第74話『美味』
「少しずつではあります。近づいている予感はございますわ……」
そんな強気なセリフとは裏腹に、シロガネさんの声からは自信が感じられない。そろそろダウジングを始めて1時間になるが、街の入り組みように邪魔されて、なかなかヘビさんのいる場所へは到着しない。それどころか、俺がマップを見ている限りでは、あまり行き先が定まっていないようにも感じられる。
「……」
やはりダウジングで探すには、街は広すぎたのだろうか。このままではお皿洗いの仕事までにヘビを探して、依頼主のところへ持って行くのも難しそうだ。俺はスキル習得画面を開き、マップに関するスキルの一覧へ目を向けた。何かできることはないかと思案を始める。
ええと……マップのスキルレベルを上げると、強い魔力を放っているものの場所が光るようになったり、逆に弱い反応のものを非表示にできたり、そういった便利な機能は追加されるようだ。でも、街の中からヘビを探すのに適したものはないし、魔力を感知して探そうにも、俺にはヘビさんの魔力の特徴が解らない。
「……」
今度はマップ関連以外のスキルに目を向けてみた。その時になってふと、俺はラピスラズリーさんの話を思い出した。たしか……探すのではなく、あちらから来てもらう。それが可能なはずだと、彼女はリディアさんに告げていた。じゃあ、探索するのではなくて、呼び寄せることは可能なのではないだろうか。今一度、別の観点からスキルの一覧をながめてみる。
『安心超音波 レベル1 (スキルポイント1)』
超音波のスキルがある。大きな音を出して呼ぶと迷惑になりそうだけど、超音波なら街の人たちには聞こえないから、安全に使えるかな。ただ、音を聞いて安心したからといって近づいてきてくれる確証はないし、遠い場所までは聞こえない。いや……待てよ。
「……」
そもそも、ヘビって耳ないじゃん。だけど転生する前の世界で俺は、ヘビつかいの人が笛でヘビをくねくねと操っている映像は見たおぼえがある。ヘビには耳がないのに、どうやって動かしているんだろう。気になったので、インターネットで調べてみた。『ヘビ』『耳』などと単語を入力してすぐ、検索結果の上の方に知りたかった答えが表示された。
『ヘビに耳はありませんが、体で音を感知することはできます』
……そうか。耳自体はなくても、音による空気や物の震えは体に伝わるから、音を感じること自体はできるんだな。ちなみに、ヘビつかいの人は笛の音で誘導してる訳じゃなくて、笛の動きでヘビを威嚇させているだけだとも書いてあった。とはいえ、本当に音楽が好きなヘビもいないとも限らないし、ものは試しだ。俺は超音波のスキルを習得してみた。
『安心超音波 レベル1』
スキルの効果をオンにしてみる。ちょっと俺の体が震えているような気もするけど、何か音が聞こえてくるわけでもない。リディアさんたちにもリアクションはないな。しいていえば、エメリアさんが機嫌もよさそうに鼻歌を歌い始めた。近くでパタパタと羽の動く音が聞こえる。
「……?」
鳥たちがへいの上に整列して、じっとリディアさんの方を見つめている。いや、視線の先にいるのは、俺なのかも解らない。
「……今日は鳥が多いな」
「かわいいですね~」
エサが落ちているわけでもないのに、急に鳥たちが集まってきた。リディアさんの家を出てから鳥の姿を見たおぼえがあるけど、ここまで集合しているのは珍しい。これも超音波の効果だろうか。鳥にも耳はないように思えるが……やっぱり、何かしらの器官を通じて感知はしているのかな。
「……おおい。リディア。呼んだ?」
「あ……いえ」
通りすがりに、羽毛で体が覆われた人が話しかけてきた。その人はリディアさんより頭2つ分くらい背が高くて、あたまには赤いとさかがある。口元には立派なクチバシもついており、どこかニワトリを思わせる風貌の人物であった。リディアさんの名前を知っているってことは、この人も同じギルドの仲間なのかな。
「なんだ。気のせいか。何かあったら呼べよ?」
「ありがとうございます」
ニワトリさんは気分がよさそうな浮いた足取りで、俺たちとすれちがって入国門の方へと歩いていった。呼ばれたと思ったってことは今現在、俺の体からは鳥の耳に効果抜群な音が出ていると見て間違いないな。さらにスキルのレベルを上げると、音の範囲と効果が増強されるらしい。やってみよう。
『安心超音波 レベル5 (スキルポイント5)』
相変わらず、視覚的、聴覚的な変化はない。俺を首から下げているリディアさんも、別段に何か気に留めた様子を見せない。ただ、どことなく街行く人々の表情がまどろんでいて、あくびをしている人もちらほら。鳥だけでなく、わんこやネコちゃんも通りすがりにリディアさんの方へと振り向いている。
「いいですね~。ラピスラズリーさん。私に乗ってれば、勝手に移動してくれるので」
「連れて来ちゃってよかったのか?」
エメリアさんの頭に乗っているネコのラピスラズリーさんも、しっぽを揺らしながら眠そうに体を丸めている。エメリアさんは服についたフードを頭にかぶせて、ネコさんに布団をかけてあげている。昨日も街を歩いているラピスラズリーさんは見かけたし、それなりに自由に店から出回っているのだろうとは考えられる。
ダウジングが正確に作動しているとすれば、近づいた際にはヘビさんも超音波を感知して姿を現してくれるかもしれない。ただ、シロガネさんは眠そうな表情を見せていて、自分の前で揺れているクリスタルへと虚ろな目を向けていた。超音波は体に悪くはないのだろうけど、この陽気の中でリラックスした状態でい続けるのも、別の意味では辛いのかも解らない。
「……エメリア。そういえばヘビというのは、何を食べるのだろうか」
「体に入れば、なんでも食べちゃうみたいですよ~。ツボを丸のみしたヘビさん、見た事あります」
歯で噛み砕くということもなく、ヘビは獲物を丸のみにしてしまうらしい。リディアさんはエサを使っておびき出す案を思いついたようだが、相手の好物が漠然としていては食べ物の用意もできない。誰もが大好きな、万能なエサでもあればいいのだけど……。
「……」
そんな食べ物の話を聞きながら、ラーニングスキルの一覧を見ていた俺の目に、自分でも忘れていた程の使い道不明なスキルが映し出された。
『ダイマグロ(死) 造形(レベル3) 美味スキル(レベル3)』
ダイマグロというのは、リンちゃんの村で焼かれていた大きな魚の魔物だ。冷凍されているものを市場でも見たせいか、知らぬ間にラーニングスキルのレベルも上がっている。スキルは体を変形させずとも発動できるし、美味スキルが適応されたからといって俺の体が石であることに変わりはないから、食べようと思う人も出てこないだろう。これも、ヘビさん誘導に使えそうだな。よし。オンにしてみよう。
「……お腹、すきましたね~」
「エメリアは常に、お腹が空いてるだろ……だが、いいにおいはするな」
エメリアさんは誰よりも五感が冴えているようで、今回もいち早く俺のスキルに反応をみせた。スキルのレベルが上がった為、美味しそうな香りも出ているらしい。ダウジングと音とにおい、これだけ策をつくせば、ヘビさんに遭遇する可能性の期待値も高まるだろう。
「……リディア~。なんか、肩についてますよ?」
「なんだ?」
後ろを歩いているエメリアさんが、リディアさんの肩の辺りへと注意を向けている。俺も視線をグルッと回して、そちらをうかがってみた。マントの上、リディアさんの肩に、黒くて長い模様みたいなものがついている。こんな模様あったかな?そう思いつつ数秒ほど見つめ、リディアさんが模様の正体に気がついた。
「……きゃ!ヘビだ!」
「ちょっと待ってください。取りますね~」
黒い模様が、ゆらゆらと動き始めた。これ……ヘビだ。マントから手を離せないリディアさんに代わって、エメリアさんが捕まえようと指を伸ばす。それから逃れるようにして、ヘビはリディアさんの胸の上に乗ってくる。
「……」
紫色の舌がチロチロと動いている。そこまで大きなヘビじゃないのだけど、近くで見ると、それなりに迫力がある。写真にのっていたヘビに色合いも似ているし、恐らくは探していたヘビで間違いないだろう。なんとか、無事に見つかったよかった。
「……」
……ヘビさんが、大きく口をあけている。どうしたのだろう。そう考え始めた矢先に、俺は美味スキルを使用していることを思い出した。しまった!早くスキルをオフにしないと……。
「しゃー!」
「……」
ヘビさんが俺へと飛びついてくる。スキルをオフにするも手遅れであり、あえなく俺は……ヘビさんに丸のみにされてしまったのだ。
第75話へ続く




