表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/978

第86話『呪い』


 「大変ですわ」

 「ど……どうした」


 商店街を散策している最中、急にシロガネさんが大変さを露わとして立ち止まった。あまりにも唐突に動揺を見せたからに、すぐ後ろを歩いているリディアさんも、シロガネさんの背に胸を押しつける形で足を止めた。


 「ボロニョン料理のレシピを伝授していただいておりませんわ」


 「……油で炒めて、しょっぱくすればいいんじゃないか?」


 「いえ、あわせて炒めてあったクキのような野菜が、味の相乗効果を生み出しております故、あちらを用意せねば、最高のボロニョン料理は提案できませんわ」


 ボロニョンというのは、スイカ食堂のまかないで食べさせてもらったそぼろみたいなものである。あの時は食堂の人が調理してくれたけど、もらってきたのは調理前のボロニョン。食堂レベルの味を家で再現できるかというのが、今回のシロガネさんの課題である。


 「近いし、食堂で聞いてくればいいんじゃないか?」

 「えっ!?またニョンを食べに行くんですか?」


 パッとエメリアさんが表情を明るくするのだが、リディアさんは夜は別のものを食べたい様子で顔をそむけた。かといって、訪ねたからには何か注文しないと冷やかしみたいになってしまう。仕方なく、ボロニョンの調理についてはシロガネさんの腕を信じることにしたようである。


 「ん~……でも、お野菜なら家にありますよ?」

 「クキもございますの?」

 「その野菜が何かは知らないですけど、なんかたくさんありましたよ」


 シロガネさんすら自分の探しているクキらしきものの正体が解っていないので、エメリアさんも具体的には言い表せない。ただ、今朝の時点ではムーンケーキくらいしか家には食べるものがなかったはずなのに、どこに野菜があるのかは疑問である。とりあえず、お目当ての野菜が家にあれば幸いと、みんなは商店街を離れて家路を辿り始めた。


 「リディア。家にマントも置いていきます?」

 「うん。なんか、この格好にも慣れてきた」


 存在感希薄のスキルが効いているようで、今では周囲からの注目もほとんど向けられてはいない。リディアさんも自分の格好に自信が出てきたようで、脱いだマントも家に置いていくと言っている。


 なお、ネックレスである俺は、リディアさんの胸に直に乗っている為、その弾力を強く感じている。ぽよぽよとした揺れを継続して受けているので酔いそうではあるが……胸の谷間にはうまくはまっているので、それなりに居心地はいい。


 「お嬢様。本日のお仕事が終了とあらば、お着替えをされてもよろしいのではなくて?」

 「そ……そうだな」


 自分の作った服を着てもらいたいようで、シロガネさんがリディアさんに着替えを勧めている。リディアさんは外では水着みたいな聖女の服なのに、家に帰るとゴスロリに着替える訳で……どちらにしても変わった服装であることは変わらない。


 「……あそこ、誰かいますよ」

 「……?」


 玄関ドアの前にある低い階段に何か、黒いものがうずくまっている。それを発見して、エメリアさんが指さしている。あれは、なんだろう……。


 「……君、そのような場所で寝ると風邪を引くぞ」

 「ふ……ふえ?」


 リディアさんの声を受けて、黒い物体が顔を上げた。この人、朝にリディアさんのマントを欲しがっていた人だよな。服を着替えてきたのか、朝とは違う黒くてピカピカしたドレスをみにまとっている。いつから待っていたのか、階段に座って待っている内に寝てしまったらしい。


 「……お……おお。おっきい」


 寝ぼけまなこだった女の子なのだが、前かがみになったリディアさんの胸の迫力を間近にすると、驚いたようにして目を見張っていた。女の子は急いで階段から降り、スカートのホコリを払って仕切り直した。


 「……えほん。幾星霜の彼方、そなたを待ち焦がれし我は、一級呪術師のルビィ。さあ、今ぞ。竜踊る夜の帳を我が手中に!」


 「ええと……マントを渡せばいいんだな」


 「……!」


 女の子が凛々しい笑顔を見せながら、リディアさんの手をがっしりと掴んでいる。なんか難しい言葉遣いだが、要はリディアさんの持っているマントをゆずって欲しいのだと思われる。あるいは、それが一発で理解してもらえて、本人としては嬉しかったのかもしれない。


 「誓約に基づき、ここに1000ジュエルを納めよう」


 「え……現金で持ってきたのか?」


 「あ……朝は所持金がなかったから、1000ジュエルの装備と交換って言ったけど、ちゃんと家に帰ったから1000ジュエル持って来たんですけど……」


 カッコよく決めていたルビィさんだったが、大金を腰にぶら下げて来た事実をリディアさんに突っ込まれると、弱々しく言い訳を始めた。わざと難しい言葉を使っているけど、こっちが素の性格なのかな……。


 「大金のやりとりをするならば、民営の金庫を使う方が安心だと思うが……」

 「でも、早く欲しかったんだもん……」

 「リディア。この子、かわいいですね」


 お城を出る時にもメイドさんが報酬の振り込みについて話をしていたし、この世界にも銀行みたいなものがあると見られる。俺は元は高校生だから、1万円以上の現金を持ち歩くことはなかったけど、大金が財布に入っていたら、きっと歩き方が変わってしまうくらい緊張しまうことだろう。


 大金を現金で持ってきた事実は置いておくとして、仕事で得たお給料よりも高い値段でマントを買い取ってもらうのも気が引けたらしく、リディアさんはマントの詳細を正直に告げた。

 

 「これ、ただ同然でゆずってもらったものなんだ。だから、1000ジュエルの価値はないと思うぞ」


 「た……ただ同然?ウソでしょ。だってこれ……ホワイトメッキよ?」


 「……?」


 ルビィさんの言うホワイトメッキがなんなのか解らず、リディアさんはエメリアさんとシロガネさんに視線で訴えている。ただ、どちらもその単語については存じないようで、首を横に振って見せていた。物の価値が伝わっていないと見て、ルビィさんは涙目ながらに訴えている。


 「ホワイトメッキっていうのはね……あの、呪いを施された物品で」

 「リディア!それ、呪われてます!早く捨てた方がいいですよ!」

 「待て。エメリア、早まるな……」


 呪われていると知り、エメリアさんがバッグからマントを引っ張り出そうとしている。でも、俺がスキルでマントを鑑定した時も、特に悪い効果は確認できなかったんだよな。ルビィさんはエメリアさんの手を押さえ、急いで解説を続けた。


 「待って待って!呪われてるけど、悪い呪いじゃなくて……使っていた人の意思が宿ってるアイテムなだけで」


 「それはそれで気持ち悪いですね……」


 「気持ち悪くないー!気持ち悪くないの!だから、捨てないで!」


 なにやらエキサイトしてきた……家の前で声を荒げていてはご近所にも聞こえてしまうと見て、リディアさんはルビィさんを家へと招き入れている。

 

 「たいしたもてなしはできないが、入ろうか?」

 「あ……はいぃぃ」


 家に入れてもらえると解り、ルビィさんは急に借りてきたネコのようになってしまう。で、玄関のトビラを開いたら、中には半透明な体をした管理人さんの姿があったわけで……。


 「あの……あの……ちょっと、閉めてくれませんか?」

 「え……ああ」


 開いた矢先に閉めろと言われて、とりあえずリディアさんが管理人さんに会釈してドアを閉める。家の前にある道路まで後ずさり、ルビィさんが家を指さしながら言う。


 「この家、ホワイトメッキです!」

 「そうなのか?」

 「……」


 やや怯えた様子で、ルビィさんがうなづいて見せている。マントだけでなく、リディアさん達の住んでいる家も呪われているらしい。いや、それはうすうす感じていたことなのだけど、呪術に詳しい人が言うのだから、もう間違いないのだろう。じゃあ、やっぱり管理人さんの正体って……。


 「この家、呪われているのか……まったく気づかなかったな」

 「……住んでいて変なこととかないんですか?」

 「いや……特にないが」

 「さっき、中にいた人……」

 「ああ。管理人さんだぞ」


 あまりにもリディアさんがさっぱりした受け答えをするもので、ルビィさんの方も超常現象を目の当たりとした自信がなくなってきたらしい。もう一回、玄関のドアを開いて中を見せてもらっている。


 「……いなくなってる」

 「照れ屋なんだ。すぐにいなくなってしまう」


 もう管理人さんの姿はない。どこかから現れるのではないかと警戒を見せつつ、そのままルビィさんはダイニングへと案内されていく。ルビィさんの態度は怖がっているという感じではないのだけど、天井や壁、家具に至るまで、あちらこちらへと厳しい視線を向けている。


 「お飲み物をご用意いたしますわ」

 「ああああ……いえ、私……我はお構いはよいのでございますけど」


 シロガネさんに席へ着くよう勧められるが、ルビィさんはお金の入っているであろう袋を差し出しながら、部屋を見渡すようにして壁際に立っている。そんな彼女からリディアさんは金貨袋を受け取り、中に入っている金色の石を取り出した。


 「本当に1000ジュエルだ……いや、しかし……先程も話したが、このマントは安物なんだ。これは受け取れない」


 「しょ……しょんなことありませんよ!」


 あの金色の石1つで、1000ジュエルの価値があるのか。日本に100万円札があったなら、きっとあんな感じなのではないかと思われる。お金の受け渡しはさておき、ルビィさんはマントを受け取って、まじまじと刺繍や布地の観察を始めた。


 「間違いないわ……これをつけていたのは、我の祖父なのです」

 「おじいちゃんのなんですか?」

 「……うん」


 マントをぎゅっと抱きしめて、ルビィさんがエメリアさんの声へと頭を下げてみせる。ということは、マントに込められた呪いというのも、彼女の祖父が残したものなのだろうか。


 「祖父は昔、魔人に襲われている村を救うべく、戦いの場へと赴いたのです。だけど、それ以来……家に帰ってこなくて」


 「そうなのか……」

 

 1000ジュエルも払うと言い出したのは、自分の祖父が使っていたものを安物にしたくないという気持ちもあったのかもしれない。あわせて、ルビィさんのおじいさんと、リディアさんの行動にも共通点がある訳で、マントがリディアさんの元にやってきたのも、おじいさんの残留思念による引き合わせとも考えられる。


 「だから……そのお金はお礼です。もらってください」

 「ああ……解った」


 彼女にとってマントが特別な品なのだと解り、リディアさんも金銭の受け取りを了解した。マントを持って戸口へと立ち、ルビィさんはお辞儀をして立ち去ろうとする。


 「あ……」


 何か思い出したような声を出して、ルビィさんが戻ってきた。忘れ物だろうか。


 「よろしければ……この家についても、調べてもいいですか?」

 「ああ。いいぞ」

 「なんでしたら、住んでもいいですよ」

 「ホントですか!」


 エメリアさんに住み込みでもいいと言ってもらえて、ルビィさんも乗り気を見せている。ただ、リディアさんは不安そうにエメリアさんの前へと立ちつつ、家に住むにあたっての注意事項をルビィさんへと述べた。


 「……住み込んでもらう分には問題ないのだが」

 「……なんです?」

 「この家には、悪魔がいるんだ。襲われるかもしれないが、それでもよければ……」

 「あ……悪魔が!」

 「そんな、誰でもかんでも襲いませんよ……」

 

 リディアさんとしては幽霊よりも呪いよりも、同居している悪魔の人の方が危険性は高いと見ている模様である。本人は襲わないと否定しているが、すでに被害者は数名いるわけで……リディアさんたちの会話を耳にしたシロガネさんが、死んだような目をしているのが俺には見えた……。


第87話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ