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第91話『漏洩』


 「騎士団長。久しいな。他の店は閉まっていたのか?」

 「いかにも。こちらで一食、いただいていきたい」


 騎士団長も以前、ゲイトさんの店に来たことがあるらしい。ギルド長のことは知らなかったゲイトさんも、さすがに騎士団長は知っている様子である。自分より騎士団長の方が知名度が高いと見て、ギルド長が悔し酒を飲み干している。新しいお客さんの来店を受けて、ゲイトさんが料理をよそい始めた。


 「……ほれ、ガンクツ焼きである」

 「ありがとう」

 「店長。それ、まだある?」

 「まだ1人分はあるのだ」


 次の料理ができるまで時間がかかると見て、ゲイトさんはリディアさん達が食べているものと同じ肉野菜炒めを用意し、騎士団長の前に差し出した。壁際の席に座っている男の人がおかわりを頼んだので、そちらのお椀にも同じ物をよそってあげている。そのついで、どうして騎士団長が今日はうちに来たのかと、ゲイトさんが雑談ながらに尋ねている。


 「こちらへ足を向けたとなれば、馴染みの定食屋は休業であったのか?」


 「そうではない。最近、いきつけの店がやけに繁盛していてな。そばを通ったので、こちらに立ち寄らせてもらった」


 「その点、うちは繁盛しようがないから安心であるな」


 まあ、ゲイトさんの店はやってたりやってなかったりするようなので、入りたいと思っても入れるかは運次第である。店主も繁盛しなくていいと考えているようだし、その分では安泰と見られる。自分のいきつけのお店が繁盛していることについては悪い気はしないのか、どこか騎士団長も自慢げな表情を見せている。


 「……」


 カウンターの上に、メモ紙らしきものが乗っている。あれは……今日の特売リストか。そういや、新聞屋さんが騎士団長の近況を記事の1つにしていたな。あれを聞きつけたファンの人たちが、騎士団長の行きつけの店に殺到している可能性もあったりするのかもしれない。


 「少々、聞いてよいか?」

 「なんだ?」

 「騎士団長は、やけに派手な格好をしているが……どちらで購入している服なのであろう」


 ゲイトさんが、騎士団長の衣服について言及している。今日の騎士団長は俺の知っているマントとヨロイの姿ではなく、ヒョウ柄のジャケットや蛍光ピンク色のズボンを着用している、例えるなら……なんだろう。いや、例えるのも難しいな。なんとも言えないファッションである。日本では絶対、お目にかかれない服装とだけは言える。


 「特にこだわりはない。店で最も値のはる物を選んでいるだけだ。値段が高いものは、質のいいものに違いない」


 選ぶ基準は値段らしい。『RPGで新しい街についたら、とりあえず高い装備を買っておく』みたいな行動原理である。なお、性能を優先してオシャレを犠牲にするのは致し方なしと、そこに関しては俺も騎士団長と同意見である。そんな不思議な格好をしている騎士団長ではあるが、服装については自信を持っている様子だ。


 「私の衣装選びに間違いはないだろう。しかし、最近……妹の様子がどうもおかしくてな」


 「ほお。騎士団長には妹がいるのであるか」


 「ああ。まるで水着と見紛う、露出の多い服で街を歩いていると聞き、その実を確かめるべく家を訪ねてきたところなのだ。留守にしていたがな」


 そんなお兄さんとゲイトさんの会話を聞き、リディアさんは口に料理を入れたまま身動きを止めている。お兄さんはリディアさんの存在に気づいているはずなのだが……その場に妹はいないみたいに話し出すからして、これは遠まわしな注意と見ていい。自分の話が始まったのを知り、リディアさんはギルド長の体で身を隠している。


 「わがはいから見れば、そちらの人間の服装も、大差はないように思えるが」

 「ああ。物好きはどこにでもいるものだな」


 騎士団長の話を聞いて、ゲイトさんがリディアさんの服装をまじまじとながめている。リディアさんは黙ったままでいるし、シロガネさんも何も言えないとばかりに箸を動かしている。よく見たら、他の人たちはフォークなのに、シロガネさんだけは箸を使っているな。やっぱり日本人としては、箸で食事をしている様は見ていて安心感がある。


 「……」


 エメリアさんは反論しようかしまいか悩んでいるようだったが、急にリディアさんがエメリアさんのグラスにお酒をつぎ始めたからして……空気を読んでお酒へと口をつけた。やや沈黙をはさんだ後、お酒を飲み終えたギルド長が話題を変えてくれた。


 「それ、できたか?」

 「完成ぞ。大盛にしてくれるわ」


 次にゲイトさんが作ってくれたのは、切り刻んだ海藻らしきものにゴマっぽいものを振りかけ、炒めた貝を乗せた料理である。微妙に気まずい雰囲気なのに、みんなで仲良く同じものを食べている。なにやら極めて異質な光景である。自分用の料理をよそいつつ、ゲイトさんはリディアさんに話を振っている。


 「んで、人間よ。脱衣所で言っていた聖女とは、どのような職業なのか少しは解っておるのだな?」


 「え……ああ。いえ、こういった服を着て、武器を持たずにいるということ以外は……」


 「わがはいが見るに、泳ぎには適した服装であるゆえ、漁業関係ではなかろうか」


 考古学に詳しいメフィストの説明を聞いた今でも、聖女については今一つ解らない状態である。もしかしたら、ゲイトさんの言っていることが正解だったりもするかもしれない。聖女という単語を耳にして、ギルド長も横から話に加わってくる。


 「話に聞いたんだがよ。こんな格好でリディアが歩いてんのは、職業適性検査のせいなんだっていうぜ」


 「職業適性検査とは……役所で実施されているというアレであろう?そのような、あやふやな職業が提示されるもののか?」


 「おおよ。お国のいう事を信じて、聖女とやらについて模索してんだ。にしても、お役所も無責任じゃねぇか?なんなのかも解らん職業を勧めてくるんだからよ」


 「そうであるな。勧めたからには、協力するのが筋だと思わないでもないぞな」


 こちらも遠まわしに、お役所仕事への愚痴をこぼし始めた。騎士団長も反論はせずに食事を続けている。騎士団長もギルド長も、あまり居心地はよくなさそうなのだが、今のところは席を立つ様子もない。何品か食べてから帰らないと、途中で逃げたみたいに思われるのではないかと気にしているのかもしれない。


 「……」


 リディアさんとしては、ギルド長に同意を見せてもお兄さんに何か言われそうだし、逆もしかりなので適当に笑ってやり過ごしている。なお、ギルド長としても物申したかっただけらしく、リディアさんに肯定するよううながしたりもしていない。こちらも話題を変えようと、騎士団長は手にしたフォークを置きつつ声を発した。


 「……本日、役員が各ギルドの監査を行ったのだが、ギルド・竜の谷は指摘する点もなく、非常に優良であるとの報告であった」


 「ああ。我々、竜人は約束は守る。違法行為などあるはずなかろう」


 また別の肉料理が完成し、それをよそってゲイトさんはみんなに配っている。ゲイトさんの所属しているギルドは、騎士団から見ても特に問題はなかったようである。


 「だが、困ったギルドもあったものでな。所属人数が多いにも関わらず、本部の広さが基準に足りていない、規定にふれるギルドもあったという。ギルドの長には後日、釈明を行っていただくとのことだ」


 「……」


 ギルド名は明かされてはいないが、この感じからするに、規定違反だったのはリディアさん達が所属しているギルドだと考えられる。それが解っているからか、ギルド長も都合が悪そうに壁の方を見ながら食事をすすめていた。話が一段落したタイミングで、今度はギルド長が正面へと向き直る。


 「……騎士団といやあ、どうも自分らの能力の低さを知ってか、匿名でギルドに依頼を出しているって話だぜ」


 「ああ……あるぞな。うちにも、これは公務ではないかと錯覚するものが、まれに飛び込んでいるのを見る」


 かなり直接的にギルド長が物申しているが、騎士団長はムッとした表情も見せず、ハンカチで口を拭いて反論を見せる。


 「優良なギルドであればまだしも、規約も守らない怪しいギルドに、騎士団が仕事を預ける訳がないだろうな」


 「であろうな。おっさんのギルドの規模は存ぜぬが、騎士団は最近、魔人に関する案件も解決したと聞く。それほどの実力はぞろいとあらば、解決不可能な事件も、そうは存在しないだろう」


 もうお互い、直々に話をしたらいいのではないかと思うのだけど、騎士団長とギルド長はゲイトさんをはさんで会話をしている。こうなると、リディアさんたちではどうにもならないので、そちらの気が済むまで横で黙って聞くに徹していた。むしろ、これだけ言っても殴り合いには発展しない辺り、実は仲がいいのではないかとすら思えてくる。


 「あの……ちょっといい?」

 「……?」

 「……?」


 突然、壁際の席に座っていた男の人が、騎士団長とギルド長の言い合いに割って入っていく。何か思うところがあったのだろうか。それにしても、勇気があるな……。


 「……自分、こういう者なんだ」

 「……?」

 「……?」

 「あまり2人とも、公の場で機密事項は話さない方がいいと思うがね」


 男の人が腕まくりをすると、そこには黒い羽のようなマークが隠されていた。それを見て、騎士団長もギルド長も黙り込んでしまう。いわれてみれば、騎士団としてもギルドとしても、それなりに重要な情報が会話に散りばめられていたような気もする。


 「ああ……食欲は満たされた。私は、これで失礼しよう」

 「俺も、あとは帰って飲むとするぜ」

 「まいど。2人とも、気をつけて帰るのだぞ」


 騎士団長とギルド長は食事を平らげて同時に立ち上がり、お代を置いて我先にと店から出て行った。2人が退店した後、謎の男の人も席を立って会釈して見せる。


 「では、また来るよ」

 「おお。またの機会に会おうぞ」


 男の人もお金を置き、戸口の音もたてずに店から出て行った。ゲイトさんと自分たちしかいなくなったところで、エメリアさんが男の人の肩に会ったマークについて疑問を口にした。


 「あれ、なんの印なんです?」


 「ワタクシも、お会いするのは初めてですが……おそらく、国の内部に身をひそめる、帝国所属の偵察部隊。その一員に与えられる刻印と思われますわ」


 「……密偵なのに、顔を出しちゃっていいんですか?」


 「顔は常に変装で隠しているとか……」


 シロガネさんいわく、帝国を裏から警備している人だったらしい。だから、騎士団長も顔を知らなかったんだな。男の人の素性が知れてしまったところで、そっとエメリアさんが立ち上がり、少しだけ戸を開いてみた。


 「……あっ。どうもです」

 「……ええ。どうも」


 戸の外にはまだ、偵察部隊の男の人がいらっしゃった……こちらを見てニコニコしてはいるし、悪い人ではないようだけど、今となってみると非常に怖い。


第92話へ続く

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