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第81話『食後』

 「折角だから、ニョンも食べていこうか」

 「いいですね~。いいですよ~」


 まかない飯としてボロニョンを頂いた手前、ここまできたらニョンの方も食べたくなったようで、リディアさんがメニュー片手に注文を始めた。エメリアさんはボロニョンをおかわりまでしたのに、まだニョンがお腹に入るという。別の席で食事しているシロガネさんはお腹いっぱいになったらしく、追加のニョンは辞退した。


 「私は甘辛ニョンをもらおう」

 「おんなじでいいです~」

 「うけたまわったー!」


 お代は先払い。1杯8ジュエルだった。それなりに量もあるので、お昼に食べるには割とリーズナブルと思われる。もう店内に残っているお客さんは少なく、世間的にはランチタイムは終わっていると見られる。昼食時をずらして来たと思われる紳士が、すいた店内で優雅にニョンを食べている。


 「シロガネさん。結局、仕事を丸投げしてしまって申し訳ない」

 「いえ……ワタクシの方には、特に難もございませんでしたわ。魔獣の件は、どのように?」

 「あれは……」


 周囲の目を気にしつつ、特に危険人物がいないことを確かめてから、リディアさんは依頼の顛末を明かした。


 「あのヘビは、この国の姫様のペットでな……どうしても飲み込んだ石を離してくれず、やむを得ず帝国城まで行ってくることになった」


 「それは大層な……しかし、アレクシアに姫様がいらっしゃるとは存じておりませんわ」


 「私も初めて知った……」


 リディアさん達は外部からの移住組のようだからか、この国のお姫様については知らない様子。まあ、あれだけの人見知りな女の子だから、人目に触れる機会も少ないのかもしれない。姫様の見た目はお人形のように可愛いので、一度でも見たら忘れないはずである。次にエメリアさんが、帰り道で男たちに襲われた出来事について語り出した。


 「あとは~……その帰り道で、暴漢に襲われそうになったりもしましたね~」

 「そうなのでございますか。それは大変でしたわね」

 「ああ。すぐにギルドの人たちが来てくれたから、事なきを得たが」

 「お……お嬢様が暴漢に!?どこかお怪我は!?どのような人物で!?すぐに抹殺しないと……」

 「私は大丈夫だから……」


 エメリアさんの心配は1ミリもしていないものの、リディアさんが襲われたとなると話は別である。完全に暗殺者の目になっているシロガネさんを落ち着かせているところへ、頼んだニョンが運ばれてきた。甘辛の味付けをオーダーした為、スープの色味も少しマイルドだ。おいしそう。


 「……」


 食事を再開した為、食べる方に夢中でリディアさんは無口になってしまう。そんなに美味しいのか。俺もにおいだけは知っておきたいと思い、嗅覚スキルをオンにしてみた。


 スープには果実が使われているようで、どこか甘い香りがする。あとは、香辛料を思わせるムッとした刺激臭。鼻につくけど、不快ではないにおいだ。食欲が刺激されそうな、うまみを含んだ香ばしさである。


 「……」


 ニョンの見た目はラーメンに似ている。俺、ラーメンは好きなんだけど、あれ……食べている内にのびるんだよな。俺は食べるのが速くない上に、ちょっと猫舌なんだ。半分くらい食べた頃には、麺がスープを含んで、ぶよぶよになってしまう。そのせいで、ややラーメン屋は敷居が高く感じてしまう。


 しかし、そんなある日の事、俺はつけ麺というものに出会った。どのような料理かというと、ラーメンの麺とスープを別々の器に入れて出してくれる料理なのだ。あれなら、食べる分だけスープに入れるから、食べている内にのびてしまうこともない。


 しいていえば、つけ麺は味の種類がラーメンより少ないのと、食べている内にスープが麺に熱を奪われ、やや冷めやすいというのがネックであるものの、その点を含めても俺はつけ麺が好きである。もう食べることはないのだと思うと、少しさみしい気もしてしまうな。という……異世界とは全く関係ない話。


 「しかしですわ。お嬢様の美貌に魅かれて襲うとは、けしからぬ輩もいたものですわ」

 「ナンパじゃなくて、リディアのお財布を奪おうとしてましたけど」

 「……お嬢様の気品から金銭の気配を察知するとは、暴漢ながらに見る目はありますわね」


 エメリアさんの言う通り、真っ先に盗ろうとしたのは財布であった。しかし、どう転んでもシロガネさんはリディアさんを褒めたい様子だ。だけど……いざ話題にあげてみると、どうして男たちはリディアさんを標的にしたのだろう。はおっているマントの作りがいいから、お金を持ってそうに見えたのかな。裏道に入るのを見て、襲うに都合がよさそうだったからか。いや……待てよ。


 「……」


 あの男の人たちが裏通りをなわばりにしていたとすると、普段から裏通りを歩き回っているエメリアさんが、今まで会ったことがないというのも不思議だ。じゃあ、ずっとあとをつけてきたんじゃないのか?城から出たところを見られたのであれば、何か金目のものを持っていると思われてもおかしくはない。


 「……ごちそうさまでした」

 「お嬢様、こちらを」

 

 パッとハンカチを取り出し、シロガネさんがリディアさんの口元をふいてあげる。ふかれている方は非常に恥ずかしそうなのだが、特に抵抗するでもなくふかれていた。これが、リディアさんの実家では日常風景だったのかもしれない。


 「サービスのおちゃちゃだー!」

 「あ……ありがとうございます」


 お店の人たちは厚意で、食後のお茶まで出してくれた。やや赤みがかっているけど、色はミルクティーに似ている。3人は少しだけ口に含んでみた後、口をそろえて感想を述べた。


 「「「甘い」」」


 コクのありそうな見た目通り、やっぱり甘いんだな。辛いものに甘い飲み物は相性がいいから、それも考慮されて作られた飲み物なのかもしれない。ちなみに……ペペロンチーノという辛いパスタがあるのだけど、あれを食べながらあわせて飲むミルクティーは格別だと俺は思っている。それを言っても、家族からの同意は得られなかったが……一度は試してみてほしい。


 お茶の甘さを噛みしめながらも、シロガネさんは先程の暴漢についての話題へと戻した。


 「……怪しげな者であれば、ワタクシも数名、お見かけしました」


 「どこで会ったんだ?」


 「我々がギルド支部にて依頼を引き受け、魔獣の捜索を開始したのちより、延々とあとをつけている者がございましたわ」


 それを聞いて、リディアさんはお茶を飲む手を止めた。そんな前から、変な人たちがいたのか。俺はリディアさんの前にぶら下がっているから、基本的には前方しか確認できないのだ。どんな人だったのかと、リディアさんがシロガネさんに尋ねる。


 「ちなみに、どのような風貌の者だった?」

 「顔が見えないよう深くフードをかぶり、常にお嬢様のそばを歩いておりました」

 「……」


 フードを被って、リディアさんのそばを歩いている人。その人物に目星がつき、リディアさんの視線がエメリアさんに向く。

 

 「それ……エメリアのことじゃないのか?」

 「心外ですね。心外ですよ。リディア」

 「お嬢様……その者が怪しいのは確定要素でございますが、別の人物でございます」


 さすがのシロガネさんも、この状況で冗談は飛ばさないと見られる。じゃあ、本当にあとをつけていた人物がいたのか。何者なのだろう……そして、どうしてシロガネさん、それを知っていて言わなかったのか……。


 「ですが、お嬢様をつける輩はあとを立ちません故、あまり気にもとめず……」


 「え……私は、そんなにつけられているのか?」


 「胸の……体形が変化してからは、以前と比較して2倍程度は男女様々な人種に尾行されておりますわ。発見次第、このシロガネが制裁をくわえておりますので、ご安心くださいまし」


 そもそも、よく尾行はされているらしい。美人でモテモテなのも、それはそれで危険なんだなと初めて理解した。しかし、本当にリディアさんの容姿が目的だったのかについては、リディアさん自身あまり納得していない。


 「だが、怪しい男たちは、私に聞きたい事があるとも言っていた。その点が不可解だ」


 「恐らくは、お嬢様に恋人がいらっしゃるか、そちらを疑問に悶々としていたに違いありませんわ!」


 シロガネさんの話を聞いていたら、段々と本当にそうなんじゃないかと思え始めた。兄である騎士団長も新聞記事になるくらい人気だし、妹のリディアさんだって街で人気があってもおかしくはない。あの悪そうな男の人の顔も、今になって思えば下心ありそうな感じだった……気がしてくる。


 「では、私は今後、あとをつけられている事に気づいた場合、恋人はいないと教えてあげればよいのだな?」


 「……」


 真に受けたリディアさんが、それ相応な対策を導き出した。シロガネさんの言っていたことが本当ならば、それで尾行をやめて……やめてくれるのか?エメリアさんとシロガネさんは同時に立ち上がって、疑問についての正解を述べた。


 「リディア。そこは、恋人はいる、が正解なんですよ。いることにしちゃいましょうよ」

 「そそそ……そちらにつきまして関しては、いると申されていただければ幸いで」

 「そうなのか……」


 そうか。恋人がいないと伝えてしまうと、ストーカーがエスカレートするかもしれない。いると言えば、諦めてくれる可能性は出てくるな。それは確かに正解だ。が……なぜにエメリアさんとシロガネさんは2人とも、ちょっと照れていて、やや嬉しそうな顔なのか。そこはかとなく疑問だ……。

 

第82話へ続く

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