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第912話『推移』

 黄金爪などという謎の物体を村で拾ってしまったばかりに、今朝がた帝国へ帰っていった騎士団員のアネットさんが、ルッチル村に連れ戻されている。その上、調査に熱心な帝国研究員の人から、黄金爪が落ちていた場所を根掘り葉掘り聞かれている。それを同じ研究員のパーズさんが、呆気にとられた様子で眺めている……。


 「よし!では、アネット君の証言や記憶が正しいと仮定して検証を始める」

 「あ……ちょっと待って。こっち……もう少し、こっちだったかも」

 「そこと、こことでは推論が変わってくるのだ。証言は、しっかり頼むのだ」


 段々、アネットさんも記憶が蘇ってきたようで、黄金爪を拾った場所に近い場所を指さす。その数メートルの違いですらも、研究員の人からすれば大事な情報であるようだ。


 「本当に、ここでいいのか?もう少しズレていたりしないか?」

 「まだアネットの足跡あるから、ここなはず」

 

 雨が降っていたので、うまく足跡がついていたようだ。とすれば、拾った場所としても、そこまで外れてはいなさそうではある。


 「ここに黄金爪が落ちていたとすると、豆の木から落ちてきた説は、非常に可能性が低いのだ」


 「そうなのですか?その根拠とは」


 「パーズ君。見てくれ。このあたり、木から落ちた豆が、あまり散らばっていない。風向きや木の形に影響を受けているものだ」


 言われてみると、木から落ちた黄金豆の散らばりはまばらであり、アネットさんが黄金爪を拾った場所には、あまり豆は落ちていない。全く落ちていないという訳ではないが、こんな珍しいものが、あえてそこに落ちる可能性は高くはないと思われる。


 「それに僕は、そもそも……黄金爪と黄金豆に因果関係は、そもそもないと考えている」


 「えー?アネットは似てると思うけどなー」


 「色合いは似ている。しかし、豆には発芽能力があるものの、黄金爪には芽に当たるものが見当たらない」


 「突然変異という線は考えられないでしょうか」


 「黄金爪の中には、すっぱさが……殺人的なほどに凝縮されている。しかし、豆の味わいを構成する物質を調べても、すっぱい味に変質するものは含まれていない。なお、豆は腐ると苦みが強くなる」


 黄金爪と黄金豆は、見た目は似てるけど別物。それがプロの見解であるようだ。パーズさんも植物に関しては専門ではないようで、やや教えてもらうような形で会議に参加している。


 「へ~。あの黄金爪って、すっぱいんだ?食べたことある?」


 「……思い出したくもないのだ。あれは、どの植物のすっぱさにも該当しない、独特の味わいだったのだ。死ぬかと思ったのだ」


 「アネット……もうちょっとでクリスに食べさせられるとこだった。ほんと食べなくてよかった」


 一応、研究者としてのプライドにかけて、食べたことはあるらしい。だが、それは良い思い出とはならなかったようだ。


 味はともかく……仕切り直し、研究員の人が語り始める。


 「昨日、お野菜ランド……とかいう謎の国よりの使者が、帝国の研究室を訪ねて来た。この村より少し離れた場所にて、アネット君が見つけたものとは別の黄金爪を発見したと報告してくれた」


 「あー。お野菜ランドね。アネットも行きたいなー。リディアちゃんたちは、もう行ったんだっけ」


 「あの施設……一体、いつからあったんでしょうね。しかも、うちの妹が就職していて、手紙に野菜のことばかり書かれていて不可思議でした」


 実はリディアさんたちも、まだ行っていないのだ。リンちゃんの村に来たついでに行こうとしていたら、急にコクサ行きが決まったからな。行けなかったといった方が正しいかも解らない……。


 そして、お野菜ランドに勤める植物学者の一人は、パーズさんの妹さんである。もう一人の妹さんが、カルシの町にもいる。学者一家である。


 「うん。僕としても、野菜に目をつけてエンターテインメント化するという趣向は興味深く感じており、いずれお野菜ランドの王と呼ばれる方にも、話をうかがいたいと考えているのだ」


 「今から行っちゃう?お野菜ランド」


 「いや、まだ取材のアポイントメントを取っていないので、行くことはできない。社会人として当然の礼儀なのだ」


 アネットさんは疲れて眠そうなのだが、それでもお野菜ランドへの興味は強いようだ。ただ、今日は行っても取材ができないから、研究員の人たちからの賛同は得られなかった……。


 「アネット君がいると話が脱線して仕方がないのだ。話を聞くのだ」


 「わかった」


 「お野菜ランドの使者が黄金爪を拾った場所も、黄金豆の木から離れた場所にあった。木から落ちたとは考えにくい。そこで僕は考えた。この付近の空中を何かが通ったのではないかと」


 何かが空中を通った?


 「例えば、黄金爪の生えている浮き島が、お野菜ランドの近くを通った後、この村の上を通った。背の高い黄金豆の木にぶつかり、黄金爪を落とした。そして、今もどこかを飛んでいる……といった具合の仮説だ」


 「ええ?そんな浮き島があるの?」


 「という説が、僕の中では濃厚。それが真実か否かは、調査により実証せねばならない。君たちを街まで送り届けた後、僕はドラゴンを借りて周囲を探索してみる。パーズ君は最近、変わった浮き島が目撃されていないか調査を手伝ってほしい」


 黄金爪は黄金豆の木になっていたものが落ちた訳じゃなくて、黄金爪の落ちていた場所を偶然、浮き島が通った。そういう考えで検証するらしい。


 「……」


 だとすると、盗賊団が乗っている浮き島の上に黄金爪があったのは、どういうことになるんだ?あの浮き島より高いところを浮き島が通ったというのか?


 「……」


 色々な情報が、ぴったり当てはまりそうな気がする。ちょっと冷静になって一つ一つ考えてみよう。


 まず、すっぱい黄金爪は……黄金豆や、豆の木とは恐らく関係ない別のものだと、今さっき研究員の人が言っていた。あわせて、黄金爪は浮き島のような、空中浮遊している陸地に実をつけている可能性があるとも予想されていた。


 その黄金爪が、盗賊団の浮き島の上に引っかかっていた以上、それは少なくとも盗賊団が乗っている浮き島より上にある。今現在、謎のトラブルによって、盗賊団の乗っている浮き島は操縦不能となっている。


 「……」


 そして、最近になって聞いた妙な単語……天空大陸。これらを合わせて推理すると……もしかして、引っかかってるんじゃないのか?盗賊団の浮き島が、目に見えない……隠れた天空大陸に。


 普通に視認できる大陸なら、もっと発見事例もありそうだしな。天空大陸が聖獣と関連しているとするならば、オリハルコンによる擬態能力などで隠れているのかもしれない。


 「……」


 ここからは、天空大陸があると仮定して、どのような動きをしていたのかを推理する。


 さかのぼること数日前、天空大陸はお野菜ランドの近くを通った。そこで爆破される前の豆の木にぶつかり、黄金爪を落とした。


 その後、この村に生えている豆の木に当たり、また黄金爪を落とした。そこから移動を続け……アレクシア国とハイドレンジア国の間にある砂丘を進んでいた。


 そこで、コクサ王国を目指していた盗賊団の浮き島に、天空大陸の何かが引っかかり、現在の状況に至る。これは俺としても仮定に過ぎないが……そういった確率もなくはないのではないかと思われる。


 「……」


 そうこう考えてみるが、実際に見てみないことには、俺にも解らない。こうなったら、俺も検証するしかない。かといって、盗賊団の浮き島についている体を動かすことはできない。とならば、俺も新たな旅立ちだ。


 『現在地:始まりの丘』


 俺の本体である巨石から、バスケットボールほどの大きさに分身を作り出し、そちらに意識を移す。森の中から監視されている都合上、隠密系のスキルを駆使してバレないよう丘の上を離れた。


 よし。雨も降り止んでいるし、空を飛んで盗賊団の浮き島を追いかけよう。体を軽くするスキルと風魔法を使い、俺は空へと体を舞い上げた。


 「……」


 その後、周囲を見回した後……そのまま地上へと戻ってきた。そういや今、あの浮き島……見知らぬ場所を飛んでるんだよな。盗賊団の浮き島って……今、どこにいるんだろう。


 「……」


 何はともあれ、旅には下準備が必要だ。勇んで飛び出した勢いをなくしつつも、俺は浮き島を探すべく、スキルの一覧へと目を向けた……。

続きます。

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