものについて聞いたことはあるだろうか」


 「天空大陸……ですか?」


 続けざまにリディアさんが質問するが、そちらについてもジェラさんは否定の言葉を返した。


 「よくは知らないです。名前と……夢に、それらしき場所を見るくらいで」

 「やはり夢には見るのか。他のンジュー族の人も、そう言っていた」


 天空大陸を思わせる場所を夢に見る。それはンジュー族の人たちの間でも共通認識となっているようだ。ロゼさんは天空大陸から来たと言っていたし、もしかするとンジュー族の人たちの故郷は天空大陸なのかもしれないな。


 「リディアさんたちは……今度は天空大陸を探してるんですか?」

 「いや……そこに目的のものがあるのかは解らないのだが、調べてみる価値はあるかと」

 「うん。それに……英雄王より先に見つけたい」


 メフィストさんの中では天空大陸探しが、リディアさんのお父さんと競争になっているようだ。あのお父さんですら見つけられなかったとなると、普通に探していても見つからない場所なのだということは想像に容易だ。


 「解りました。このジェラも、できることはなんでもお役に立ちます。遠慮せずに言ってくださいね」

 「ありがとう。その時は、よろしく頼む」


 そうして話をしている内に、ギルドの入り口に到着した。ジェラさんが先にギルドへと入っていき、受付カウンターにいる女の人へと声をかける。


 「エンガさん!リディアさんたちが戻りました!」

 「ああ。リディアっ!それと……メフィストさんと、エメ……エメ……」

 「エメリアです……あんまり来ない私が悪いんですけど、そこまでうろ覚えだと困っちゃいます」

 「エンガさん。リディア・シファリビアです。ただいま戻りました」


 受付カウンターの奥にいる女性が、こちらに手を振ってくれている。シロガネさんはギルドの一員ではないから、自然とチームから離脱してギルドの外で待機となった。


 リディアさんが手提げバッグの中から箱を取り出し、受付のエンガさんに差し出している。


 「こちらが……コクサ王国のおみやげです。食べられる砂で作ったコグです」

 「ああっ……ギルド長も、それを持ってきたけど……なに?人気商品なのっ?」

 「被ったか……別のものにすべきだったか」


 やっぱりギルド長も、同じものをおみやげに買って来ていたようだ。定番は被る……。


 「……?」


 その時、「わーっ!」という歓声と、岩でも砕いたかのような大きな音がギルドの奥から聞こえてきた。リディアさんが不思議そうな顔をしていると、ジェラさんが説明をくれた。


 「ギルドの奥にある戦闘訓練場で、ギルドメンバーによる武闘大会が行われているようです」


 「ギルドメンバーの武闘大会?」


 「ああっ。ギルド長がねっ。みんなを差し置いてコクサに行ったのに、結局は大会に出場しなかったってのが納得いかなかったみたいなのよっ」


 そうか。幹部の人たちなんかも、みんな本当は武闘大会に出たかったんだよな。それなのにギルド長が現地まで行って、出場しなかったというのだからおさまりがつかなかったようだ。


 「……そもそもギルドの奥に訓練場なんてあったのか」

 「ありますよ。いつも幹部っぽい人が、筋トレしながらカッコいいポーズの練習をしてる場所です」

 「なんで、たまにしか来ないのに、そういうことはエメリアの方が詳しいんだ……」


 また歓声と、大きな衝突音が届いた。とても白熱しているようだ。局地的にではあるが、コクサ武闘大会に匹敵する盛り上がりに感じられる。


 「今、入っていっても、ギルド長たちとは話ができなさそうだな……」


 「遠征の旅費とか、聖女活動の報酬とかの手続きは進めておくからさっ。また後日にでも来るっ?遠出して疲れたでしょ?」


 「あ……はい」


 ギルド長を含め、大勢の人たちが武闘大会に集中している。今の状況では情報交換もできそうにないとして、リディアさん達は今日のところは引き上げることとしたようだ。


 コクサまでの旅の過程をエンガさんに伝えた後、お別れを言ってリディアさん達はギルドの外へと出た。ジェラさんも武闘大会には興味がないのか、リディアさん達に同行している。


 「お嬢様。お早いお戻りでございましたが……」


 「ちょっとギルド内がゴタついているようでして。また後日、報酬を受け取りに来ることとなりました」


 「いや~。武闘大会も見てみたい気持ちありましたけど、なんか想像しただけで現場は暑苦しそうでしたね」


 俺もエメリアさんと同じく、試合を見たい気持ちはあるものの、あまりに周囲が盛り上がっていると逆に引いてしまう部分はある……。


 「ジェラは武闘大会は見なくていいのか?」


 「私は戦いについては……それほどでもないので。むしろ、街に黄金爪スパイスを持っている人がいると聞いて、仕事が終わったので探しに行こうかと思っていました!」


 「その人は……先程、帰ったぞ。お野菜ランドに」


 「え……」


 ジェラさんは戦いよりも、すっぱいスパイスへの興味が強いようだ。しかし、今一歩、遅かったようである。街にあるマンホールを数える仕事が、あと一日ほど早く終わっていれば、学者さんたちとも会えていたかも解らない……。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ