第73話『探し物』
「ヘビの魔力が解らない以上、探すこともかないませんわ……」
ヘビ探しの依頼を完遂すべく、手掛かりとなるヘビの魔力を求めて魔物ショップへやってきたのだが……こちらではヘビは取り扱っていないと知り作戦が停滞した。どうしたものかと悩んでいるシロガネさんへ、魔物ショップの店員さんが助言をくれた。
「ヘビ皮でよろしければ、加工品が小物の素材として使われているかと。雑貨店に足を運んでみてはいかがでしょうか」
「皮のみでございますか……探してみますわ。ご丁寧に、ありがとうございました」
シロガネさんは魔物たちが怖いのか、店員さんに頭を下げて感謝を述べると、一足先に魔物ショップから逃げ出した。日本でもヘビの皮は財布やバッグに使われていたし、生きているヘビよりは魔力は少ないかもしれないが、手掛かりとして使える可能性はある。
「エメリア……ちょっと、魔物をなんとかしてくれ」
「マントの中、のぞいちゃダメですよ~」
じゃれついてくる魔物たちをなだめて、リディアさんとエメリアさんも魔物ショップをあとにする。ヘビ皮の製品が置かれていそうな場所を思い浮かべたところ、エメリアさんには1つ見当がついたようで、シロガネさんへと行き先を提案している。
「この近くに雑貨店があるんですけど、行ってみます?」
「ええ!ぜひ、ご案内くださいませ!」
この近くで様々な商品を取り扱っている店を探すとなると……俺も、ラピスラズリーさんの店が一番に思い当った。アネットさんの家の前を通り、アネットさんのご家族にもアイサツしてから裏通りへと入る。人の動きを感知して看板に火がつき、メラメラとお店の名前を浮かび上がらせた。
「よく、このような、裏通りのお店をご存知でしたわね……」
「昨日、リディアの聖女の服と、マントを買った店なんです」
「あの服を?あ……あやしいお店なのでは?」
「いや、あやしいお店ではないぞ……」
リディアさんの着ている聖女の服を思い出せば、ちょっと怪しいコスプレ店にも見えなくはない。そこに関しては店の名誉の為に否定しつつ、リディアさんは店のトビラを開いた。
「お邪魔します……」
「にゃんにゃんにゃん」
暗い店の中から、ネコのラピスラズリーさんがぼやっと姿を現した。また新たな動物が登場してしまった次第、シロガネさんは恐怖のあまりにエメリアさんの後ろに隠れてしまう。ネコさんの案内に従って店の奥へと進み、カウンターがある場所までやってくる。そこに店長はおらず、代わりに立札があるのを俺たちは知った。
『ラピスラズリー不在につき、ご用件はラピスラズリーへ』
この店の名前も、ネコも店長も、みんなラピスラズリーさんなのだが、ここで用件を告げてほしいと書かれているラピスラズリーさんというのは、きっと俺たちを案内してくれているネコさんを指しているのだと思われた。ちゃんと接客してくれるのか半信半疑ながらも、エメリアさんはヘビについてネコさんへと問いかけてみる。
「言葉、解るんですかね~。探しているのは、ヘビの商品ですよ~」
「にゃにゃん」
エメリアさんが手を広げるような動きを見せると、それにうなづきながらもネコさんは歩き出した。何を探しているのか伝わったのだろうか。天井まで伸びている柱のごとき戸棚の迷路をかいくぐり、お店の更に奥へと進む。ネコさんが立ち止まったところで、そこに置かれているものをエメリアさんは手に取った。
「これは~……ロープですね」
「惜しい……」
「惜しいですわね」
長くて細いという点においては、惜しいといえなくもない。でも、身振り手振りを交えて説明さえすれば、ネコさんにも概ね理解はしてもらえるようだ。今度こそはと、エメリアさんはヘビの写真を見せて説明を始める。
「この生き物に似たものですよ~」
「にゃんにゃん」
写真のにおいをかいだ後、ネコさんは別の場所を目指して薄暗闇の中を歩き出した。道具類の多かったコーナーを抜けて、植物や動物由来の素材が置かれている一帯へと入る。ビンの中に木の枝が入っていたり、カゴには羽毛が入れてあったり。この棚に生えているキノコは……売りものなのかな?もしくは、勝手に生えたのかもしれない。
「にゃにゃん」
「……?」
棚の空いている場所を足がかりとして、ネコさんは高いところへジャンプしていく。そして、上の方にある何かを尻尾で叩いた。黒いものが棚からたれさがり、俺たちの目の前でぶらぶらと揺れた。
「……」
黒くて、長くて、それなりに太い。目は炎を映してキラキラしている。口は開きっぱなし。これは……ヘビの、ぬいぐるみだな。
「かわいいですね。はい。リディア」
「惜しいな……はい。シロガネさん」
「ちょっと……こちらへ渡さないでくださいまし……」
かわいくてもふもふしているぬいぐるみ。それをエメリアさんがリディアさんへ、リディアさんがシロガネさんへと手渡している。形はヘビだけど、ぬいぐるみじゃ魔力はこもっていないだろうな。形は探し物とほぼ同じなので、これも惜しいと言えば惜しい。
「何度も何度もすみませんけど……これじゃないんですよね~」
「にゃんにゃん」
やれやれといった仕草を見せて、ネコさんがエメリアさんの頭の上に飛び乗った。その体重は軽いようで、エメリアさんも身をかがめずに受け止めている。ネコさんが案内に疲れてしまった様子を見せていると、棚の後ろから店主のラピスラズリーさんが顔を出した。
「お待たせしました。ラピスラズリーです。はい」
「あ……勝手にお邪魔しています~」
店長さんが来てくれた為に、ネコさんの仕事は終了した模様であり、エメリアさんの頭の上で丸まって眠ってしまう。そんなネコさんを落とさないよう、エメリアさんも直立姿勢のままアイサツを返していた。エメリアさんはヘビの写真を店長へと差し出している。
「この子を探すのに、ヘビの魔力のついたものを探してるんですけど……あります?」
「ありますよ?はい」
店長は手身近な棚へと手をのばし、箱の中からボロボロの布切れみたいなものを取り出す。ネコさんを頭から落とさないよう姿勢を正しているエメリアさんではなく、それを店長はシロガネさんへと差し出した。
「どうぞ」
「こちらは……?」
「ヘビの脱皮した抜け殻です。はい」
「おおおお……お嬢様。こここ……こちらをどうぞ」
それがヘビの皮だと知り、シロガネさんは恐ろしいとばかりに体を震わせながらリディアさんへと手渡した。言われてみれば、ヘビのウロコっぽい模様がついているな。リディアさんの持つヘビ皮へと、シロガネさんはクリスタルを近づける。わずかにクリスタルの色が灰色に変わった。
「これにて、ダウジングの準備は整いましたわ」
「……店長。ちなみに、こちらはいくらする商品なのですか?」
「ヘビ皮は幸運を呼ぶものです。やや希少なので、5ジュエルとなります……はい」
魔力だけ頂戴すれば皮の方は必要なさそうだけど、リディアさんは買い取る気持ちを見せている。ヘビ皮のスキルを鑑定してみたところ、確かに『ラックプラス』という効果がついていた。運の良さに関しては俺のスキルでも補えない為、持っておく分にはいいかもしれない。
「お嬢様。お勘定はワタクシめが」
「いいのか?ありがとう」
「大した金額ではございませんわ……」
500ジュエルのツボを買おうとしていた人なので、5ジュエルのヘビ皮を買うくらいでは迷いを見せない。しかし、買ったところで、どうやって使えばいいのだろうか。それをリディアさんは店長に尋ねている。
「一般的には、どのように使うものなのだろうか」
「お財布に入れておくとよいかと。はい」
なるほど。解りやすく幸運の指標を得るならば、お金に関係しているものに入れておくのが一番なのは間違いない。リディアさんはヘビの皮を2つに折りたたんで、お財布の奥へと大事にしまいこんだ。
「……」
「……?」
店長は何か言いたげに、リディアさんの目の前で右往左往している。ヘビ皮の使い方を誤ったかとして、リディアさんは恐る恐る声をかける。
「ええと……なにか?」
「本日は、聖女の服装でいらしたようで……はい」
「……」
マントの中がバレてしまい、リディアさんは少し恥ずかしそうである。他に買う物はなさそうだと見て、店長は店の出口へと案内を始めつつ、今回の依頼で探しているヘビについてリディアさんへと語りだした。
「ダウジングをせずとも、あなたでしたら見つけられるはずです。はい」
「そうでしょうか……」
「見つけてもらえるという方が正しいかもしれませんが……着きました。出口です。はい」
お店の出入口が見えてきた。今日は来た時間が早いからか、見送りのネコさんたちは少なめ。店長と3匹のネコさんに見送られ、3人はお店の外へと出た。お財布の中をのぞきながら、リディアさんが店長へと軽く頭を下げている。
「今日も大して買い物はせず、申し訳ない……」
「いえ、用事がなくとも……いらしてください。お待ちしております。はい」
「にゃんにゃんにゃん」
前に来た時より、ちょっと親しげなほほえみを見せて、店長はリディアさん達に小さく手を振った。エメリアさんの頭の上にいるネコさんは眠ったままなのだけど、ネコさんもエメリアさんも特に気にした様子もない。ネコさんを乗せたままにして、お店から連れ出してしまう。
「それでは、お嬢様。ダウジングを始めさせていただきます」
広い通りへと出たところで、シロガネさんはクリスタルにくくってあるヒモを持ち、指先からクリスタルをぶらさげた。目を閉じて集中を始める。その作業に少し時間がかかると見て、エメリアさんがダウジングの信頼性をリディアさんに尋ねている。
「……リディア。ダウジングって、どのくらい当たるんですか?」
「魔力の手がかりさえあれば、大抵のものは見つかる。だが……野外で使うのを見るのは初めてだな」
基本的には、部屋で失くしたものを探す程度にもちいられる技であるらしい。この広い街の中で、どれだけの範囲をカバーできるのだろうか。シロガネさんが目を開き、クリスタルの揺れ動きを追って歩みを開始した。
「こちらですわ」
クリスタルの指し示した方向には……行き止まりがあった。この先に、ヘビがいるのかな。別のルートを導き出し、なんとか回り道をして、行き止まりとなっている壁の裏側へと入ってみる。しかし、そこもまた、なんとも風情のある行き止まりである。
「あの……シロガネちゃん?」
「な……なんですの」
「……行き止まりを数える仕事じゃないですよ?」
「……解っております!」
その後も、あまりにも行き止まりばかりに辿り着くので、別の仕事と勘違いしているのではないかとエメリアさんに言われてしまい、シロガネさんは憤慨していた。ヘビさんがいそうな方向は解っても、道筋までは教えてくれない。まあ……よく考えたら、そうだよな。やっぱり、なかなかうまくはいかないものだ。
第74話へ続く




