第914話『バランス』
勇者一行はチームの雰囲気こそよろしくないが、砂漠を歩くに苦はしていないようだ。それを確認した後、俺は砂丘の上に浮いているドラゴンの姿の体へと意識を戻した。
「……」
進行方向をコンパスで確認して再び、変わり映えしない砂丘の風景を飛ぶ。多分、このまま進むと雪山に到着するのではないかと思う。地図で確認しても、この先には高地が存在することが解る。
とはいえ、雪山を目指している訳ではない為、少し右側に進路を変えて飛ぶ。まだまだ盗賊団の乗っている浮き島は見えてこないが、恐らくは……この先にいるのではないかと思われる。
「……」
本当に……こっちで、あってるのかな?あまりにも同じような景色が続くために、なんだか自信がなくなってきた。だが、ここまで来たら行くしかない。
「……」
ちらほらと雪が降り始めた。盗賊団の浮き島がある場所は、雪は降っていなかったな。とすると、この方角では目的地から少しズレている。もう少し右の方向へと進路を変更する。
……やっぱり雪山って、ずっと雪が降ってるんだろうな。一時的に止むことはあったとしても、雪解けするほどは気温が上がらないのだろう。だから、雪山は雪山なのだ。
「……」
普通に眺める分には雪もキレイなものなのだろうけど、俺は結構なスピードで飛んでいる為、パチパチと雪が体に当たる。人間だったら、この痛みで体が腫れ上がってしまうだろう。環境に左右されないのは無機物の強みである。
やっとのことで砂丘エリアが終わり、眼下の景色は森へと一変する。木々には霜がついていて、雪の白色と葉の濃い緑色のコントラストが美しく見える。
多分……盗賊団の浮き島は、もうかなり近い。雪山から離れていっているからか、次第に森についていた雪模様も消えていく。
「……!」
あった!黄金の豆の木が絡みついている浮き島だ!こうして傍目に見ると屋根もついているので、ツリーハウスが空を漂っているようでもある。
「……」
よし。一旦、ストップだ。擬態オリハルコンで視認できなくなっている天空大陸が、何かしらくっついて浮き島を引っ張っているのか。それを検証する。
浮き島の頭上に視線を向け、ステータス確認をしてみる。そこに何かあれば、なにかしらの名称や性質が文字で表示されるはずだ。
「……」
いや……特に何もないな。浮き島の上まで飛んでいき、周囲を見回してみる。だが、何かにぶつかるとか、そういうこともない。とすると……俺の予想が間違っていたようだな。ここに天空大陸はない。
……じゃあ、なんで浮き島のコントロールが利かなくなっているのか。今度は、それが疑問として生じる。
まあ、あの浮き島は重心移動で行き先を決まるシステムなので、浮き島の下に引っかかっている豆の木の向きが変わっただけで動作が変わってもおかしくはない。とはいえ、何かしら原因はあるはずだ。そちらの調査をしてみよう。
「……」
隠密スキルを使用している為、浮き島に近づいても盗賊の人たちに気づかれることはないと思われる。今一度、俺は浮き島の様子を見てみることにした。
浮き島は進行している方向に傾いている。外的要因で傾いている訳じゃないとすれば、浮き島の上……もしくは内部にあるものが傾きに関与しているはずだ。
「……?」
そういえば、浮き島の一部が何かに削られたみたいに少しだけえぐれてたんだっけ。あれは何だったんだろう。そこに天空大陸の一部が引っかかっているのだと考えていたのだけど……見てみよう。
「……?」
浮き島の横……目立たない場所に穴が開いている。なんだこれ。こんな穴あったのか?雰囲気的に最近できた穴に見える。
こういう時、すぐにのぞきこみたくなる気持ちはあるのだが、念のために俺はマップを確認するようにしている。何が穴の中にあるとも解らない。ここは慎重に行こう。
「……?」
魔獣のマークがついているな。ということは、穴の中に魔獣がひそんでいるということだ。そのせいで浮き島の比重が変わって、上に乗っている盗賊団の人たちの重さではコントロールできなくなっていたのだろう。
俺の見立てでは、盗賊団の3人の体重は……親分さんが90キロくらい。犬っぽい人が50キロくらい。タマタマさんは背も小さいから20キロくらいなのではないかと思われる。計160キロ。おそらく、浮き島の横穴に潜んでいる魔獣は200キロくらいあるのではないかと考えられる。
魔獣の重さまでは想像できたが、あとは実際に姿を見てみないことには解らない。魔獣は人間以上に隠密スキルにも敏感だ。なるべく隠密系のスキルのレベルを高めて……俺は横穴をのぞきこんだ。
「……」
何かがもぞもぞと動いている。暗視スキルがあるから、その茶色い毛並みは見て取れるものの、俺の視点からでは尻しか見えない。とりあえず、虫ではないことが解って少し安心した。
視界の中にウィンドウを開き、ステータス画面で魔獣の全体像と、その生態について調べてみた。
『魔獣:パーツーマ 生態:長い手足で樹の上を自在に動き、木の実を食べて生活する。その爪は土を掘ることに長け、外敵から身を守るために地面の中へ逃げ込む場合もある。人が近づいても危機を察知しなければ応戦しない温厚な性格』
全体的なフォルムは熊……に似ているな。ただ、やけに手足が長い。手と足の関節が蛇腹みたいになっている。奇妙な風貌ではあるが、ひとまずは草食だし、危険な魔獣ではないと考えられる。
……多分、たくさん黄金の豆がついているのを見て、この浮き島に乗り込んでしまったんだな。高い樹の上から手をのばしたら届いたのだろう。
パーツーマは黄金豆をポリポリと食べている。愛らしいというか……憎めない顔立ちをしており、ここを追い出すというのも可哀そうに思う。でも、このままパーツーマが乗っていては浮き島が、どこまでも直進してしまうのである。困ったな……。
『パーツーマ:ラーニングスキル・レベル1 穴掘り』
とか考えている内に魔獣のラーニングが完了した。『穴掘り』のスキルって……前に別の魔獣から会得済みだな。ラーニングスキルはダブることもある……。
とはいえ、パーツーマは体の形が非常に珍しいので、その姿に変形して動けるようになっただけでも、かなり利便性は上がったように感じる。一応は人型といえなくもないし指もあるから動かしやすそうでもある。
「……」
穴堀りのスキルか。待てよ……やりようによっては、パーツーマを追い出さずに、浮き島のコントロールを復活させることができるかもしれない。俺は横穴を出て、浮き島の逆側に回り込んだ。
この浮き島は割と大きなものであり、それゆえに浮遊力も高い。大きいので、もう一つくらい穴を掘っても問題はないはずである。
マップスキルを確認しつつ、パーツーマがいた穴と真逆の……それでいて同じ高さの場所を見つける。そこに爪を立て、小さいながらも穴を掘っていく。俺の体自体は大きくはないから、そこまで穴も大きい必要はない。
掘り進んだ穴の先で、俺は体重操作のスキルを使用する。こうしてパーツーマと同じ重さにすれば……傾いていた浮き島が、元の平行な状態に戻るのではないだろうか。
「……」
このくらいかな。ただ、土の中にいては外の様子が見えない。俺は浮き島の上についているオブジェの石へと意識を移した。
『現在地:???』
浮き島の進行が止まっている……ような気がする。うまく左右でバランスが取れたようだ。島の中央に座っているタマタマさんも、それに気づいたようである。
「……あれ?浮き島、止まってないでやんすか?」
「そうかぁ?」
豆を食べることに夢中で、親分さんは止まっている実感がないようだ。あれだけ美味しい豆なので、それを目当てにパーツーマが住み着いてしまうのも致し方ない。
「おお!また動かせるようになったぜ!時間が解決してくれることもあらぁ!」
盗賊団の3人は試しに重心を移動させ、浮き島を動かしてみている。今まで通り、自由に動かせるようにはなったようだ。
重さのバランスを取っている以上、浮き島の中にある俺の体も動かせないのだが、もしパーツーマが出て行った場合などには再び外に出ることもできるはずである。
そうして、無事に自由を取り戻した盗賊団の浮き島。そこで改めて親分さんが、周りに広がる森を指さす。
「んで、どこなんだ!ここは!」
「砂丘に戻るべきでげすな。もう武闘大会には間に合わないと思うでげすが」
「そうだった!俺様ちゃんたちは、武闘大会を見に行くつもりだったんだぜ!諦めちゃいけねぇ!砂丘まで全力後退だぁ!」
盗賊団の三人は再びコクサ王国を目指し、とりあえず砂丘を目指して浮き島を戻し始めた。武闘大会は……すでに終わっているのだが、それを伝える方法は俺にはない。
そして、本命であった天空大陸も、ここにはなかった。色々なことが徒労に終わった気もするが……たまには、こういうこともあるだろう。また一から調査していこう。
続きます。




