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第911話『神経質』

 雨が降る様子をずっと見ていた。雨音は強弱をつけて降り続いており、そろそろ止むかなと思っていると、また勢いを強め、結局は午後になるまで絶え間なく降り続いた。


 「……青空が広がってきました。雨が去る兆候にございます」


 百二子様が言った通り、それから数分後には雨が止んだ。神様って、やっぱり天気予報とかできるんですか?


 「予報とまではいきませんが、長き時の中で空を眺めて参りましたので、天気の動きは感じ取ることができます」


 そうか。俺がゲームの画面を見ている間も、神様は自然の風景を見てきたんですよね。それも、俺が生きてきた十数年じゃなく、もっと長い年月……。


 「とはいえ……それが何か特別に役立った記憶もございませんが、自然と身についた能力にございます。では……私は、世界の様子を見て参ろうと存じます」


 ……そういえば、百二子様は俺と違って実体がないので、好きな場所を好きなように見て歩けるんですよね。


 「はい。ですが、地中などの見通しのよろしくない場所につきましては、あまり精度が高くはないかと」


 ちょっと気になることがあって……アレクシア帝国のお城にある研究所に、お野菜ランドの学者さんたちがいるか見てきたりとか、できたりしないですか?


 「場所につきましてはおよそ、把握できておりますが……学者様方の容姿が、あまり記憶にございません」


 服に、野菜……大根みたいな絵が描いてある作業服の人たちで、今はどこのいるのか知りたいと思いまして。俺も学者さんたちが、お野菜ランドに戻ってないか見てきます。


 「はい。それでは行って参ります!」


 申し訳ないです……ありがとうございます。研究所は渡り廊下で繋がった別棟にあります。


 神様に頼みごとをするなんて、なんか悪いな……とは思いつつも、学者さんたちがリディアさんたちとすれ違いになると、それもそれで困りものである。できることをやらない。頼めることを頼まないのは、なんか俺としても手を抜いた感じがして嫌でもあった。


 この雨だし、お野菜ランドには、まだ帰って来てないと思うが……一応、俺もお野菜ランドの様子を見ておこう。


 『現在地:お野菜ランド』


 体が雨に濡れていたので、それを軒下で乾かしていた。そろそろ乾いたと見て、壁の隙間を通り書庫へ向かう。しかし、そこにはオーナーのライゼンさんしかいない様子であった。


 もう一度、お野菜ランドの外に出る。軒下を辿りつつ窓から室内を一つずつながめていく。今日も音楽ライブは開催されてるんだな。ただ、雨が降っていて人が少なかったからか、曲がバラードだ……日によって若干、セットリストが違うのかもしれない。


 そもそも、お野菜ランドの学者さんたちって普段……どこにいるんだろう。なんとなく書庫にいるイメージだったけど、数日前は豆の木を調べるためにフィールドワークに出ていた。でも、さすがに今日は外には出ていないはず……。


 「……」


 ライゼンさんの個人菜園も覗いてみた。ここにも……いないな。とすると、まだアレクシアにいると考えてよさそうだ。なんなら明日、学者さんたちがお野菜ランドへと戻ってきたところで、うまくリディアさんたちと顔を合わせられるかも解らない。


 そういえば、お野菜ランドの学者さんの一人に、羽の生えた人がいたんだったな。人間以外の種族の人は城や研究所に入れないから、自然と外で待機になるはず。とすれば、そう研究所に長居はしないとも考えられる。


 「……」


 一通りお野菜ランドをながめて回り、俺は書庫へと戻ってきた。ライゼンさんがいなくなっている。きっと雨が止んだからお野菜ランドの方を見に行ったのだろう。


 俺も、ここにある本を読むことができたら、もうちょっと情報収集ができるのだろうけど……さすがにページをめくることもできない。そもそも読めるかどうかも解らない。専門用語がネックだ……。


 「石田様。よろしいでしょうか」


 書庫の隅で、まったりと過ごしていたら、百二子様がのぞきこむような姿勢で目の前に現れた。え……もう見てきてくれたんですか?


 「石田様がおっしゃるならば、私は地の果てまでも一瞬で参ります……なんなりとお申し付けください」


 あ……ありがとうございます。俺からすると、あっという間に見てきてくれたように感じるが……そもそものスピード感が違うのかもしれない。アレクシアと行ったり来たりするのは、百二子様からしたら瞬間移動みたいなものだろうしな。


 なんか……頼みごとをしてしまって、すみません。お野菜ランドの学者さんたちは、まだ研究所に留まっている状態でしたか?


 「いえ、研究所と呼ばれる場所は探し当てることができましたが、その室内に大根の印を服につけた方々は発見できませんでした」


 とすると、研究所でのやりとりを終えて、これからお野菜ランドに帰ってくるところなのかもしれませんね。


 「しかし、別の場所にて、そういった風貌の方々を見つけることができました。たくさんの本のある場所……図書館と呼ばれる建物です」


 図書館……そういえば、ライゼンさんも寄り道してきていいとは言っていた気がする。どうせ街まで行ったのならば、できることは済ませて来た方が効率もいいしな。


 とすると、アレクシアから帰ってくるのも、もう数日ほど先になるかもしれない。時間はかかるかもしれないが、いずれはリディアさんたちとも、どこかで会えるのではないかと思う。


 「それと……本日まで村にやってきていた若い女性の方々が、研究所にいらしておりました」


 村にいた若い女の人たち……アネットさんとクリスさんかな。研究所はワンコロちゃん……俺についても調べているだろうから、そのあたりの情報共有もしているのかもしれない。


 「石田様について……よりかは、手にしていた黄金色のものについて、お話をしていたと見て取れました」


 ああ……黄金爪ですね。珍しいものらしいですし、お野菜ランドの学者さんたちからも同じものについて聞かれたと思うので、そのあたりの情報を精査していたのでしょうか。


 「そして、その方が研究者の方々と再び、村にやってきておりました」


 さっき帰ったのに、また来させられてるんですか?ちょっと見に行ってみます。


 『現在地:ルッチルの村』


 リンちゃんの住んでいる村。台座に乗せてある石へと意識を移した。本当だ……気づかない内にアネットさんが戻ってきている。あと、研究員のパーズさんが一緒に来ているな。クリスさんはいない……。


 「それでアネットさん。黄金爪は、どこに落ちていたのですか?」

 「え~……このあたりだったかなぁ」


 パーズさんに尋ねられ、アネットさんが困ったように髪をいじりながら答えている。


 「アネット君。これは黄金爪の発見、出現の秘密が明かされるかもしれない重要な調査なのだ。あいまいなことを言われては困るのだ」


 パーズさんと、もう一人……男性の研究員の人がいる。こちらの方は調査には真剣なようで、ふわふわとした適当な発言を許さないといった姿勢が見て取れる。


 「本当に、ここでいいのか?ここに黄金爪が落ちていたのだな?」


 「う……アネット。眠くなってきた。ワンコロちゃん、会いにきてくんないし……朝から畑仕事も手伝ったし」


 「畑仕事は手伝っていないとクリス君から証言があったぞ。さあ、正確な意見を述べるのだ」


 「パーズちゃん……助けて。この人、怖い。怖い怖い……あと微妙に暑苦しいよ~」


 「しかし、こればかりは調査なので……それなりに正確な情報を求めます」


 「パーズ君。研究者であれば、情報は0.001パーセントの誤差までが許容と解っているはず。さあ!アネット君!どこに黄金爪が落ちていたのだ?さあ!さあ!」


 すごい圧の強い人が同行してしまったようだ。この人も恐らくは、植物を専門としてる研究者なのだろう。怒っているというよりは、黄金爪の情報が手に入ると知れて目を輝かせているようだ。ただ、もう少し手心というか……優しくしてあげて欲しい気も……。


 「……」


 でも、アネットさんが黄金爪をひろった場所と、今立っている場所……数メートルくらい離れているな。疲れて眠いのは解るが、もう少しばかり正確な情報を提出してあげていただきたい……。

続きます。

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