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第923話『説明』

 ロゼさんの行方は未だに皆目見当がつかないが、ひとまずはお野菜ランドの人たちが所持している黄金爪を見せてもらえることとなった。研究員の男の人が、宝石箱のようなものをテーブルの真ん中で開けてみせる。


 「……」


 小さな箱の中で爪のような形をした黄金色の粒が、部屋の照明に当たってキラキラしている。こうして見ると、本物の金で出来ているようにも見える。かなり硬そうな見た目でもあるな。


 黄金爪と聞いて驚き余って立ったリディアさんも、腰を浮かせつつ座り直し観察している。今まで壁際の席でくつろいでいたエメリアさんが、本物の黄金爪に興味が湧いたのか後ろからのぞきこんでいる。


 「へぇ~……キレイなもんですね。リディアは見るの初めてじゃないんですよね?」


 「いや、私もスパイス化されていないものを見るのは初めてだ……しかし、見ているだけで口の中がすっぱくなってきたぞ」


 強烈にすっぱいであろう物体が目の前にあるというだけで、リディアさんのトラウマが刺激されるのだろう。多分、体が石になった俺でも、レモンの画像を見たらすっぱい気持ちにはなる。それと同じである。


 「学者さん。これも、お豆なんですか?」


 「いや、豆の一種ならば発芽する部位があるはずだが、そういったものは見当たらない。突然変異により失われた可能性について考えていたが、そもそも豆の中に酸っぱさを構成する成分は含まれていないとの検証がなされた。断定はできないものの現時点では、黄金豆と別物ではないかと捉えている」


 「ひえ……はい」


 エメリアさんの何気ない質問に、学者チームのリーダーの人が数倍もの答えが返してくれる。気軽に質問したことを後悔したといった様子で、エメリアさんが少し引いている……。


 ちなみに、この黄金爪……ロゼさんいわく何かの植物の葉肉であるらしい。まあ、どう見ても葉っぱという形はしていないし、こんなに肉厚で短い葉があるなどとは学者さんたちも思わなかったのだと思われる。


 「折角ですし、ちょっと……食べてみますか?」

 「ッ!」


 研究者の男の人から、試食の提案がなされ、リディアさんが再び席を立った。ただ、その案は研究チームのリーダーによって制された。


 「王の許可もなく、食することは許されない」


 「でも、腐るかもしれないじゃないですか。新鮮な状態の内部を確認することも今後の研究に必要かと」


 「ふむ……鉱物ではない以上、このまま保管してよいかも解らない。いずれは加工すべきだが、まずは王への報告が先だろう」


 一応、スパイスとして利用されている以上は、細かく砕けば保存も可能なのだろう。硬さといい、ロゼさんがかじっていたのを見た感じといい、ナッツに近い硬質のものと考えられる。


 そんな会話の中で、エメリアさんが再びリーダーの人へと疑問を呈する。


 「王……って誰でしたっけ?」


 「お野菜ランドの王たる、ライゼン殿だ」


 「じゃあ、お野菜ランドって国なんですか?」


 「事の発端はライゼン殿が、お野菜ランドというテーマパークの在り方を説いたことにある。彼の地をお野菜情報の発信地、最先端とすることが望みであり願いだ。そこで、独自の文化を築く気概で仕事に取り掛かって欲しいという言葉を受け、だとすればお野菜ランドは新しい国と捉えて違わないのではないかとスタッフ一同は考えた。すなわち、それを仕切るライゼン殿は、いわば王。国を作る人に相当しよう。彼の信念の強さや心意気、風格に敬意を表し、我々はライゼン殿を王と呼ぶことを決めた」


 「は……はい」


 なぜ黄金爪について聞いた時より、ライゼンさんのことの方が饒舌なのか。きっと研究チームやスタッフさんからの人望が厚いのだろう。そこは語気からもどことなく感じ取れる。


 「という事情もあり、リディアさんたちに食していただくわけには参りませんが、いずれ栽培に成功した暁にはお譲りしたいと考えております」


 「あ……それはよかったです」


 「……?」


 「あ……いえいえ。貴重なものを見せていただけただけで、ありがたい限りで……」


 リディアさんが安心したような顔をしている。ここで食べることとなったら、シファリビア家での悪夢の再現となった可能性はあった。それほどまでに黄金爪は酸っぱいようである。


 「では……他に、ご質問はございますか?」

 「……私は、特には。メフィストさん、ございますか?」

 「……天空大陸は……あると思う?」


 リディアさんから話を振られ、メフィストさんが少し別の切り口から質問を取り出す。そして、その質問については……研究チームの男の人が答えてくれた。


 「あるかな……あるんじゃないかな」

 「ふむ。研究者たるもの、何か根拠があると見るが……どうして、そう思うのかね」


 今度は研究者のリーダーの人から尋ねられ、男の人は黄金爪をバッグにしまいながら答える。


 「根拠としては弱いかもしれませんけど、たまに夢で見るんですよ。見知らぬ大地が……大空に浮かんでいるのを。他のンジュー族も、同じ夢を見たと言ってました。ぼんやりと……黄金に輝く景色が。それで思うんです。ああ……これが、天空大陸か。と」


 「ううむ……行方知れずとなったロゼという少女も、君と同様に背中に羽があると聞いた。ンジュー族は天空大陸や、黄金爪と関わりがあるのやも解らない」


 そのあたりもロゼさんに直接、聞くのが早そうではある。これ以上はメフィストさんも質問はないようで、それを察した研究チームも席を立つ。


 「我々のアレクシアにおける調査は一通り、終了しました。これよりお野菜ランドへ戻ります。要件がございましたら、そちらを訪ねていただければと」


 「解りました。こちらこそ、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました」


 「行きたかったですよね……お野菜ランド」


 「これ……割引券です」


 「あっ……ありがとうございます!」


 まだエメリアさんの中では、お野菜ランドへの未練が残っているようだ。そんな残念そうなエメリアさんに、パーズズズさんがお野菜ランドの割引券をくれた……。


 「ワタクシは学者様方を外までご案内いたします。お嬢様、こちらでお待ちくださいまし」


 ここへ来るまでにも、たくさん鍵が掛かっていた。外へ出るにはお見送りが必要なので、シロガネさんが学者さんのチームを案内しつつ部屋から出て行く。


 シロガネさんと学者さんたちがいなくなり、静かになってしまった部屋の中で、リディアさんがお茶を飲みながら話を始める。


 「……黄金爪の見た目は確かに、小さな爪のようにも見えた。しかし、これが次に会うべき聖獣と、どんな関係があるというのだろうか」


 「すっぱいもの好き聖獣なんじゃないですか?」


 「聖女として認めてもらうために、あれを食べさせられたらどうしよう……」


 そんな試練を与えてくる聖獣がいたとしたら、リディアさんにとっては虫と接する以上の困難である。まあ、そんなことを強いてくる聖獣はいない……と思いたい。


 「……」


 しかし、本当にロゼさんは、どこへ行ったのだろうか。俺も彼女の魔力の値は憶えていないから、スキルを使って探すことはできない。


 でも、もし街の中ではなく外に出たのだとしたら、マップスキルでなんとかできるかもしれない。そう考え、俺は個人的にロゼさんの捜索を始めることとした。


 『現在地:アレクシア国防壁の外』


 アレクシアの国防壁の外。その草むらに隠してある小石へと意識を移した。街の外は魔獣もいて危険である為、こんなところを一人で歩いている人というのは、そんなに多くはないはずだ。マップスキルに表示される人物の居場所を特定し、そちらを探せば見つかる可能性はある。


 「……?」


 あれ……なんか、たくさん森の中に人の反応があるな。なんでだ?外で何かイベントでもやってるのか?


 「……!」


 ああ!そうか!これらのマークは今現在、ロゼさんを捜索している騎士団や帝国暗部の人たちの居場所を指しているのか。これじゃ、どこにロゼさんがいるのか見当がつかない。じゃあ、もうちょっと遠くの方を探してみよう。


 『現在地:始まりの丘』


 丘の上にある、俺の本体とも言える巨石。そちらへと意識を移した。さすがに騎士団の捜索も、ここまではまだ届いていないようだ。マップスキルを開いてみると、森の中に人のいるマークが二つ、ついているのが解った。


 いつも俺を監視している人と、そのお姉さんだろうか。そう思い、俺は森の中へと視線を向けた。


 「ロゼは怖い思いをいたしました!大きな人たちに連れられ、せまい部屋に閉じ込められてしまったのです!」


 「隣で泣くのはやめていただきたい……我は今、忍んでいるのだ……」


 フードに身を包んでいる帝国暗部の人の隣に……ロゼさんがいた。こんなところに、何故……。


 「そして、その部屋に閉じ込められたはずのお主が、なぜここにおるのだ」

 「一度、ロゼは家に帰りたかったからなのです」

 「家に帰ったのであるか」

 「家に帰って、ご飯を食べてきたのです。少し落ち着いたので、あなたに話をしに来ましたのです」


 ロゼさんは密室から脱出しただけでなく、家にも帰ったようである。現状、自分が大捜査網が敷かれ、帝国に探されていることには気づいていないのだろう。とりあえず、街の中に逃げ込んだ訳ではないようだから、注意される程度で許してもらえそうで、その点ではよかったとも言える……。

続きます。

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