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第907話『意思表示』

 リディアさん達はアクアマリーンさんの船で現在、砂漠をぐるっと一周するクルーズツアーに出ている。ただし、その船の勢いたるや下りのジェットコースターを凌駕しており、窓からチラッと見える景色だけでも移り変わりが激しい。


 「メフィストさん……下を向いていると酔うかもしれませんよ」

 「うん。上を向いておく」


 猛スピードで進行する船の中、あまり動くと危険と見てか、メフィストさんが静かに手記を始める。リディアさんから注意を受け、上を向いて……引き続き筆を動かす。どのくらいの時間で海に着くのか、リディアさんはシロガネさんに問いかける。


 「シロガネさん。海に到着するまで、何時間ほどかかるのでしょうか」


 「通常、こちらの河川を利用する船は貨物船にございます。途中、河の近くに作られている多数の集落へ立ち寄り、日中をかけまして一周すると耳にいたしましたわ」


 「そうしますと、各地に停泊しない分、早く着くと考えてよいのでしょうか」


 「そちらに加えまして、海賊船は乗員や貨物が少ない為、進みが速いものと考えられます。海まで7時間、海に出た後にカルシの町まで2時間と見ていただく方がよいかと」


 今の時刻は地球時間でいうところの朝9時くらいだろうか。カルシの町に到着するのが夕方近くとなりそうだ。そこからカルシの町を出るというのも現実的ではないので、カルシの町で一拍する予定となるのだろう。


 そういった旅程を聞き、エメリアさんが提案を示す。


 「お野菜ランドにも宿泊施設あるでしたっけん?」


 「ございますわ。黄金爪スパイスについて、お話をうかがう意味でも、そちらに宿泊する方がお時間はとれるかと」


 「いや、お野菜ランドへ向かうのは……明日だな」


 シロガネさんとしては、お野菜ランドに泊る方が利点があると言う。ただ、リディアさんはカルシの町で一拍するべきと考えている。


 「海賊団のテトランさんが……実質、優勝しただろう?町に着いてすぐ、それでは、ごきげんようとは私には言えない……」


 「そうですね~。カルシの町も英雄の帰還を受けて、きっと賑わっちゃいますね」


 「武闘大会に同行したワタクシたちが、先にカルシの町を立ち去ることは、やや空気の読めなさが表れますわね……」


 カルシの町に着いたら祝勝会がある。それをスルーして行くのは、旅の仲間としてどうなのか。急ぎたい旅ではありそうだが、人と人との繋がりは大事である。それがあったおかげで、こうして海賊団の船の乗せてもらえているしな。


 「メフィストさんも……明日、カルシの町を出発する方針でよろしいですか?」

 「うん。ワタシも、少し時間が欲しい」

 「……?」


 リディアさんがメフィストさんに確認するも、なんだか不思議な返答が帰ってきた。何かカルシの町でやることがあるのだろうか。


 「メフィストちゃん、なに書いてるんですか?」

 「テトラン選手の伝説」


 てっきり聖獣のこととかを書いてるのかと思っていたが、どうやら武闘大会での戦いの様子をつづっていたらしい。いつもレポートを書いている人だからな。観察力と表現力は人並外れている。エメリアさんが横からレポートをのぞき見ている。


 「……へぇ~。そんな戦法で」


 「エメリア。メフィストさんのメモには、何が書かれているんだ?」


 「リディアのお父さんが玉座を引っこ抜いて投げつけたんですけど、それをテトランさんがバーンってやって防いだんです」


 「全然、伝わってこない……」


 書いてあることを伝言するのも、それなりに難しいのである。自分で見た方が早いとしてか、リディアさんもメフィストさんに肩をつけて記述を読み始める。


 「はぁー。そういった戦術が……」

 「バーンって会場の外に飛ばされて行った人、魔法の自爆だったんですね~」


 すっごい俺も内容が気になる……けど、俺のいる位置からでは絶妙に文字が読めない。実際、試合内容の一部始終を見た人は、ここにいる中ではメフィストさんだけだからな。みんなも興味深々である。よくそんな細部まで記憶できているものだ。メフィストさんの記憶力も凄い。


 「お嬢様。あまり寄り添われますとメフィストさんが窮屈を感じますわ」

 「ワタシは気にしないから大丈夫」

 「……」


 などと言っているシロガネさんも手記の内容に興味があるのか、リディアさんの更に後ろからのぞいている。これを読めばカルシの町の人たちにも、大会の白熱が伝わるはずである。


 この……まったりした空気感はキライではないのだが、女の人4人にギュッと囲まれている現状は、俺としては微妙に気恥ずかしさがある。まだまだ海には到着しないだろうし、とりあえず別の場所へと意識を転送しよう。


 『現在地:お野菜ランド・書庫』


 俺の体の一部はお野菜ランドに運び込まれており、うまく書庫へと侵入して身を隠している。この一帯は今日は雨が降っているし、あまりお客さんも多くはなさそうだな。


 「……」


 お野菜ランドのオーナーであるライゼンさんが、枕にできそうなほどの大きなを机に広げ、しかめ面で文字に目を向けている。


 「王。おはようございます」


 作業員っぽい服を着た人が、書庫にやってきてライゼンさんにあいさつをする。お野菜ランドを一つの国と捉えているからか、オーナーのライゼンさんは王と呼ばれている……ただ、本人の意向ではない模様である。


 「私を王と呼ぶのは……まあ、いい。おはよう」


 「雨模様でございますので、あまり客足は多くないものと見受けられます。本日の運営は、どのようになされますか?」


 「新メニューの開発や、催しの企画発案に動いてほしい。疑問や確認事項があれば、私の元へ話を持って来てくれ」


 「はっ」


 作業服を着た人が敬礼して、部屋を出て行こうとする。その寸前で振り返り、再びライゼンさんに声をかける。


 「ちなみに……王は、何かお調べになられているのですか?」


 「現在、植物学者チームが、黄金の未確認物体をアレクシア帝国へ持っていき調査を進めている。あれが何か、気になっている」


 「その未確認物体の……味が気になられているのですか?」


 「まあ……食用にできるか否か。それもある。が、黄金の物体ということは、黄金豆やルッチル村の野菜とも関わりがあるのではないかと思うのだ」


 「なるほど」


 やっぱり気になるよな。でも、俺の調べでは黄金爪は空より飛来していると考えられている。ルッチル村の野菜は、村の畑で作られている。今のところは、ここに共通点が見受けられない。本を読んでいたライゼンさんが、急に頭を抱えて唸り始める。


 「ぐぬう!不思議だ。なぜ……これほどルッチル村に近い場所だと言うのに、お野菜ランドの菜園では黄金の野菜が育たない。私がお野菜に愛されていないからなのか」


 「王……お気を確かに」


 このお野菜ランドにも温室のようなものがあり、そちらでライゼンさんが個人的に野菜を作っている。ここで黄金野菜が作り出せたならば、お野菜ランド印として売り出すこともできるし、そういう意味でも期待をかけているのだろう。


 「王。ルッチル村とお野菜ランドでは場所としては近いですが、使っている水などが違うのでは」

 「水は、なるべくいただいてきている。ルッチル村の井戸から取れる水をな」

 「では空気……温室で育てているのがよくないのでは」

 「それもあるのだろうか。うむ……」

 「あとは……土」

 「土……」


 ルッチル村の土が特別なのではないか。その考えは、かなり正解に近いのではないかと思われる。事実、魔人に土地をけがされていた時期は、黄金やプラチナ色の野菜は採れていなかったようだしな。


 「……いやしかし、あのせまいルッチル村から土をもらい受けるのは、もはや強奪!もし、それが原因でプラチナや黄金の野菜が採れなくなったとしたら、それは世界の損失だ」


 「ふっ……愚かな息子よ。何をうろたえておる」


 ライゼンさんと作業着の人が話をしていると、ゆっくりと扉が開く。そして、一人のおじいさんが部屋へと入ってきた。


 「お野菜ランドなど立ち上げおって。少しは成長したかと思えば、まだまだ経営者としては未熟なようじゃな」


 「お……お父様」


 あ……ライゼンさんのお父さんだ。あまりライゼンさんと仲のよろしくない……。


 「愚かな息子よ。自身の成功のためならば……全てを奪うのじゃ。奪いつくし、我が糧とせよ。それが勝ち組となる人間の生き方なのじゃ!」


 「く……私は、あなたのようにはならない!みんなを幸せにする。そんな、お野菜のような経営者に……私はなる!」


 なんか、ふらりと様子を見に来たら、因縁の親子対決の場に居合わせることとなった。そして、親子の因縁にはさまれた作業服を着た人の居心地の悪そう感。俺、こっそり見てる石でよかった。あの場に巻き込まれたら、どういう顔をしていたらいいか解らなかったかもしれない。


続きます。

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