第900話『装備効果』
リディアさんたち一行と海賊団はカルシの町へ帰るべく、砂上船に乗って砂漠を横断している。船の中は非常に暑いらしく、みんなの口数も多くはない。
「帝国製の装備ってのは……本当に不思議だねぇ。こうして触っているいると、なんだか涼しいよ」
アクアマリーンさんが許可を取った元に、メフィストさんの肩を抱いている。メフィストさんは帝国製の装備をつけているから、身体を近づけていると装備効果の恩恵を受けられるようだ。
「船長!ズルいっす!俺らが姉さんたちに近づけないのをいいことに!」
「おさわりする男はダメさ!水の魔石で辛抱しな!」
海賊団の男の人たちも、さすがに女の人にすり寄るのはNGだと考えているようだ。すなわち、帝国製装備の効果を得られるのは女性特権である。
「こちらの装備を……お持ちになってくださいまし。多少は楽になるでしょう」
シロガネさんがコンパクト状のケースを海賊団の人に差し出している。確か、あれには帝国製の指輪が入っているんだったな。普段、シロガネさんは身に着けていないが、持っているだけでも効果は得られるようだ。
「い……いいんすか?」
「この時間帯の砂上船は本当に命に関わりますので」
貴重なものでもあるし、貸し出すという選択肢は思いつかなかったな。ただ、それだけシロガネさんとしては心配だったのだと考えられる。
「では、失礼して……アネゴ。必ず返すんで、ご了承くだし」
「ワタクシ……アネゴとは、あまり呼ばれたことがございませんわ」
海賊団の小柄な人がコンパクトを受け取る。見る見るうちに汗が引いていくのがはた目にも解る。
「す……すげぇ!まったく暑くねぇ!」
「みんな!集まれ!」
男の人たちが、コンパクトを持っている人の周りに集まって、焚火を囲むみたいに陣を取る。傍目に見ると人が集まっていて逆に暑そうだが、装備の効果が強いからか、かなり暑さは軽減されているようだ。
……そちらは問題なさそうだが、当のシロガネさんは大丈夫なのだろうか。リディアさんが心配の言葉をかけている。
「シロガネさんは……暑さ対策はされているのですか?」
「ワタクシは氷の魔石を装備しておりますので、数時間は問題ございません。ですが……」
スッとシロガネさんはリディアさんの横に座る。
「お嬢様。この火照った哀れなメイドを慰めてくださいまし……」
「ええ。私でよければ……」
あ……そうか。リディアさんに近づけば装備効果で暑さを抑えられるから、うまく近づく口実を作ったのか。となると、エメリアさんも黙ってはいない。
「く……自分だけリディアに慰めてもらおうなんてメイドとしてどうなんですか!」
「あなたは自分の装備があるのですから、お嬢様のそばにいる必要はございませんわ」
とはいえ、普段使いしていないシロガネさんとは違い、リディアさんやエメリアさんは装備を身に着けている。ちょっと気持ち貸し出しにくい。リディアさんなんて胸の谷間に直接、乗せてるしな。
「リディアに負担はかけられません……解りました。シロガネちゃんの面倒は私が見ます」
「よそ様のお手を煩わせる訳には参りませんわ」
「よそ様って言わないでください!私たち、仲間じゃないですか!」
ということで、抜け駆けは許されない。いつもの通り、リディアさんとシロガネさんとエメリアさんの三人でくっつく。
あとは到着まで各々、こういう感じで涼みながら過ごすのだろう。帝国製の装備は、やっぱり凄い。リディアさんの帝国装備は俺をはめ込む形で使用されているのだが、なんとなくだけど……補助効果が安定する感じはする。
「……」
なので、リディアさんたちの方は暑さ対策としては問題ないと思われるのだが、真に俺自身の力でどうにかしないといけないのは……こちらである。
『現在地:コクサ王国』
「さあ。今から、ボクたちの新しい旅が始まるんだ」
マントをなびかせながら、勇者の人が目の前に広がるコクサ砂漠を仰いでる。
「……」
その後ろで、非常にテンションを下げているのがオーパーさんとペリダさんである。砂漠の暑さは見るからに最高潮で……時空がゆがんでいるのではないかというほど、風景がゆらゆらしている……。
「勇者スピネル。やめましょうよ。こんなこと。命がもったいない」
「命とは厳しい環境で強さを増す輝きだ。行くぞ!」
オーパーさんの引き留めも聞かず、砂漠へと歩み出す勇者の人。それを……呆然と見送る二人。
「……はぁ!く……なぜ、ついてこない!オーパー!ペリダ!」
汗だくで戻ってきた……この短距離を往復しただけで、お風呂に入ってきたみたいに顔が赤くなっている。カンカン照りであるからして、普通に歩いて行くのは、かなり厳しそうだな……。
ペリダさんがドン引きしたといった態度で、勇者の人をたしなめる。
「勇者スピネル。その調子では、いつか死にますよ……」
「ボクは死なないよ……勇者だから」
漫画の主人公なら死なないんだろうけど、ここは一応、リアルだからな……生き延びるには、それ相応の対策が必要である。そして、その方法は……オーパーさんの持っている石に委ねられているようだ。
「さあ、行こう。勇者のオーブの運び手・オーパーよ」
「運び手にされてる……私のなのに」
オーパーさんとペリダさんを両腕で抱き寄せ、一緒に砂漠へと歩き出す。街の中は地面が舗装されているから暑さも大したことないが、砂漠は砂の効果もあって何倍にも暑くなっているようだ。
こんなこともあろうかと一応、装備効果を上げられそうなスキルがないか事前に探しておいた。
『スキル:環境適応補助(スキルポイント:3) 効果:周囲に存在する対象の環境適応能力を向上させる。適応範囲は自身の体から半径1メートル。スキルレベルの上昇に伴い、範囲と適応能力が向上』
装備効果を上げる能力……というよりかは、自分の周囲にいる人を守る能力なのだろう。これも前まではスキル一覧になかったような気がしている。
レベルは上げ過ぎても問題が発生するケースもあるので、ひとまずはレベル2まで上げて様子を見よう。スキルポイントはクモの聖獣をラーニングしたからか、また増えている。というか、使いきれないくらいある……最初からありすぎたから持て余してすらいる。
「せーのっ!」
意を決して三人が、勇者の人の掛け声で砂漠へと飛び出す。砂を踏みしめつつ、みんなは暑さのほどを実感している。
「……行ける!行けるぞ!やはり勇者のオーブは万能だ!」
「捨てなくてよかった……本当に」
オーパーさんが俺を握りしめながら虚ろな目をしている。環境適応補助スキルの効果もあって、かなり体調としては楽になっているようだ。二人三脚のように足を動かし、3人は砂漠を進んでいく。
砂漠は見晴らしがいい為、遠くの方に砂上船が見える。リディアさんたちが乗っているやつかな。それを見ながら、メイドのペリダさんがつぶやく。
「……船が見えます。あれに乗れたなら、もっと快適な旅ができたはず」
「ペリダ。かねがねボクは乗り物というものは、勇者に相応しくないと感じているんだ。自分の足で踏み抜いた一歩は、何よりもかけがえがないからね」
どうやらこだわりがあるようだ。言ってることだけ聞けば、立派な考えのように聞こえなくもないが、利用できるものは利用してしかるべきかとも思う……。
オーパーさんは、もう歩くことに全ての意識を向けている。喋る余裕はないようだ。ペリダさんも無口であるからして、勇者の人が一人語りのように砂漠横断のレビューをしている。
「……足場が不安定にも関わらず、不思議と疲労感もない。やはり勇者のオーブか」
快調に砂漠を進み続け、1時間ほど砂漠を行く。背後の様子は見えないけど、すでにコクサの街は見えなくなったようだな。そのタイミングで勇者の人が、ぽつりとオーパーさんに尋ねる。
「……それで、どちらに行けば雪山があるのかな?」
「……え?」
え?知ってて歩いてたんじゃないの?
「コクサ王国へ来る時は満身創痍であった。ボク自身、どちらからやってきたのか、よく知らない部分もある」
「私、勇者スピネルに合わせて歩いてましたが」
「ボクはペリダとオーパーに合わせて歩いていたよ」
その後、無言で勇者の人とオーパーさんが、メイドのペリダさんを見る。
「私も知りません。勇者のオーブに聞いてください」
「なあ、勇者のオーブよ。ボクたちは、どちらに進めばいいんだい?」
知らない……すみません。俺、そこまで考えてなかったです。こういうこともあるのか。旅って怖いな……何が起こるか予想もつかない。そして、今の俺に何ができるのか、想像すらつかない……。
続きます。




