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第84話『職務質問』

 「これが聖女様……本物だ。感動」

 「マントの中をのぞかないでくれ……はずかしい」


 メフィストさんも聖女については調べていたらしい。資料に書かれている聖女の服と、リディアさんの着ている服が合致したと見て、書物を片手に興味津々でマントの中へと入っている。エメリアさんの被っているフードの中には、気づけばまだネコのラピスラズリーさんが入り込んでいるし……みんな仲良し。


 「聖女様がいれば、神様のいる神殿が開く。古文書にも、そう書いてある」

 「ん~。神殿って、どこにあるんですか?」

 「あちこちにある」


 神殿は思ったより多々あるらしく、そんなにあちこちあるものだろうかエメリアさんも困った顔を見せていた。メフィストさんの目的や依頼内容が明らかとなったところで、みんなはギルド支部の出入り口を目指して歩き出した。メフィストさんは明日の約束を取り付けようと、改めてリディアさんたちへと向きなおった。


 「えと……聖女様。明日、時間ある?」

 「今日の仕事で、それなりに収入はあったからな。明日はいいぞ」

 「近くの神殿、行ってみる。何か見つけたら、あなたにあげる」


 言葉足らずながら、メフィストさんは3人を明日の外出に誘っている。それはつい先程まで、お金を出して友達になろうと持ち掛けていた人とは思えない、とても嬉しそうな声であった。


 「明日、ワタシが聖女様を迎えに行く。どこに住んでる?」

 「ああ……ここだ。少し解りにくいが」


 リディアさんは住所の書かれた名刺をバッグから取り出し、メフィストさんへと渡している。名刺を上下左右、くるくると回しながらメフィストさんは確認している。そうして見ている内にも大方の場所には見当がついたようで、彼女は大きく手を振りながらも街へと駆けだした。


 「ワタシ、準備しに行く。明日も、その服で、武器も持たないでお願い!」

 「あ……ああ」


 やけにリディアさんのマントの中を気にしていたけど……そうか。武器を持っていないかどうかを確かめていたようだな。店主のラピスラズリーさんも、リディアさんに武器を持つことは勧めていなかったし、聖女としてふるまうからには武器は余計なのだろう。とはいえ、リディアさんも武器を持たずに国から出るなど初めてのことらしく、その点では一抹の不安を表情に出していた。


 「聖女というものが全く解らないのだが、私はこれでいいのかな……戦いもせず、こんな服装で」

 「いいんじゃないですか?そもそも、リディアが戦ってるところ、あんまり見た事ないですし」


 一日中、一緒に歩いているエメリアさんですら、リディアさんの戦闘シーンを見た試しは少ないという。なお、俺も見た事がない。そこで、リディアさんについては最も詳しいであろう、シロガネさんへと話題を振ってみる。


 「はい。お嬢様は、部屋に入り込んだ虫を窓から逃がす方です……」

 「聖女ですね」

 「普通だろ……」


 俺は虫には触れないから、泣く泣く謝りながらも殺す他ない訳で……そもそもリディアさんが、殺生を好まない人間であることは解った。俺も神殿へ向かう道中に敵や危険が待ってはいないかと、その点では心配である。ただ、どんな神殿につれていってもらえるのか、その事自体については、割と楽しみだったりする。


 メフィストさんが街の彼方へと消えていく。そちらを見送った後、リディアさんは明日の外出の詳細を聞き忘れたとばかり口を開いた。


 「近くの神殿って……どの辺りだろう。遠征となれば、それなりに準備が必要だが……」

 「近くですから、商店街に行くくらいの気持ちで出かけるんじゃないですか?」

 「だといいな……」


 国の周辺を歩いて帰ってくるだけであれば、入国審査も厳しくはならなさそうではある。とはいえ、国に住んでいるリディアさんたちですら、近くに神殿があることを知らないとなれば、かなりの秘境に建っている可能性はありうる。土の中とか、森の中とか……水の中にあったりもするかもしれないな。


 「……リディア。明日はマント、どうするんですか?」

 「……ん?どうしてだ?」

 「ほら……女の子に、ゆずるって約束したじゃないですか」


 突然、エメリアさんがマントの心配を始め、リディアさんも朝に女の子と交わした約束を思い出した。そうだった……黒い服を着たカッコいい感じの女の子が、リディアさんのマントを欲しがってたんだよな。もしかすると、今日にでも家へとやってくるかも解らない。


 「そもそもですね……リディア。なんであげるなんて言っちゃうんですか。私があげたのに。もー」


 「すまない……あまりに欲しそうだったから」


 元はといえば、このマントはエメリアさんがプレゼントしたものだからして、それを勝手にあげると言ってしまったことについて、ちょっと不満がある様子。だけど、かなり粘られていたのはエメリアさんも見ていた訳で、そんなに強く責め立てはしない。


 しかし……そうだな。明日も聖女の服で来て欲しいとメフィストさんには言われてしまったので、マントを失ってしまえば、露出の多い体を隠す事ができない。マントの値段の相場について俺は知らないが、新しい物を買いに行かないとダメなのかな。


 「……やだー。それ、海では常識だよねー」


 マントの件について相談している一行の前を、肌にウロコのある女の子が歩いていった。人間の足はあるけど、魚の尻尾みたいなものが生えているな。そして、体にまとっている服は……胸元と股だけを隠した水着風のものである。正直、リディアさんの聖女の服と大差ない。それを見て、エメリアさんは発想を逆転させながらに提案する。


 「……じゃあ、リディアは今から、聖女の服で外を歩く練習をした方がいいんじゃないですか?」

 「……逮捕されてしまうんじゃないか?」

 「でも、職業適性検査で推奨された正装ですし……」


 確かに……この服は検査場でもらった資料に基づいて選んだものだし、そういう意味では国からお墨付きをもらったとも考えられる。露出度が高いだけで肝心なところは隠れている訳で、実は問題はないんじゃないだろうか。ウロコのある女の子だって、別に騎士団に呼び止められたりはしていない。


 「……それはそうだな。では……やってみよう」

 「わ……ワタクシ、お嬢様の前を歩かせていただきますわ」

 「私、後ろを歩きますわ」


 一応、家を出た時と同様、シロガネさんとエメリアさんで前後を守ることにしたらしい。リディアさんは戸惑いがちにもマントを肩から外し、キレイに折りたたんでバッグへと入れる。風船とも見間違う大きな胸が、深い谷間まで日の元にさらされる。股の辺りを隠す腰布は薄く、下腹部のシルエットが浮き出た状態となっている。


 「……」


 街行く人々が、老若男女、種族問わずに、こちらへと視線を向けている。人魚さんたちと比べても体形の緩急が段違いだし、なによりリディアさんは街でも滅多に見ない美人である。注目を集めるのは当然かもしれないな……。


 「や……やはり、ダメだ。耐えられない」

 「まだ騎士団の人も来てないですし、大丈夫ですよ……」

 「ちょっと、そこの……リディアさん。何してるんだ!」


 マントを脱いで一分弱、エメリアさんのフォローも及ばぬより先に、近くを通りかかった騎士団の女の人が笛を鳴らしながら近づいてきた。というか、この人は……クリスさんだな。案の定といった結果となり、リディアさんは肌がほんのりピンク色に染まるくらい動揺している。そんな彼女に代わって、エメリアさんが弁明をはかっている。


 「あのあの。これは……聖女の制服でして、決してやましい気持ちじゃないんですよ」

 「え……これが?」

 「ああ、うん……そうなんだ」


 ふしだらな気持ちから露出しているのではなく、リディアさん達が至って真面目なのだと察し、クリスさんは逆に心を乱したといった様子で後ずさっている。そんな言い訳を聞きつつ、聖女の服を上から下までながめた後、クリスさんは笛を腰のポシェットへとしまい込んだ。


 「だったら、まあ……しょうがねぇよな……」

 「え……いいのか?」

 「だって、それが職業適性で出たんだろ?その話は騎士団内でも噂になってたしよ」


 国営の機関が聖女になるようオススメしてしまった以上、騎士団としても咎めるに咎められないといった様子である。騎士団内で知れ渡っているということは……騎士団長にも話がいき届いているんだよな。この姿を見て、お兄さんがなんというのか。それは想像に容易い。


 「俺たちは止めねぇから……青少年の目の毒にならない程度に頑張ってくれ」

 「あ……ありがとうございます」

 「……あっ。もしかして、あんたも聖女だから、外を下着姿で歩いてたのか?」

 「ワタクシのは、ただの体たらくですわ……」

 

 シロガネさんについては誤認逮捕でないと解り、クリスさんはリディアさんから目を背けてパトロールに戻っていった。警察ポジションの人たちに露出していいと言われたら、残る敵は己の羞恥心だけである。なんとも煮え切らない態度で去っていくクリスさんを見送りながら、エメリアさんは脱力ながらに口を開いた。


 「……国公認で、そんな恥ずかしい格好してる人間って、きっとリディアくらいですよね」

 「やはり、はずかしい格好なのか……お前が探してきたのに」

 「恥ずかしい格好ですよ……とても恥ずかしい格好ですよ。リディア。そして、かわいいですよ」


 下着もクツもつけていないエメリアさんに恥ずかしい格好と言われ、ややリディアさんは不満げである。周囲の目が気になるのか、シロガネさんは早く移動したいといった素振りで、そんな2人をたしなめている。


 「人目が気になります……ここを離れませんこと?」

 「ああ……うん」


 そういうシロガネさんも、メイド服で街を歩いている人は他にいない訳で……目立つかどうかといったら、かなり目立つ訳で。


 「……」


 人目につきにくくなるスキルとかあるのかな……一応、探してみよう。 

 

第85話へ続く

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